Tombotのロボ犬はこころの救世主かもしれない

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  • author Andrew Liszewski - GIZMODO via Kickstarter via Technabob
  • [原文]
  • 中川真知子
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Tombotのロボ犬はこころの救世主かもしれない
GIF: Tombot (Kickstarter)

ロボ犬、必要とされています。

もう他界しましたが、我が家には介護福祉士さんからも同情されるようなキッツーイ性格の認知症の祖母がいました。でも、一瞬だけ、祖母が本来の愛情深さを取り戻したことがありました。それは、私が生まれたばかりの息子を連れて実家に戻った時です。

小さな赤ちゃんを見た瞬間からニコニコと穏やかな表情を浮かべて心を落ち着かせていました。しかし病のせいで感情のコトントロールが効かない祖母は、物言わぬ赤ん坊に暴言を吐き始めました。なので、その一瞬しか息子と祖母を接触させませんでしたが、赤ちゃんの癒し効果をハッキリと目の当たりにしました。

しかしだからと言って、暴言や暴力を振るう可能性のある人に小さな赤ちゃんや生きた動物を犠牲にするわけにはいきません。そこで、必要となってくるのがコンパニオン・ロボットという存在です。

Tombotという会社は、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)向上のために人間の行動に反応するコンパニオン・ロボットのゴールデンレトリバーを開発するために、Kickstarterで資金調達中。すでに目標金額200万円の倍以上である420万円を集めているんです。

注目すべきは、マペット作家のジム・ヘンソンが創設したジム・ヘンソン・クリーチャー・ショップの中の人が開発に携わっているということ。限りなく本物に近いロボット・ドッグにしたようですよ。

ロボット犬が開発された経緯

Video: Thomas Stevens/YouTube

TombotのCEOであるトム・スティーブンス氏の母親は2011年にアルツハイマーと診断されたそうです。いろんな大変なことがありましたが、最も辛かったのは母親から2歳のゴールデンドゥードル(ゴールデンレトリーバーとプードルのミックス)を取り上げたことだったそうです。その犬は里親が見つかったそうですが、親友とも言える犬がいなくなってしまった母親の心は荒れてしまったそうです。犬と母親のために良かれと思ってした行動でしたが、結果的に母親を悲しませてしまったことに心を痛めたスティーブンス氏は、人と犬の関係が心にどう働きかけるのかを科学的に研究することにしたそうです。

また、認知症の行動と心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)を深く学び、自分の母親と彼女のような症状を持つ人たちの心を和らげるために、リアルでお手頃価格なコンパニオン・ロボット犬をつくるTombotをローンチしたそうです。

プロトタイプのジェニーは他のロボ犬とは異なり、本物の犬のように見て、感じて、行動するようにデザインされています。ジェニーはタッチセンサーで覆われていて、どの部分をどんな風に触られているのかを感じて、それに応じて反応するようになっています。音声にもしっかり反応します。骨格も動きも表情も本物そっくり。犬は尻尾の動きで感情を表現しますが、ジェニーも例外ではありません。内蔵スピーカーから本物の子犬の声が発せられます。

インタラクション・データを追跡することができるので、いつどのように触られたのかを介護者が把握することも可能です。ジェニーは低刺激で抗菌性の物質で作られている上に、絶対に噛み付くことはありません。認知症を患う高齢者のQOLのために開発された救世主的ロボ犬なのです。

ロボット犬は本当に犬の代わりになるか

しかしここで疑問が出てきます。ロボットの犬は生きた犬の代わりになるのでしょうか? ジム・ヘンソンのクリエイティブ・スーパーバイザーであるピーター・ブルックやアニマトロニクス・スーパーバイザーのジョン・クリスウェルの手を借りてリアルに近づけようとする努力はすばらしいと思います。

最上級マペットデザインに加え、映画やテレビでも使われるリアルなクオリティのアニマトロニクス・アニマルを作っていることからも、スタジオの技術はお墨付きですしね。クリーチャーの動きにも精通している彼らが作り出す動きはリアルそのものと言えるでしょう。

しかし、デザインの上で人を納得させられるだけのロボット犬と、実際にカスタマーの元に届けられて満足させられるロボット犬の間には大きな開きがあります。クリーチャーショップのアニマトロニクスは、通常、セットの上だったりテーマパークでのパフォーマンスを重視してデザインされます。そういったアニマトロニクスは、サポート用のケーブルが観客から見えない位置に流れていたりします。

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GIF: Tombot (Kickstarter)

一方、Tombotのロボ犬は、すべてが体の中に埋まっていて、バッテリーで動く必要があります。そして時には、雑な扱いをするかもしれないユーザーと相互コミュニケーションを取らなければならないのです。Kickstarterに掲載された動画を見る限り、声に反応するようですが、本物の犬というのは、人間のアクションに対して反応を見せるだけでなく、自らも人間にちょっかいを出したり要求してきたりするものです。そういったコミュニケーションがペット(特に犬)を飼う醍醐味だと思うのですが、そう言った部分をカバーできるものなのでしょうか。

既存のライバルに勝てるのか

ロボット犬といえば、20年前に発売されて以来改良を続けてきたSonyのAiboを思い浮かべる人は多いでしょう。パーツ交換や故障が原因で動かなくなると葬式をする人がいるほど愛されるロボットペットです。一時期下火になりましたが、2017年終わり頃にデザインがアップデートされて再び人気を取り戻しました。Aiboのお値段は2900ドル(日本では本体が19万8000円)と比較的高額で、スマートとは言い難い知能ですが、座って撫でられて反応するTombotのロボ犬よりも、Aiboの方がよりインタラクティブです。

また、高齢者を対象としたケア・ロボット・ペットはTombotのロボ犬が初ではありません。コンフォート・センサーを搭載したParoというアザラシ型のロボットペットがアルツハイマーのような病を持つ患者のために開発されています。それに、Hasbroが100ドル(約1万1150円)のJoy for Allという、インタラクティブなロボット猫やロボット犬を販売しました。

介護現場とIT

介護現場で活躍することを目的として開発されたロボットもありますが、介護用でもないのに介護現場で大活躍するITもあります。例えば、スマートスピーカー。先月、Twitterユーザーの中野湧仁 #STOP電話de詐欺さんがこんな投稿をしました。

「認知症の祖母に新しい家族をプレゼントしました。 祖母は「アレクサ、今日何曜日?」と何度きいても、アレクサはちゃんと答えてくれる。 スマートスピーカーって実用性あるのか疑っていたけど、間違いなく介護業界には役立つと確信した。」

決してイライラすることなく、認知症患者の繰り返される質問に嫌な顔なく答えてくれるスマートスピーカーは、まさに介護現場の救世主! 目からウロコの活用法だと思いました。

愛することを教えてくれる「Lovot」もいい働きを見せてくれそう。寂しさを埋めてくれるのは、家族ではなく案外ロボットなのかも…。

もちろん、CES 2019でデビューしたElli-Qと呼ばれる専用タブレット併用型対話ロボットのように、高齢者が友人や家族、世の中と簡単にコミュニケーションを図れるようになることを目指したデバイスも大いに力を発揮してくれるでしょう。スマートスピーカーのように受動的ではなく、能動的に働きかけることで「コンパニオンのような」存在になってくれるのがうれしい。こちらは1500ドル(約16万7000円)と少々お高めですが、与えてくれるものを考えれば、むしろ安いと言えるかもしれません。

効果に期待したいTombotのロボ犬

介護現場にコンパニオン・ロボットを入れることをチートと考える人もいるかもしれません。特に、実際に介護をしていない人は「介護者は愛情を持って扱え」だとか「家族なんだからもう少し我慢して」なんて無責任に追い詰めたりすることがあります。TombotはKickstarterで資金集めに成功。これはニーズの高さと、認知症患者の心の問題をケアすることの難しさを表しているのだと思います。

Tombotが本当にリアルな犬の代わりになれるかは疑問が残りますが、ぬいぐるみや赤ちゃんの形をした人形と密な関係を築く患者がいるのも事実なので(万人に受け入れられるとは言いませんが)これだけ相互コミュニケーションが図れるのであれば、十分コンパニオン・アニマルとして機能すると期待できるかもしれません。

予定リリースは2020年8月、予定販売価格は500ドル(約5万5700円)とお手頃です。現時点でKickstarterのサポートで手に入れられるのはアメリカ国内のみとなっています。正式に発売されるようになったら、日本でもリリースしてほしいですね。

Source: Kickstarter, technabob