LEXUS×ライゾマティクスによる「光とダンサーの共演」。それを実現させたLEXUS最新のLED光テクノロジーとは?

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  • author 林信行
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LEXUS×ライゾマティクスによる「光とダンサーの共演」。それを実現させたLEXUS最新のLED光テクノロジーとは?

薄暗いホールに通されしばらく座っていると、音楽が流れ左右の壁に仕込まれた何十ものプログラム制御されたスポットライトによる光のショーが始まった。

線状の光が縞模様を描き出す、なんとも幻想的な風景だ。しばらくして部屋全体が薄暗くなり、次の瞬間、気がつくと目の前に、高さ3メートルはあろうかという壁が立っていた。

「え! 壁!?」

すると、今度はその壁がスーっと遠くに離れていく。よくみると壁の下には十字形に4つのホイールが付いていた。やがて、6枚の壁が部屋の中央で輪をつくって踊り始める。なんだが、異世界に迷い込んだようなシュールな光景だ。

そこにスポットライトを浴びて真っ白な衣装に身を包んだ女性ダンサーが現れる(人を見るとなんだかホッとする)。女性が部屋の中央に向けて歩き始めると、モーゼの十戒の海のように壁が左右に分かれて道が出来上がる。

ここから美しくも幻想的な、動く壁(=ロボット)とダンサーの共演が始まった。

これは自動車ブランド「LEXUS(レクサス)」が今年のミラノデザインウィークで披露した展覧会「LEADING WITH LIGHT」の一部だ。

LEXUSがライゾマに託した「Human-Centerd」

中世ヨーロッパの貴族たちが画家や音楽家に作品づくりを注文し、それらが今でも世界の美術館や音楽ホールを巡回する歴史的作品になっているように、ミラノデザインウィークでは、パトロンとなった大企業が見初めたクリエイターに作品づくりを依頼するコミッションワーク形式の展示が多く、これもそのひとつ。

ダンサーは先鋭的なダンスパフォーマンスで知られる振付師MIKIKOさんが率いる、日本のダンスカンパニーELEVENPLAYのダンサー。そして、プログラム制御された光と壁や、展示/パフォーマンスのコンセプトをつくったのは、石橋素さんと真鍋大度さん率いる日本を代表するテクノロジー集団ライゾマティクスリサーチ。話題になったリオ五輪閉会式のフラッグハンドオーバーのパフォーマンスで組んだ最強コンビ。ただ今回はテクノロジーっぽさを前面に押し出した内容になっている。

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Photo: Nobuyuki Hayashi

展示のパトロンLEXUSが、ライゾマティクスリサーチに作品に込めて欲しいと託したメッセージは「Human-Centered(人間中心)」。デザインの世界では、古くからよく使われていた言葉だが、AIが人間の仕事を肩代わりし、車も徐々に自動運転に切り替わっていく現代。次々とテクノロジーの採用が広まってはいるが、ただ凄さに翻弄されてテクノロジーを使っていると、恐ろしい未来を招く怖さもある。

人間がテクノロジーに圧倒されるのではなく、あくまでもテクノロジーの側が人間に仕え、擦り合わせていく形にしないといけないという考えが、今ほど大事な時代はないのかも知れないと改めて気が付かされた。

今回のパフォーマンスは、ダンサーを除けば「光」も「壁」もすべてロボット、つまりプログラム制御されているが、あくまでも中心的存在はダンサー。会期の1週間、朝から夜までの数十回にわたるパフォーマンス、毎回2人のダンサーが踊りきって、LEXUSが改めて訴える「Human-Centerd」という大事なメッセージを美しくも幻想的なパフォーマンスを通して伝えていた。

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Photo: Nobuyuki Hayashi

それにしても人とロボットがここまで見事に調和したダンスパフォーマンス、これまでにあったのだろうか。実はこのパフォーマンスを見ていて、ひとつ気付かされたことがある。ロボットが輝くためにも人の存在が重要なのだ。人間ダンサーのダイナミックな動きに、ロボット(壁)が完全についていくことで、なんだかロボットの方まで「生気」を帯びているような印象を受けた。例えば動画で人間ダンサーに従えられてロボット壁が隊列をなしてついていく辺りを見て欲しい。

パフォーマンスがあまりにも素晴らしく、時間のないミラノデザインウィーク期間中、この展示は2回見に行った。やはり、この凄さは実際に自分の目で見ないとわからないし、ぜひとも日本に凱旋して欲しいところだが、レセプションで話したライゾマティクス・リサーチの2人やLEXUSの方々もそこの思いは同じだったようだ。期待したい。

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Photo: Nobuyuki Hayashi

写真左が今回のクリエイター、ライゾマティクス・リサーチの2人。左が真鍋大度さん、中央が石橋素さん。かなりギリギリのチャレンジをしていたので、お披露目直前まで機械の調整をしていたらしい。しかし、そのギリギリのチャレンジがあったからこそ、素晴らしいパフォーマンスにまとまっていた。

光のダンスを生んだ光のテクノロジー

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Photo: Nobuyuki Hayashi

ダンスパフォーマンスは、ただの序章に過ぎなかった。

パフォーマンスの後、来場者から限定10人ほどに光のボールが渡された。ボールを目の前に掲げると、壁の両脇のスポットライトが一斉にそのボールを照らす。ボールを動かすと、スポットライトがその後を追って動く。

なるほど、プログラム制御といってもすべて動きが決まっているわけではなくて、実はスポットライトが人の動きをある程度、認識しているようだ。

次に案内された部屋では、真っ暗の部屋に3つほどの照明がぶら下がっていて、そこから板状(平面)に光が広がっている。光の板はゆっくりと回転し、その向きを変えている。光で描かれた断面がときには平行になったり、交差したり。最初は、ただきれいなだけの展示かと思ったが、解説を聞いて「ハっ!」とした。

このようなまっすぐに伸びる光を描くには通常、レーザーを使うことが多いが、このLEXUSの展示ではそれをLEDの光でやっていたのだ

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Photo: Nobuyuki Hayashi

その後の部屋で、これらLEXUSによる光の演出がただアート展示のためだけに、開発されたものではないことが明らかになる。LEXUSが現在、開発中のBladeScanという技術が展示されていた。

車のヘッドライトと思しきものが展示されており、強いハイビームのまぶしい光が出ているのだが、そのライトに向かって来場者が懐中電灯を照らすと、光が自分のいる場所を避け、その周囲だけを照らす。

つまりこれが製品化されると、人のいないところでは明るいライトが道路全面を照らし、夜でも快適にドライブできるが、万が一、対向車や歩行者を見かけると、彼らが眩しい思いをしないように光が中心部だけを避けて周囲だけを照らすヘッドライトが実現できるようになるのだ。まさに「Human-Centered(人間中心)」な技術だ。

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Photo: Nobuyuki Hayashi

最初はただの美しいダンスパフォーマンスの展示かと思っていた。実際、ミラノデザインウィークにはそういう展示も多い。だが、今回は最初のダンスパフォーマンスも、その後のボールを使ったデモも、謎の部屋もすべてひとつのストーリー。まさにLEXUSが「Human-Centered(人間中心)」の姿勢で最新の技術開発をしていて、その技術が、これまでにはできなかったまったく新しいアートの表現も可能にしているんだと、最後にストンと納得がいく展示になっていた。

気に入って見に行った2回目は展示初日だったにも関わらず、既に評判なのか、LEXUSのデザインウィークでの定評なのか、既に長い大行列ができていた。

ミラノデザインウィークのトレンドセッター

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Photo: Nobuyuki Hayashi

ちなみにLEXUS、実はもうひとつ、もはやミラノデザインウィークで恒例となった「Lexus Design Award」という国際コンペの優秀作品の展示も行なっていた。MoMAの有名キュレーター、パオラ・アントネッリさんやデザインとテクノロジー融合の第一人者であるジョン・マエダさん、建築家のデビッド・アジャイさん、そしてLEXUSインターナショナルのプレジデントで、自身もデザイン畑出身の澤良宏さんといった錚々たる審査員が揃う賞だ。年々、応募数が増加しており、通算7回目の今年は65カ国から1,548件の応募があり、来年以降は国別に1次審査をすることになるようだ。

今年も、乳がんで肩乳房をなくした女性のための最新テクノロジーを使ったブラジャーや、洪水でも住める住居、砂漠の砂の再活用、飛行機が離陸するときの風力を使った発電と、面白いデザインのアイディアが満載だった。LEXUSのページですべての作品を見ることができる。

私はミラノデザインウィークに通い始めて今年で10年目になるが、実はLEXUSによる展示「LEXUS DESIGN EVENT」はそれよりも歴史が古く今回で通算12回目。

今ではフィアットやアルファロメオといったイタリア車を始め、フランスの自動車メーカーや日韓の自動車メーカーも当たり前に出展しているミラノデザインウィーク。だが、自動車メーカーとして初めて大型の展示をしたのもLEXUSならば、そこでコミッションワークのトレンドを始めたのもLEXUSだったという。

しかも、今やミラノデザインウィークでスター級の存在となっているデザイナーの吉岡徳仁さんやデザインオフィスnendoに仕事を依頼してきた実績もあり、LEXUSは常にミラノデザインウィークのトレンドセッターだった。2015年には五感を通して味わう「食」の展示でミラノデザインアワードも受賞したことがある。

最近はデザインに造詣が深い人にしか伝わりにくい展示が多かったのも事実だが、そんなLEXUSがこれから芽が出る若手ではなくライゾマティクス・リサーチという、もはやその名を世界に轟かせたクリエイターと組んで行なった今回の展示「LEADING WITH LIGHT」は、作品の美しさはもちろん、実際にLEXUSの製品の技術的な凄さにもきちんとつながる形で楽しめた。

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Photo: Nobuyuki Hayashi

レクサスインターナショナルの澤良宏プレジデント。「(ミラノデザインウィークは)街のそこかしこに素晴らしいデザインの展示が溢れ、深いデザインの対話がなされ、来ている人たちは必然的にデザインに対しての感度が高まり、企業として伝えたいことなどを細かに説明しないでも伝えられる側面がある。だから、この特別なイベントの中で良いクリエイティブを提示していくことには非常に大きな価値がある」と語ってくれた。

※この記事はレクサスからのイベントの招待を受けて制作されています。