突然ですが、みなさんは「サイバスロン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

サイバスロンは体に障害を持つ方が参加する国際競技会のこと。選手が障がい者というのは共通していますが、パラリンピックとは異なる特徴と目的を持っています。

後援するのは、在日スイス大使館科学技術部次長の鈴木恭子さんIBMのWebメディアMugendai(無限大)に登場し、サイバスロンの成り立ちや意義、展望について語られていました。

パラリンピックとの違いとは

サイバスロンをひとことで表現すると、「障がい者先端技術を応用した車いすや義肢などを用い、日常生活で直面するさまざまな困難をクリアする」という競技です。

発祥はスイスで、リハビリ器具や義手・義足などの研究をしているロバート・リーナー教授によって発案されました。

教授は「世界には素晴らしい技術がたくさんあるのに活用されていない。技術や障がい者と接点のない多くの人に知ってもらい日常生活に役立ててもらうことができないか」と思案した結果、エンターテインメント性のあるレース形式にするという発想を得たそうです。

障害を持つ方の競技大会といえば、やはりパラリンピックが思い浮かびます。鈴木さんもその違いをよく聞かれるそうで、インタビューの中で以下のように語っています。

パラリンピックが「人は、肉体と精神をどこまで突き詰められるか」を競い合うものであるのに対し、サイバスロンは「技術と人が協力し合い、いかにして、日常の課題を克服するか」を競い合うものです。

競技では、機械や装置を操縦する「パイロット」と呼ばれる障がいのある方だけが、あるいは技術者だけが、がんばってもダメで、チームワーク協働がそこになくてはならないのです。

「日常の動作」こそ実は難しいという気づき

サイバスロンには6つの種目がありますが、それらはみな、電球を回し入れたり、缶詰のふたを開けたりといった私たちが普段行う動作ばかり。

少し意外に思えますが、割れやすい電球を絶妙な力加減で握る、缶切りに適度な力を入れ角度を調節しながら抜き取るなど、人間の動作は多くのことを同時に繊細な動きで行う高次元のもので、機械には大変難しいことなのだそう。

鈴木さんご自身も、車いすレース時の「テーブルに着く」という課題を例に挙げ、「テーブルは多種多様な高さやデザインを持つため、それ自体がそもそも難しいことなのだ」という気づきを得たと語ります。

技術者と利用者の開発でのすれ違いを防げる

在日スイス大使館次長の鈴木恭子さん
Image: Mugendai(無限大)

技術開発の現場でよく耳にする課題として、優れたものを開発したいと考える技術者と、実用的でないと考える利用者での乖離が挙げられます。鈴木さんは、こういったすれ違いを防ぐためにも、サイバスロンは非常に役立っていると語ります。

例えばパワースーツの開発を行っていたときのこと。鈴木さんいわく、技術者は必ず「電池の寿命」を気にするといいます。一般的な製品では、小型で軽量、長寿命の電池を作るべきだと考えるためやむを得ないともいえます。

でも、実際のサイバスロンの現場では、人間の方が疲れてしまうため2~3時間もあれば十分だそう。実用の場では、そんな所で「高スペック」は不要ということを知ることができます。

さまざまな立場の人の交流から良いものを生み出せる場に

サイバスロンで競技を行う選手の様子
Image: Mugendai(無限大)

鈴木さんは、サイバスロンを通じて、障がい者と健常者、技術者と利用者など、さまざまな立場の人が交流することで良いものが作れるとして、以下のように語っています。

早い段階から技術者と障がい者が一緒に議論しながら開発していくことが重要です。無駄に高機能なものを作るのではなく、役立つものをできるだけ早く入手しやすい価格で1人でも多くの人々に使っていただきたいのですから。

一般の方と、開発エンジニアやパイロットの皆さんが交流できる場を設けることも、サイバスロンでは重要視しています。技術者研究者障がい者一般の方を結び付けることが目指す社会の実現に大事だと考えるからです。

障がい者のみならず、高齢者や介護現場にも役立つ技術開発が期待されるサイバスロン。東京五輪に先駆け、2019年5月川崎で車いすシリーズが開催されるそうです。事前登録が必要ながら入場は無料

大会の詳細や、より深くサイバスロンの魅力を知りたい方は、続きをMugendai(無限大)よりお楽しみください。


Image: Mugendai(無限大)

Source: Mugendai(無限大)

Reference: Cybathlon Series Japan