『社会人1年目の教科書 「伸びる人」の習慣 「伸びない人」の習慣』(菅沼勇基著、クロスメディア・パブリッシング)の著者は、時代が大きく変化していることを認めたうえで、「時代がどのように変わっても、決して変わらないこともあります」と主張しています。
どんな仕事をしていても、20代のうちが社会人として最も成長する時期であるということ。
人間には、成長期というものがあります。
体でいえば、たいていは小学校高学年から中学生のうちがもっとも伸びが大きい時期。精神面でいえば、中学から高校、大学へと進む過程でグッと成熟することになります。
同じように、仕事に関していえば、もっとも伸びしろがあるのは20代のうちだということ。
30代・40代で仕事を苦痛なものにしないためにも、20代の時期が大事です。
この時期に仕事の「基礎訓練」をやっておけば、30代・40代で何かまったく新しいことを始めたり、難しいことにゼロから向き合わなければならないという事態にはなりません。
20代で自分なりの「仕事の公式」が確立できれば、30代・40代はその公式に当てはめていくことで、ほとんどの仕事はうまくできます。それまで培ってきた基礎を少し変化させるだけで対応できるようになるのです。
だから、まったく異分野に転職しても問題なくやっていけます。もちろん、規模の大きな仕事もできるようになっていきます。(「はじめに」より)
だからこそ、20代のうちは手を抜かず、1から10まできちんと筋道を立て、自分の頭で考え、自分の手を動かして仕事をすることが大切だということ。
逆にいえば20代を怠けて過ごしてしまった人は、仕事の基本がおろそかになっているため応用が利かないわけです。
著者は、若手経営者として第一線で活躍する人物。本書においてはそのような立場から、社会人1年目の若手に必要な仕事術を明らかにしているのです。
きょうはそのなかから、第4章「『成長』って何だ?」をクローズアップしてみたいと思います。
成功体験
人が成長するにあたって、大きな意味を持つのが成功体験。
著者によれば、成功体験をいつまでもしないでいると「学習性無力感」に陥ってしまうことが心理学の研究でわかっているのだとか。
この学習性無力感とは、努力を重ねても結果が得られないことが続くと、なにをしても無意味であると学習してしまうことを指すのだそうです。
学習してしまった結果、「努力ができない体質」になっていくということ。
いうまでもなく、そうした状態に陥ってしまう原因は、なにをしても自分が望むような結果が得られないという経験の積み重ねです。
そして、そのような状態になってしまうのは、求める「結果」のレベルが高すぎるからなのだといいます。
最初から大きな結果を得ようとすると難易度も高くなるため、失敗の可能性もまた高くなります。
そこで最初は大きな結果を望まず、小さな「できたこと」を自分のなかに貯めていくようにする必要があるというわけです。
自分のなかに小さな成功体験が貯まっていくと、おのずと次のステップに挑戦しようという気になってくるもの。
それも達成できたとしたら、さらに大きなステップに進もうと思うことが可能。
こうして「努力を続ければ、必ず結果は出る」ということを学習することによって、自然に「やればできる」と思えるようになっていくということです。
そのためにも、重要なのは、大きな目標を掲げながらも、小さな目標(To Do)を日々こなす中から、小さな成功体験を貯め込んでいくことです。
小さな成功体験を繰り返すことで、小さな自身を貯めていきます。それがやがては大きな成功体験による大きな自身へと拡大していくのです。(148ページより)
なかには、自信を持つ前に離脱してしまったり、会社を辞めてしまったり、逃げ出してしまったりする人もいます。
しかし大切なのは、どんなに小さなことでもいいから、自分で目標を定め、やり抜いた末に達成すること。
著者も、そんな経験をできるだけ若いうちにしておくことを勧めています。(147ページより)
結果への執着
いまの時代は高度経済成長期のように右肩上がりで数字が伸びていく時代ではないため、仕事で成功体験を得にくくなっているのは事実。そのため、目標はわかりやすい指標を物差しにするといいそうです。
到達点がわかりやすいほうが、達成感も得やすく、それが成功体験にもなりやすいということ。
どこにチャンスが転がっているかわからないからこそ、どこでも全力でやることが大切だという考え方。
2カ月でも3カ月でも「結果を出すこと」にこだわってやってみるべき。
その結果、数字も上がってくると、「こうやってやればいいのか」というコツのようなものが得られるということです。
わが社の社員にも、成功体験を得てもらいたいので、それができる仕組みを考えています。 たとえば、賃貸の部門の外回りで100社回って名刺を交換してくるといったことです。
とにかく不動産会社と思われるところに行って名刺を集め、1週間で誰が最も多くの名刺をゲットできるか、ゲーム感覚でやってみるのです。
それが評価とか賃金に結びついていると重苦しい雰囲気になってしまいますが、もらった名刺でどうこうしようというわけではなく、「最初は無理だと思っていたけど、やったらできた」という経験をしてもらうのが目的の、1週間だけのゲームです。(155ページより)
最初から大きな目標である必要はなく、小さなものでOK。他人の評価も関係なく、自分のなかで完結していればいいということです。
成功体験こそが、自分の成長を促してくれるのだと著者は強調しています。
「自分ならできるはず」という感覚が得られたら、そこから先は勢いをつけて成長していけるだろうとも。(152ページより)
質と量
とはいえ仕事の原理原則を身につけようとしても、最初からスマートにはいかないもの。
たくさんの量をこなすなかから、「質を上げるためのコツ=仕事の原理原則」がわかってくるということです。
私も最初は、上司から「飛び込み営業に行ってこい」としか言われませんでした。最初からあれこれ考えてやらないでいるより、まずはやってみる。
それもたくさんの量をやってみることです。
その中で「こんなに何十件も飛び込み営業をするのはいやだな」と思ううちに、質を高められるアイデアが出てくるものです。
量をこなさないうちから出てきたアイデアを「机上の空論」と呼びます。
まず量をこなす中からアイデアを考える方が、結局、早いというのが私の持論です。(157~158ページより)
重要なのは、泥くさい仕事のなかには、なにかが埋まっているはずだと考えて仕事をすること。それができるのは、若い時期の特権なのです。(157ページより)
仕事の知識
成長するにあたっては、「かけていい時間」と「かけなくていい時間」があるもの。自分で調べるのに時間をかけるよりは、人に聞いたほうが短時間で済ませられることも少なくないわけです。
そして、わからないことがあるとき、人に聞ける人の方が短時間で成長していくものだと著者はいいます。
インターネットでいろいろなことを調べられることもあり、いまの時代は、わからないことをわからないとい追いにくい雰囲気があるのも事実。
しかし、聞いてみればすぐに解決できることは多いわけです。
それにインターネットに出ている情報などは漠然とした一般論であることも少なくなく、仕事に必要な本質的な情報を得られるとは限らないものでもあります。
知識には、「暗黙知」と「形式知」というものがあります。一般化されたものが形式知ですが、形式知で推し量れない、奥深い真髄のことを暗黙知といいます。
そして本当に意味のある情報は、多くの場合、暗黙知であるのです。
「こういう例外もあるから気をつけろ」という経験に基づいた知見や、相手の質問の意図だったり、行間を読んだ上で、「これはこうだよ」と教えてくれたりするものが、本当に価値ある情報なのです。(166ページより)
そうした価値ある情報を引き出すのが「人に聞く」という行為の意義であり、それはとうていインターネットで調べられるようなものではないということ。
形式知が役に立つのは、仕事のほんの表面の部分だけだと思っておく必要があるわけです。
とはいえ、聞く相手と聞く内容は選ぶ必要があります。たとえば、仕事のまったく基本的なことを社長や部長に聞くのはお門違いというもの。
しかし数年上の先輩になら、そうしたことを聞いてもまったく問題はありません。
入社1年目は、どんな基本的なことでも聞いて恥ずかしくない時期。身近な人に聞くことは、新人の特権ともいえるのです。
入社2年目になったら、自分で少しは調べたうえで、それでもわからないことを聞くようにするべき。
「ここまで自分で調べたのですが、ここから先がわからないので教えてください」という聞き方をするわけです。そうすれば尋ねられたほうも、「がんばっているな、教えてやろう」と思ってくれるもの。
入社3年目になったら、そこからもう一歩進み、「自分はこう考えているのですが、このやり方で合っていますか?」というように、「自分の考えをまとめてぶつけてみる」といった聞き方が必要になってくるといいます。
相談に近い形になりますが、聞かれたほうも「頼りにされている」と感じ、悪い気はしないものです。
質問をするときはポイントを押さえることが必要ですが、それができるようになるには、「聞く」ことの場数を踏むこともまた必要。
だからこそ、新人のことはどんどん聞くべきだということです。
ポイントを押さえるとは、本当に自分が知りたいことを、具体的に、ピンポイントで聞くということです。そうすれば相手も答えやすいはずです。
そうでなければ、どこから説明していいかわかりません。
ポイントを押さえて、「だからあなたに聞きたい」という点が見えたときに、ああそうかと、気持ちよく教えてくれるのです。(169ページより)
そうでなくとも、聞いてくる人を邪険に扱う人はいないもの。頼りにされていやな気分になる人はいないのですから。
だから、どんどん聞いていいということなのです。(165ページより)
「仕事とはなにか?」と問われたら、著者は「人生そのもの」と答えるそうです。そもそも多くの人は、人生の大半の時間を仕事に費やすもの。
だとすれば、その時間がつまらなければ、人生そのものがつらく苦しいものになってしまいます。
しかし仕事は、人生に必要なことをすべて教えてくれるものです。プライベートにも活かせる人間の本質や道理を学ぶことができ、自身を成長させ、人生を充実したものにしてくれるということ。
そうであるからこそ、奥深い仕事の世界にどっぷりつかってみるべきだと著者は主張するのです。
社会人になって、あるいはなろうとしているタイミングで迷いを感じている方にとって、本書は参考になることでしょう。
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Photo: 印南敦史
Source: クロスメディア・パブリッシング