地動説が確立されるまで、専門家もだまされた現象でした。
先週、NASAの観測衛星「ソーラー・ダイナミクス・オブザーバトリー(SDO)」が捉えた一連の画像が話題に。月が太陽を通り過ぎる際にちょっと止まって方向を変えるかのような動きが見られました。
え、やだもしかしてこれって宇宙のアルマゲドンの予兆とか? ...いいえ、じつは天文学者には馴染みある錯視でした。
何が起きたの?
SDOは現在、地球を周回する軌道にいることから月の姿を捉えることも珍しくはないといいます。そんななか2019年3月6日に観測されたものはちょっと特殊で、月が太陽面を左から右へ通過(普通)したのち、こんどは逆方向に動いた(普通じゃない)かのように見られたのです。
このことを天文学的に逆行(retrograde motion)と呼ばれていて、NASAによれば「軌道上の異なる地点で、異なるスピードの異なる物体がどう動くかによって、天体が逆方向に動いて見える」ことがあるのだそうです。
逆行について、昨年のEarthSky で天文学者のChristopher Crockett氏が次のようにわかりやすく説明しています。
ご自身でも確かめていただける方法があります。高速道路で車を追い越すときです。自分の車よりも遅く走る車にだんだんと近づくとき、走っている方向はまちがいなく同じですよね。ところがレーンを変えて追い越そうとするとき、ほんの一瞬だけ相手の車が逆方向に動いて見える点があります。その後、前進し続けるにつれてまた同じ方向に走っているのがわかります。
同じことが地球よりも遅い動きをする外惑星にもいえます。たとえば、地球が木星や水星、土星を追い越すとき、これらの外惑星は自らの軌道上を地球よりもゆっくりと動きますが、空を数ヶ月にわたって逆方向に動いて見えます。
今回、SDOは月との距離が近かったためこの現象がみられたのは数分間ほどでした。
月が方向を変えるのではなく、SDOが地球の軌道上で動いていることで起きる視覚効果。NASAによって以下のように図解が示されています。
毎秒およそ965mで移動する月に対して、太陽を背に毎秒約3kmのスピードで動いていたSDOが月の影に入った瞬間を捉えることができました。
その昔、地球が宇宙の中心だと考えられていた頃はこの逆行という現象が多くの天文学者たちを混乱させたといいます。地球の周りの軌道上にあると誤認されていた惑星の不規則な動きを説明するのに専門家らによってさまざまな定説が整理されましたが、宇宙の中心を太陽と考える地動説まで誰もその謎を解くことはできなかったとされています。
Source: NASA