カメラレンズもアスペクト比も80年代と同じ。映画『バンブルビー』トラヴィス・ナイト監督インタビュー

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  • author 中川真知子
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カメラレンズもアスペクト比も80年代と同じ。映画『バンブルビー』トラヴィス・ナイト監督インタビュー
Image: ©2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO,TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro.©2018 Hasbro.

その昔、映像業界で働いていた私に上司が言いました。「ストップモーション・アニメーションを知っている人の作品は一味違う。その人がつける動きに叶うアニメーションはない」と。

『トランスフォーマー』のはじまりの物語を描いたトラビス・ナイト監督の初実写映画『バンブルビー』は、当時の上司が言った通りの作品でした。本当に一味違う!

今回ギズモードは、監督のトラヴィス・ナイトにインタビューしてきました。トラヴィス・ナイトといえば、私が大好きなストップモーション・アニメーションスタジオ「ライカ」のCEOでアニメーター、『クボ 二本の弦の秘密』の監督です(実はナイキの会長の息子で自身もナイキの取締役でもある)!

というわけで、たくさんお話を伺ってきました!

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Photo: ギズモード・ジャパン

アニメーション畑から初の実写映画へ

──初の実写作品となりましたが、監督の話が来た時にどう感じましたか?

トラヴィス・ナイト(以下トラヴィス):『クボ 二本の弦の秘密』を公開したら、いろんな人から声がかかるようになったんだ。『トランスフォーマー』の製作陣からも連絡があって、「『トランスフォーマー』の最新作で監督をやらないか」と打診されたんだよ。何かの間違いだと思ったね。だって、マイケル・ベイがやってた過去5作の『トランスフォーマー』シリーズは、僕のテイストとは全然違うだろう。でも、スタジオ側と話した時に、彼らがシリーズの方向性を変えたいと思っていることを聞いたんだ。僕の哲学を作品の中に入れることにも積極的な姿勢を見せてくれた。

僕は、素晴らしいアクションやカーチェイスは残しつつも、物語のコアな部分には「本物の感情」を入れたいと思った。彼らはそれに興味を示してくれたんだ。夢が叶った瞬間だったね、本当に。だって僕は子供の時からトランスフォーマーのキャラクターが大好きだったから。10歳の頃の自分が見たかったストーリーを銀幕で再現できるなんて素晴らしい機会をもらったと思ったよ。

だけど同時に凄く怖かった。だって、これまで 一度もそんなことはしたことがなかったんだから。興奮と恐怖が表裏一体だったよ。でも、作っている時はひたすら楽しかった。すべての瞬間を心から楽しんだよ。

──ストップ・モーション・アニメーターとしてのキャリアが今回の作品作りにどう影響しましたか

トラヴィス:すべてにおいてアニメーターとしての見方が役に立ったよ。中心となるふたりのキャラクターは、片方はヘイリー・スタインフェルド演じるチャーリーという生身の人間だけど、もう片方は0と1で構成されたデジタルなオブジェクトで存在しないんだから。作品の主役のひとりがアニメーションのキャラクターということで、アニメーターとしての感覚がバンブルビーに命を吹き込む上で重要だった。

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Image: ©2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO,TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro.©2018 Hasbro.
表情を見ればどんな心境かわかる。

僕にとって大切だったのは、観客がバンブルビーをVFXで作ったギラギラのキャラだと認識しないことだったんだ。観客には、バンブルビーを感情のある、頭で考えるクリーチャーと感じて欲しかった。痛み、悲しみ、喜びを感じるキャラクターだと思って欲しかったんだ。それを実現するのがアニメーターの力量だよ。

想像力と経験を駆使して、ほんの些細なディテールを動作に加えていくことで感情を再現しないといけなかった。ましてバンブルビーは自分の言葉で喋ることができない設定だから、姿勢や動きといったボディーランゲージや表情でコミュニケーションを取らないといけない。アニメーターは人間の動きや動きで表現する感情といったものを勉強して、バンブルビーというコンピューターで作られたクリーチャーに命を吹き込んだんだ。僕はこれをずっとやってきた。

この映画には僕にとっての初めてが山ほどあったけど、アニメーターとしての仕事は僕がずっとやってきたことだから、この映画のバンブルビーを生んだことに関しては心地よさを感じていたよ。

トランスフォーマーのオモチャで遊んだからこそのギミック

──バンブルビーがトランスフォームするシーンが、オモチャのトランスフォーマーのギミックに基づいていてとても納得できました。あれは監督の考えですか?

トラヴィス:そうだね。僕らは何度もトランスフォーマーがトランスフォームする様子を過去のシリーズで見てきているよね。今作では、バンブルビーが物理的にトランスフォームする様子を描きたかったんだ。しかも、感情を反映するような。

作品の中で、バンブルビーは何度かトランスフォームするわけだけど、その仕方は物語が進むにつれて変わっていくんだ。最初はオドオドしているけど、ラストでは、威風堂々と流れるようにトランスフォームする。再び戦士となったバンブルビーを見ることができるんだ。でも、戦士といっても、任務のために戦うんじゃない、愛のために戦うんだ。だから、そのトランスフォームする様子でさえ、愛のためという裏付けと感情の変化が見えるんだよ。

──深い、深いですね…。感情面とは別に今回のバンブルビーの変身は、オモチャで遊んだ記憶が呼び起こされて本当に嬉しかったです。ドアがあそこに移動して、顔は腹部に埋められてて〜って見ていて大興奮でしたよ。

トラヴィス:そうなんだよ! チャーリーが初めてバンブルビーの存在を発見した時なんて、車の下に潜ったらバンブルビーの顔と「こんにちわ」だからね。オモチャで遊んだことがある人はわかるんだけど、トランスフォーマーのおもちゃの多くは顔がお腹に収まるようにできているんだよね。トランスフォームさせるのも結構大変で、腕が取れた!とかしっかりはまらない!とかそういう苦労も知ってる。

──そうそう! そうなんです。そういう「トランスフォームあるある」がマイケル・ベイのシリーズでは見れなかったので、今回のバンブルビーのは親近感があって嬉しかったです。

トラヴィスマイケル・ベイはトランスフォーマーのオモチャで遊んだ世代じゃないんだ。僕はトランスフォーマー世代だからね。子供の頃の苦労や喜びを映画の中に落とし込みたいという気持ちもあったんだよね。

心のメンターは宮崎駿

──監督は日本の宮崎駿監督が好きだと聞きました。駿監督は、少女と異種族の関係を描くことが多いのですが、『バンブルビー』もそういったものを目指したのですか

トラヴィス:宮崎駿監督は僕のキャリアに大きな影響を与えているよ。特に前作の『クボ』は直接的な影響を受けてる。『クボ』は多くのものに影響を受けていて、子供の頃に日本にきた記憶というのも勿論だけど、宮崎監督作品を知ったことも大きかった。彼はアーティストとして、アニメーターとして、ディレクターとして、クリエーターとしての僕に多大なる影響を与えてくれたよ。

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Image: ©2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO,TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro.©2018 Hasbro.

彼の作品は、感情豊かで見る人の心に響く。彼は人生を通して、アニメーションという手法を使ってストーリー、感情をこれ以上ないほど美しく伝えていると思う。そして、それは僕が目指しているのもでもあって、僕もアニメーションというミディアムを通して、心に響く美しいストーリーを作りたいんだ。

君の質問にあった「少女と異種族の関係」というのは、ライカの『コララインとボタンの魔女』で使っているんだ。今、こうして『バンブルビー』でも使っているわけだけど。うん、宮崎監督は僕にとって大きな存在だね。

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Image: ©2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO,TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro.©2018 Hasbro.

80年代にタイムスリップできる作り方

──本作は87年が舞台ということで、全体の雰囲気だけでなく、ストーリーが単純明快で起承転結がはっきりしているところ、114分という2時間以内の上映時間に至るまで80年代映画を意識しているようでしたが、どうでしょうか?

トラヴィス:君が挙げた要素も含め、多くの要素が特定の時代を呼び起こすよね。僕は80年代の人間で、あの時代の作品を見て育ったんだ。とくに『E.T.』は初めて涙を流した映画なんだよ。『E.T.』は人間関係に悩んで孤独だった子供が異種族と交流を持つことで最後は本当の自分を開花させるストーリーなんだけど、それはこの映画の中でも見られるんだ。

80年代の豊かさと雰囲気をこの映画でどう表現するかについて、だけど、僕は奇抜なファッションやヘンテコなヘアスタイルだけでどうにかしようとするのは嫌で、もっとリアルに感じて欲しいと思っていた。そのために、60〜70年代に作られたカメラレンズを撮影に使ったりしたんだ。80年代にはそういったレンズで撮影されていたからね。それだけじゃないよ、アスペクト比も80年代に一般的だったものと同じにしている。コスチュームや尺、色やカメラレンズ、パワー、すべて80年代を感じてもらうために意識したよ。

ベイヘム炸裂。マイケル・ベイがそんなに素晴らしい人だったなんて…!

──ところで、プロデューサーに回ったマイケル・ベイから何か注文はありましたか?

トラヴィス:マイケル・ベイは一緒に仕事をする上で、本当に素晴らしい人物なんだ。初期の頃に、マイケル・ベイと膝を突き合わせて、彼のシリーズに対する哲学を聞いたんだ。 地球外金属生命体がどう戦うのか、とか彼にとって大切だと思っていたことをね。こういう会話を何度も何度も繰り返した。でも、彼が言ったんだ。「僕にとってはこうだったけど、これは君の作品なんだ。君は君の作品を作ってくれ。」って。

彼は理想的なコラボレーターだよ。映画作りっていろんな人が口を出してきて影響させようとする。こっちがいい、ああしたほうがいい、って本当にいろいろあって簡単にカオスになってしまう。でも、マイケル・ベイは初期の頃に僕にアドバイスをくれたんだ。このアドバイスはマイケル・ベイがジェリー・ブラッカイマー(『アルマゲドン』でプロデューサーを担当し、マイケル・ベイとともに仕事をした)から受けたアドバイスでもあるんだけど。これは単純でいて本当に力強い言葉なんだ。

君は映画を守らなければいけない

「君の仕事は監督であって、その仕事に集中するんだ。作品を形成し、作品をケアするんだ。君がケアするべきは作品なんだ」って。その言葉は凄く力強かった。そして僕はその言葉に従ったんだ。

マイケル・ベイは、僕に自由に作らせてくれた。常にそばにいてくれて、僕が守って欲しい時には常に守ってくれた。彼は本当に素晴らしい人なんだ。素晴らしいコラボレーションをさせてもらったよ。

──目頭が熱くなりました。マイケル・ベイがそんな人物だったとは…! では、ベイヘム(マイケル・ベイ作品に見られる過剰なまでの爆発やカメラワーク)の要求とかはなかったんですね。

トラヴィス:ない、ない、全然なかったよ。彼は『バンブルビー』が全然違うタイプの映画だということと、僕自身が違うタイプのフィルムメーカーだということを理解していたんだ。彼は今作ではプロデューサーだけど、監督としての立場も熟知している。両方を知っているから、監督がどうして欲しいのかということをわかっていて、その通りに動いてくれたんだ。

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Image: ©2018 Paramount Pictures. All Rights Reserved. HASBRO,TRANSFORMERS, and all related characters are trademarks of Hasbro.©2018 Hasbro.

──バンブルビーとチャーリーの互いを思いやる気持ちに胸が締め付けられました。監督はクリスティーナ・ホドソンの脚本を読んだ時にどう感じましたか?

トラヴィス:自分がプロジェクトに参加する前に既にいろんな脚本があったんだ。そのひとつが、バンブルビーのジェネシスにあたる物語だった。彼女の元のドラフトを読んだ時、自分が映画化したいと興味を抱く要素が入っていると感じたし、それを盛り上げるためにいろいろと付け加えることもできると思った。チャーリーとバンブルビーが物語の中心だったのが素晴らしいと思った。もちろん、シリーズの売りであるハードなアクションとカーチェイスも重要視したけれど、僕にとって最も大切にしたかったのは「心」なんだ。

フィルムメーカーは自分の人生や経験を映画の中に投影しようとする。僕もそうで、自分の経験や人生をもっと大きな規模で描こうと思った。だからバンブルビーは地球外生命体版の僕で、チャーリーは女性版の僕なんだ。このストーリーを進めて盛り上げる上で、僕は自分の人生をベースにしたんだ。

ラストに大バトルの可能性はあったの?

──バンブルビーが窮地に追い込まれていた時にオプティマスプライム率いるオートボットが助けにくるというシナリオは考えましたか?

トラヴィス:ははは! 勿論あったよ。でも、これはバンブルビーが主役の映画だからね。オプティマス・プライム率いるオートボットが一挙集合して派手に戦うっていうのは凄くクールだし、観客も見たいだろうとは思ったけど、これはバンブルビーの映画であるということを忘れてはいけないと思ったんだ。チャーリーという存在をきっかけにして、彼が人類のために戦う戦士になったという過程を描かなければいけないと思った。だからラストは大バトルにすることもできたんだけど、そこはチャーリーとバンブルビーの関係に集中するべきだという判断になったんだ。

アクションだけでなく、よく見ればわかるんだけど、戦いの中でもバンブルビーとチャーリーはお互いを気にかけているんだ。バンブルビーが命懸けで戦っている時でも、彼はチャーリーが無事かどうか確認しているし、チャーリーがクレーンの先まで追い詰められた時でさえ、バンブルビーの身の安全を確認しているんだ。彼らは愛するもののために戦っているんだ。格好良く見せたいから戦っている訳ではないんだよ。

──私は追い詰められるふたりを見ながら、「オプティマス・プライム助けてー! どこにいるの」って心の中で叫んでましたよ。

トラヴィス:だよね、「早く来て助けてよ!」って心境になるよね。

ー『バンブルビー』を作ってくれて本当にありがとうございました。感動して何度か泣いたんですよ。インタビューの質問を考えている時にパンフレットを読んでいたら思い出してまた泣いたくらい。すごく感情に訴える作品ですね。

トラヴィス:ありがとう! 嬉しいよ。


今回のインタビューは本当に盛りだくさんでした。特にマイケル・ベイの人柄と若手(?)を支える余裕と、いい作品を作りたいという映画愛を聞いた時には、目頭が熱くなりました。頂点を極めた人の考えは違う。自分より才能ある若手が出てくると徹底的に潰そうとする人もいるというのに…。

ジェイリー・ブラッカイマーからマイケル・ベイへ、マイケル・ベイからトラヴィス・ナイトへポジティブが連鎖しているんだなぁ。だから作品全体があったかいんだ。

『トランスフォーマー』シリーズをみていなかった人にも是非見てほしいです。だって、この物語の核は普遍のテーマ「」ですよ。『T2』のラストのシュワちゃんの溶けゆく親指を見てボロボロ泣いた人は本作でも高確率で泣けるはず。

『バンブルビー』は東和ピクチャーズ配給で3月22日(金)から全国ロードショー! 絶対お見逃しなく!

Source: 映画『バンブルビー』公式サイト