3月12日にライフハッカー[日本版]と渋谷にある書店「BOOK LAB TOKYO」が共同で開催したイベント、「『たとえる力』でコミュニケーションが劇的に変わる!」

ゲストに『たとえる力で人生は変わる』の著者でありマーケターの井上大輔さんをお招きし、本書には書かれていなかった「抽象化する力」についてお話を伺いました。Twitterやnoteでバズる伝え方も優れたリーダーの共通点も「抽象化」で説明がつく理由とは? イベントの内容をレポートします。

井上大輔|Twitternote

マーケター。アウディ、ユニリーバ、ニュージーランド航空などでデジタル&マスマーケティングのマネージャーを歴任。週刊東洋経済にて「マーケティング神話の崩壊」連載中。著書に「デジタルマーケティングの実務ガイド」「たとえる力で人生は変わる」

言語化がうまい人に共通する4つの能力

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Photo: 島津健吾

Twitterやnoteなど個人がメディアになりつつある昨今。難しいことをわかりやすく伝える能力は、仕事以外でも必要な能力になりつつあります。しかし、実際には何をどうすれば「伝え上手」になれるのでしょうか?

一見、「ボキャブラリーの豊富さ=伝える力の源」だと思いがちですが、井上さんは次の4つの能力が重要だと言います。

1.解像度:世の中をよく観察する

2.抽象化能力:複数の事に共通する何かを見つける

3.共感力:伝える相手をよく理解する

4.表現力:分かりやすく表現する

ボキャブラリーに関するところは、表現力の部分にあたり、それ以外に3つのステップがあるそうです。「インフルエンサーを見ても、この4つの能力が優れていると思いますね」と言うように、表現力だけに注力しても伝え上手にはなれないことがよくわかります。

そこで、解像度と抽象化能力が重要に。井上さんは次のように解説しています。

解像度は世の中の具象を観察する際の精度。ハンバーガーでいえば、マクドナルド、ロッテリア、モスバーガーなどの具体的なハンバーガーを観察し、それぞれの特徴を押さえる力です。一方、それぞれ異なるハンバーガーに共通点を見い出し、ハンバーガーの本質を見極める力が抽象化能力です。

イベントでは特に、複数の事象に共通点を見つける力「抽象化能力」に着目。「抽象」という言葉の本質的な意味や、「抽象化能力」の鍛え方について深掘りしていきました。

「抽象的」と「具体的」の関係性

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Photo: 島津健吾

「説明や指示が抽象的。もっと具体的に」というように、抽象的という言葉はネガティブな意味、具体的というのはポジティブな意味で使われることが多い。しかし、井上さんは、抽象的な説明のほうが独創性が出るとし、その重要性を解説しています。

「具体的な説明」の典型例はマニュアルです。たとえばマクドナルドのマニュアル。パティを焼く時間、バンズの挟み方、ケチャップの量など細かく指定されています。そのほうがわかりやすいし、味も均一化するメリットもありますが、独創性がなくなるという弊害もあります。

一方、肉を入れる、パンに挟む、ソースを入れるなどの「ハンバーガー性」が失われるギリギリのところまで抽象化してみる。肉をボール状にして粉々にしたパンをまぶしたら、「それはもうハンバーグじゃないよね、ハンバーガー性が失われちゃってるよね」と考えていく。

抽象化された指示を聞いた人は、味噌を入れるなど独創性の高いものを作る可能性があります。

本質を伝えた上で、新しいものを作ってもらうというのが重要で、説明も抽象的であるべきだと思います。

このように抽象的という言葉は、一見ネガティブに見えますが、本質を捉えた状態であれば、ポジティブな意味となります。ただ気をつけないといけないのが、抽象的に伝えると言うことは適当に伝えるとは違うということ。

つまりは何も考えずに適当な指示をするのではなく、本質を捉えた上で抽象的な指示を出す必要があるということです。口で言うのは簡単ですが、具体的にどのように本質を捉える力を高めればいいのでしょうか?

抽象化能力は数学で鍛える?

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Photo: 島津健吾

鍛える方法についても2つ紹介がありました。1つは、意識して実践すること。筋トレも鍛えたい部位を意識するといいと言いますが、抽象化能力も同じように普段から意識しておくといいとのこと。一見異なる物事の共通点を見つけ、本質を見極められるか? 「車と自転車」「電車と地下鉄」など、身近な題材を元に日頃からトレーニングするといいでしょう。

もう1つは、数学を勉強するということ。「なぜ小学校や中学校で数学を勉強したかわかりますか?」と、井上さんは数学の必要性をこう説明しています。

数学は世界中で基礎教育に採用されていますが、数学者で教育者の友人に聴くと、あれは抽象化を学ばせるためなんだと。数式や計算を学ぶというのはあるのですが、本質的には数学は究極の抽象化なんです。たとえば、円には大きな円もあれば小さな円もあります。

その共通点というのは、半径×半径×3.14でかけたら面積が求められるということ。これが抽象化ということなんですよ。

数学というと公式を覚えて、計算するだけの学問というイメージがありました。中学校や高校で学んだ数学の知識を生活で使うかと聞かれたら、Yesとは言えません…。しかし、数学を勉強する裏側には「本質を見つける力」「共通点を見つける力」を伸ばす意図があったと言われると、確かにと納得してしまいました。

幸いなことに、「大人になってから学び直しても効果があると思いますよ」とのことなので、抽象化のトレーニングとして数学を学び直してみるのはいいかもしれません。

抽象化能力はあらゆる事象を分析できる

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Photo: 島津健吾

イベントの後半は、抽象化能力の練習としてワークショップを行ないました。お題は「ヤバイの本質とは?」「拡散されるノートやTweetの共通点は?」「ついていくリーダーの共通点」の3つ。それぞれ5分ほどの時間が参加者に与えられ、最後に参加者と井上さんが意見を発表するというものでした。

それぞれ、参加者と井上さんの間でおもしろい意見が飛び交っていたのですが、「拡散されるnoteやTweetの共通点は?」というお題の中で、井上さんの抽象化能力が垣間見えたので紹介したいと思います。

井上さんは、去年の4月にTwitterをはじめ、拡散されるnoteやTweetの検証をはじめたそう。1000以上いいねがついたTweetはスクショで残し、noteも30日間毎日書き、その中で拡散されるものとされないものの共通点を探しました。そしてわかったのが、「ストーリー→共感→自らの過去の体験の追体験→学び」の流れで書くことが、バズるためのフォーマットであるということ。

評判の良かったnoteが、アウディを辞めるときの話です。転職するということになって、お世話になった営業さんから連絡を受けたんですね。

3タイプの人がいて、タイプ1は「後任の方を教えてください」という人。タイプ2は、「新しい行き先でも一緒に仕事したいです」という人。

タイプ3は、「お疲れ様でした。とにかく飲みましょう!」という人。

このタイプ3の人は私を役職ではなく人として見てるんですよね。結局転職しても付き合いが続いているのはこのタイプの人。そんなことをnoteに書いたらとても評判が良かったんです。

この記事にはストーリーがある。ストーリーが共感を生んで、自分の過去の似たような体験を思い出させてくれ、そこに学びの光をあててくれる。大事なのは「自分の体験になる」ということと「それに対してなんか言いたくなる」ということだと思います。

ここまで抽象化できれば、この後のnoteもこのフォーマットに乗っ取って書けばいいということになりますよね。

この話の中で、井上さんが解像度と抽象化能力を日頃から意識していることがよくわかりました。

解像度でいえば、毎日Tweetする、毎日noteを書くことで事象を観察。そして、バズったTweetやnoteの共通点を抽象化能力で検証し、法則を見つける。これは私たちでも簡単にはじめられる、筋トレだと思いました。

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やばいの本質について話す参加者の男性。明瞭な回答に会場が納得。
Photo: 島津健吾

また、「ついていくリーダーの共通点」という問いに回答できるのも、抽象化能力の1つ。井上さんはまわりの優れたリーダーを見て、3つの共通点を見つけたそうです。

・「おもしろい」か「かわいい」

・人との接触頻度が高い

・土壇場で裏切らなそう

特に人が付いてこないリーダーは、「人と会っていない」と言います。単純接触効果というのがあり、これは 毎日会っていると一言も言葉も交わさなくても愛着が出てくるというもの。コミュニケーションが下手でも、「毎日会っていれば親近感が勝手に湧いてくる」そうですよ。

30代、40代と年齢が上がっていくにつれて、部下を持つ人も出てくるでしょう。そんな時、優れたリーダーになるためには?という疑問が湧いてくるはず。まわりのリーダーを観察し、共通点を見出すというのも「抽象化する力」のなせる技と言えそうです。

今回登壇していただいた井上さんの著書『たとえる力で人生は変わる』は、ライフハッカー[日本版]で書評も出しています。本書の内容が気になる方は、あわせてお読みください。

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Photo: 島津健吾

Source: Peatix