敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回は、行動経済学者のベンジャミン・ホー(Benjamin Ho)さんの仕事術です。

経済学者のベンジャミン・ホーさんは、経済学の観点から謝罪、信頼、不平等について研究しています。

まさに、ナショナル・パブリック・ラジオで放送するのにぴったりの話が出てきそうなアプローチです。

稀に見るハードワーカーのホーさんは、ワークフロー、昔ながらのテキストアプリ、ポータブルキーボードがお気に入り。プログラミングも得意で、自分でアプリを書いたこともあるそう。

朝、シャワーを浴びるときは、ちょっと笑える奇想天外な時短術を実践しているのだとか。

そんなホーさんの仕事術を聞いてみました。

居住地:ニューヨーク市

勤務地:ニューヨーク州ポキプシー

現在の職業:ヴァサー大学経済学部准教授。同大学で、謝罪、不平等、気候変動を行動経済学的観点から研究しています。

現在のPC:Surface Go、Macbook Pro、Macbook Air、Lenovo Yogabookをとっかえひっかえ使用中。なるべく携帯品は少なくしています。

物は絶対捨てないタイプなので、自宅や職場のあちこちにPCが置いてあり(8年も使用しているものもあります)、そのとき一番手近にあるものを選んで使っています。

DropboxとGoogle Docsがあるので、そういうことが簡単にできるんです。

現在の携帯端末:Google Pixel 3XL

仕事の仕方を一言で言うと:逍遙学派的に

行動経済学者になるまで

プレゼン中のベン
大学で教えるときは、黒板に書く代わりにGoogleシートにタイプして、学生がアクセスできるようにしています。
Photo: Courtesy of Ben Ho

── 略歴と現在の仕事に至るまでの経緯は?

私はあらゆることを学びたくて大学に行きました。しばらくはその姿勢を通していたのですが、マサチューセッツ工科大学とスタンフォード大学で7つの学位を取得した後は、行動経済学の分野に落ち着きました。

卒業後は、テクノロジー系のスタートアップ2・3社、巨大投資銀行、ホワイトハウスの経済諮問委員会エネルギー担当主任エコノミストを経験しました。

その後はずっとアカデミックの世界にいて、コロンビア大学、コーネル大学、そして現在のヴァッサー大学で教鞭を取ってきました。

最近は、行動経済学から気候変動に関する倫理に至るまで、さまざまなトピックについて教えていて、行動経済学者としての研究は信頼と不平等の経済学にフォーカスしています。

Uberと組んで、150万人の顧客を対象に実験を行い、Uberの到着が遅れたときメールによる謝罪が顧客の信頼回復にどのように役立つか調査していたのですが、それも終わりました。

今は、信頼の歴史を辿る本の執筆に取り組んでいます。この本は、先史時代の部族に始まり、信頼があってこそ成立する気候条約やブロックチェーンなど現代の問題までカバーしています。

SF小説やコミックブックや我が子が初めて笑った瞬間からインスピレーションを得ながら、いまでもあらゆることを学ぼうとしています。

毎日のルーティン

──最近の1日の流れを教えてください。

私は朝型ではないので、午前6時半ごろ、子どもたちと一緒に起きるのは大変です(子どもたちは5時に起きることもあります)。

妻を手伝って子どもたちに朝食を食べさせ、午前8時までに学校に送って行きます。

授業で教える日は、ニューヨーク市から2時間45分かけて、自転車と電車と車を使いポキプシーにあるオフィスまで通勤します。4時間半ぶっ通して授業をして(75分の授業を3つ!)、さらにオフィスで仕事をしてから、往路と同じやり方で帰宅。

子どもが就寝する午後8時ごろに自宅に到着します。妻はテーブルに私の夕食を残しておいてくれます(たいていは、Seamlessのデリバリーです)

しばし家族と過ごしてから、真夜中過ぎまで学生の提出物を採点したり、メールに返信したりしています。

妻がコロンビア大学医学部で仕事をしているので、私以上に職場に近いところにいる必要があるため、我が家は都会に住んでいます。でも、私にしてみれば、遠距離通勤をしなくてすむ日はありがたいです。

子どもたちの通学の途中でスターバックスで朝食を取ることもあります(以前は高級なコーヒーショップにしか行かなかった私ですが、最近はスタバのナイトロ・コールド・ブリュー・コーヒーに満足しています)

その後、コーヒーショップか図書館を見つけて、そこで仕事をしています。

数時間中断されずに集中して仕事できるのはすごく贅沢なことなので、その時間は実験で得たデータの分析や本の執筆、提出する論文の修正に充てています。

でも、たいていは、委員会の作業、査読報告、その他諸々のことで中断されてしまいます。

「キーボード」にこだわりあり!

複数のキーボード
Ben Hoさんのキーボード
Photo: Ben Ho

── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

ポッドキャストです。

今は、 Pocket Casts を使用しています。

数年前にAppleのエコシステムをやめたときは大変でした(iPhoneが登場して以来、すべてのiPhoneとほぼすべてのApple製品を入手していました)

でも、今は、Androidの柔軟性が気に入っています。私は街中をよく散歩しますし、長時間の通勤もしているので、そういう時間がポッドキャストのおかげで生産的になります。

Pocket Castsは、Apple Podcastよりポッドキャストを管理する点でずっと優れています。Appleはダウンロードされたものや課金されたものがいつもわかりにくく、ほとんど自分でコントロールできませんでした。

このところキーボードに凝っていて、この2、3年で1ダース以上購入したかもしれません。

サイズと安心感の点では、Microsoftの折り畳み式キーボードが気に入っています。Surface Goのタブレットとスマホの間で簡単に切り替えられるの上に、コートのポケットに入るから。

でも、タイプするときは、カスタムメイドのメカニカル・キーボードが一番好きです。完全プログラム可能なオルトリニアのPlankがお気に入りですが、携帯はできても、重すぎるのが難点ですね。

数年前、究極のキーボードだと思うものを WayTools に注文しました。

スマホより小さくてフルサイズのキーボードでタイプするより良いというフィードバックがベータテストユーザーから寄せられている折りたたみ式キーボードです。

1〜2カ月で配送される予定でしたが、3年以上経った今でも、同社のWebサイトではいまだに「1〜2カ月以内に配達予定」となっています。

あと、viですね。今でも毎日使っています。

── 仕事場はどんな感じですか?

雑然としたデスク
ネスプレッソマシーン、カスタマイズしたレーザースクーター、片方からしか見えないマジックミラー(私のオフィスは以前心理学の実験に使用されていたのでこんな不気味なものがあります)、Amazonで15ドルで買ったサイドテーブルで代用している即席スタンディング・デスク、不要な本
Photo: Ben Ho

私はスクリーン(スマホのスクリーンのような小さなものでもOKです)とキーボードさえあれば事足ります。

ウォール・ストリートで働いていた頃は、マウスを使うのは弱者のしるしでしたから。

初めてコンピューターでプログラミングを始めたときも、マウスは無くて、GW-BASICのラインエディターを使い、その後viを使うようになりました。ですから、いまだにキーボードのショートカットを駆使しています。

Dropboxのおかげで、私の持つすべてのデバイスの間でファイルは全部同期されています。

Microsoft Office、Google Docs、Google Inbox(RIP)もすべてのデバイス間でうまく機能しています。

LaTeX(科学論文を書くときに使います)を書くときのクラウドベースのサービス、Overleafは、スマホでも驚くほど良く機能しています。

クラウドで唯一うまく機能しないものは、統計パッケージです(経済学者はStataを使用することが多いです)。パイソンに移行すると、クラウドのオプションが増えますが、今のところ、このままにしています。

Surface GoでもStataは十分に機能します。もっと強力なコンピューターが必要なときは、Linuxコンピューター・クラスターにリモートでログインします。

── 研究調査をするときの情報源は?

Google Scholarです

── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?

髪をシャンプーしながら歯を磨くことでしょうか。

ばかげたことだと思われるかもしれませんが、歯磨きをする2分間で十分髪をシャンプーできます。この2つを組み合わせて1日2分節約すると、年に720分節約できます。これは12時間つまり半日ですよ!

仕事術ではないかもしれませんが、12時間は馬鹿にできない長さです!

厄介なのは、歯磨きは片手でできますが、シャンプーするときは、片方の手でシャンプーを絞り出し、もう片手の掌に載せるので、両手が必要だという点です。

つまり全部で3つの手が必要です。そこで、歯ブラシを握っている手の甲にシャンプーを絞り出してから、シャンプーのボトルを下に置くと、片手が自由になるので、その手で歯ブラシを握っている手の甲からシャンプーをすくい取るという段取りで問題を解決しました。

──仕事場で採用しているプロセスで、興味深いもの、珍しいもの、こだわりがあるものは?

学生の成績をつける方法です (私は成績評価をつけることが大嫌いですが、どの教授も嫌だと思います)

行動経済学者として、通常のA、B、Cで評価するシステムには多くの問題があることに気づきました。

その1つは、評価がインフレになり、学生がAを取って当たり前だと思ってしまうことです。以前客員教授をした学科では、Aマイナスは良くない成績だと見なされていました。

当時の私はそれを知らず、Aマイナスを取ってがっかりした学生たちが私のところにつめかけました。その学科では、どの学生もAしか取らないことになっていたのです。

それから、100点を満点として評価することが多いのも問題です。学生は間違った回答をすると失点してしまいます。

画面のスクリーンショット
Screenshot: Ben Ho

行動経済学では、損失感は獲得感と比較して2倍も強いことがわかっています。

減点制は、学生が学習したことより理解していないことを強調してしまいます。

ですから、私はABC評価と+を付加する評価システムを採用しています。これで評価のインフレも回避できます。学生は+の数を事前に期待しませんし、この評価システムなら、学生が学習できたことを強調できますから。

── どんな人たちから、どのように仕事を助けてもらっている?

リサーチアシスタントと共同著者の皆さんです。

研究は協働することが非常に多いもの。学生のリサーチアシスタントと仕事をするのは大変です。

彼は、学ぶことが第一目的であり、仕事を片づけるのは二の次だからです。それでも私は教えることにやりがいを感じています。

研究プロジェクトに共同著者がいることの利点は、期限が設定されること。期限が無いと、専任教授は研究の完成をいつまでも先延ばしにしてしまうから。

私は世界のあちこちにいる人たちとコラボしているので、ビデオチャットとテキストチャットのアプリに依存しています。

だから、ビデオチャットやテキストチャットに使用するアプリが変わり続けるのはうんざりです(どうして1つに決められないのでしょうか)。今のところ、私は主にZoomSlackを使用しています。

──ToDoは、どうやってトラッキングしてる?

Google Keepを使っています。

ただ、すごく遅いのが難点。今どき、素早くダウンロードできるメモアプリを作るのがどうしてそんなに難しいのか不思議です。

30年ぐらい前に、私は10歳でGW-BASICでメモアプリを書きました。だから、もっといいものが今はあるはずだと思って当然でしょう。

(長年使っているvi(Wikipedia)は、カスタムスクリプトでサポートされており、私のスマホではうまく機能しなかったので、引退させました)

スタバのテーブルの上のラップトップ
研究の日には、いろいろなコーヒーショップや図書館をとっかえひっかえ使っています。スタバは、Google wifiの接続がしっかりしていて、手軽に電源コンセントが使用できる居心地の良いスペースなので気に入っています。実はもともとコーヒーにはもっと高級感を求めるタチでしたが、このところアイスコーヒーも同じぐらい好きになりました。スタバのアイスコーヒーは、最近近所にオープンしたBlue Bottleのようなトレンディなコーヒースポットと同じぐらい魅力的です
Photo: Ben Ho

──どのように充電したり休憩していますか?

スマホで『ファイナル・ファンタジー』をこっそりすることです。

任天堂のゲーム機でオリジナルの『ファイナル・ファンタジー』をした覚えがありますが、大学時代から、あまりビデオゲームはしていません。何かの合間に、いくつかバトルを選んでプレイできるのはいいですね。特に電車を待っているときは。

──仕事の合間に何をするのが好きですか?

プログラミング言語のパイソンを学習することです。

パイソンは最もポピュラーなマシーンラーニング用言語で、私の役に立つため、これを選んで勉強してきました。

私は人工知能の分野でも学位を取得していますが、当時学んだことはもう時代遅れになっています。しかし、経済学者にもマシーンラーニングは新しい「大事」なので、また勉強し直そうとしています。

私は8歳頃にプログラミングを学び、今でもプログラミングはとても楽しいのですが、最近、私のプログラミングの作業をリサーチアシスタントに頼むべきだと感じています。

それは彼らにとって良い学習体験になりますし、私が自分でするよりも、作業を彼らに教える方が理にかなっている気がします。でも、自分でプログラミングをするときの言い訳があるのは良いことです。

スマホの画面
iPhoneやApple製品を使用していましたが、数年前にGoogle Pixelに切り替えました。Androidはホームスクリーンをカスタマイズできる点を高く評価しています。
Screenshot: Ben Ho

──今、何を読んでいますか? おすすめの本は?

Cixin Wei著『The Three-Body Problem』を読み終えたところです。この本のジャケットには元アメリカ大統領のバラク・オバマ氏の裏書があるんです!

中国語から翻訳された小説を読んだのはこの本が初めてです。

Wei氏のSF小説は、中国の文化革命期の物理学部門の話から始まります。私の家族もこの時代を潜り抜けてきたので深く共鳴するのですが、小説の最後は、「三体星人たち」の不安定で混沌とした行動により宇宙の文明がどのように形成されるのかを深く問いかけています。

2018年に最優秀賞を受賞した初の女性漫画家、Marjorie Liuさんのコミックブックシリーズ、『Monstress』を読み始めたところです(2018年になってやっと「初の女性」とは!)。

タケダサナさんのイラストが素晴らしくて、現実を超越した世界が描かれています。

中国のテーマが描かれていて、私にはあまり馴染みがありませんが、今年はポップカルチャーの世界でアジア系アメリカ人の当たり年になりそうです。私は研究論文以外はめったに読みませんが、Neal Stephensonの本なら何でもお勧めします。

──今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手は?

Slate(大好きなポッドキャストの1つです)で公開中のポッドキャストには、コミックブックのクリエイターたちに同じ質問をたくさんしている素晴らしい連続番組があります。

でも、私は見出しになるような目立つ人たちだけでなく、クレジットに載っている人全員の話を聞きたいと思っていました。

ですから、この質問の答えはポッドキャストのプロデューサーかもしれません。特に、『This American Life』や『Serial.』のような長い物語のプロデューサーですね。

チャットの画面
私は何年にもわたり直接会ったこともない世界中に散らばる学者たちとコラボしています。テキストチャットやビデオチャットには定番が無く、相手に応じてさまざまなものをインストールせざるを得ないのが悩みの種です。
Screenshot: Ben Ho

──これまでにもらったアドバイスの中でベストなものは?

誰と会話をするときも、まず相手の言うことを正しいと認めること。相手が話していることに耳を傾け、相槌は、『そうですね。でも…』でなく『そうですね』にすること」

何年も前に、兄の元彼のお母さんからもらったアドバイスで、彼女は人生の師匠なんです。私は今でもよくこのアドバイスを思い出します。

私生活に役立つのみならず、政治の話をするときも大切なことです。教室で授業するときもこのアドバイスに従っています。

──挑戦中の課題は?

私のKindleには、一生かかっても読み切れないぐらいたくさんの本がたまっています(Netflixにも時間が無くて見れないテレビ番組や映画が山ほどたまっています)。この現実をどうやって受け入れるかですね。

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Nick Douglas – Lifehacker US[原文