大人らしく和やかに話す 知的雑談術』(吉田裕子著、日本実業出版社)の著者は大学受験塾の国語講師ですが、長らく「雑談がうまくなりたい」と考え続けてきたのだそうです。

その理由のひとつは、授業をする際には雑談力が欠かせなかったから。

たとえば授業中、受講生の集中力が切れてきたときにちょっと雑談をすると、うつむいていた顔が上がることがあるというのです。

そしてもうひとつの理由は、新聞・雑誌などの取材を受けるとき、沈黙してしまうことが多かったこと。

最近になって雑談のコツをつかんでから克服できたといいますが、つまりは取材されるとしても、雑談力は少なからず必要になるのかもしれません。

そこで本書では、自身の16年間にわたる試行錯誤を軸に、講師として模索してきた雑談術を明かしているわけです。

根底にあるのは、それらがプレゼンや研修講師として人前で話す機会のヒントになるかもしれないという思い。

そんな本書のなかから、きょうは第2章「すぐに使える会話が弾む技」に注目してみることにしましょう。

「挨拶+もうひとこと」だけで平均点脱出

著者によれば、「雑談力を上げよう」と思ったとき、「話術を磨こう」「おもしろい人になりたい」などと考えるのはかえって遠回り。

すぐに実践でき、印象が変わるのは、「挨拶+もうひとこと」の習慣なのだそうです。

社会人であれば、挨拶をして会釈をするところまでは、それほど難しいものではないはず。ところが、そこから「もうひとこと」が出るかどうかに高いハードルがあるもの。

しかし、それが重要だということです。

「こんにちは」    + 「今日は晴れてよかったですね」

「いらっしゃいませ」 + 「必要なときはご遠慮なくお呼びください」

「お疲れ様でした」  + 「また明日よろしくお願いいたします」

(53ページより)

最初はこうした決まり文句でOK。ひとことで終わらせず、ふたこと目を言うだけで、平均点脱出が可能になるというのです。

そうした「もうひとこと」を笑顔で添えるだけで、「この人、いい人だな」という印象が生まれるものだから。

その際のコツは、一気に言ってしまわないこと。「こんにちは、きょうは晴れてよかったですね」ではなく、「こんにちは。(相手の「こんにちは」を受けてから)きょうは晴れてよかったですね」というイメージだそうです。

相手の返信がなかったとしても、相手が自分の挨拶を受け止めたのを見届けて間を置いてから、ふたこと目を発する。そうすると、ことばに血が通うということです。

そして慣れてきたら、プラスアルファのひとことに自分なりの色を加えてみるのも効果的。

たとえば数年前に同じ部署で働いていた人に、ひさしぶりに会ったとします。そんなとき、「おひさしぶりです」という定番のひとことのあとに、どんなふたこと目を足すでしょうか?

「こんなところでお目にかかれるなんて、驚きです」

「あれ、ちょっと印象が変わったような気がします」

「いまはどんなお仕事を担当されているんですか?」

(55ページより)

このように、再会できた驚きやうれしさ、印象の変化を伝えたり、近況を質問したりする「プラスアルファ」を加えることが重要。

これだけが正解だというフレーズこそないものの、自分の本心を少しポジティブに飾ったようなふたこと目が出てくればいいわけです。

もちろんこの発想は、初対面同士の自己紹介でも同じ。そんなとき、一般的には「○○です。よろしくお願いいたします」と形式的に名乗ることになるでしょうが、ここに上記のパターンを応用。

「○○です。この企画は一ユーザーとしても楽しみなので、ぜひ成功させたいです。よろしくお願いいたします」というように、「○○です」と「よろしくお願いいたします」をつなぐ「間」を応用するだけで印象が変わるということです。(52ページより)

場の緊張をほぐすアイスブレイクの極意

初対面、ひさしぶりの再会、プレゼンを始めようというときなどに、「どうも空気が固い」「気まずくてたまらない」と感じることがあるもの。

そんなときのために、「アイスブレイク」という手法を憶えておくといいそうです。凍りついた場の空気を和ませ、メンバーの交流を促すようなワークのこと。

交流会や研修ではアイスブレイクとして、ひとひねりを加えて自己紹介をしたり、数人のグループで簡単なゲームなどをしたりすることもあるので、ご存知の方も多いことでしょう。

きっかけはなんであれ、場の空気が和めば、その後の進行もスムーズになり、メンバーの参加意識も高くなるもの。そのため会議や研修が、盛り上がりやすくなるというわけです。

そして、アイスブレイクにもこの雑談を取り入れるといいそうです。雑談のはじめのうちは、緊張感をほぐすことに徹するということ。

とはいえ、雑談でいきなりミニゲームなどを始めたのでは相手を戸惑わせることになります。著者によれば、雑談の際のアイスブレイクとして意識すべきは、落語のマクラではなく、テレビの前説

落語家は本題の噺に入る前に、時事ネタやご当地ネタ、自分の身のまわりで起こったことなどを話し、客を惹きつけます。マクラで場を温め、適切なタイミングで噺に入るわけです。

とはいえ、それを素人がやるのはなかなか困難。そこで、アイスブレイクとして前説を取り入れたいというのです。

前説とは、バラエティ番組の収録などでスタッフが本番前に、「ゲストが入ってきたら、大きく拍手をお願いいたします!ではやってみましょう!」などと観客に対して行う説明のこと。

客に実際に拍手させたり声を出させたりして、拍手の仕方、声の出し方などを実践的にレクチャーするわけです。

これがあるとないとでは、番組収録の雰囲気が大きく変わるそうなのですが、この発想は日常会話にも取り入れことができるというのです。最初にできるだけ、相手の身体と心を反応させることを意識するべきだという考え方。

そこで大切なのは、返答、共感、驚きなど、なにかしらのリアクションをとらせるという働きかけを意識するようにすること。

たとえば著者の場合でいうと、年度初めの授業でよくやるのは、手を挙げてもらうことだそうです。

「古典が得意な人~?」(ぱらぱらと手があがる)

「じゃあ、苦手な人~?」(それ以外の大勢が挙げる)

「得意になりたい人~?」(ほぼ全員が手を挙げる)

(60~61ページより)

こうすると、その場にいる全員が身体で反応することになります。

そしてこの一動作があるだけで、「そりゃ、そうだよね。だから授業をとっているんだもんね」という著者のことばにある程度の笑いが生まれることに。

そうやって、温かい空気をつくることができるというわけです。

講義やスピーチなら手を挙げてもらうこと、少人数の会話ならうなずいてもらうこと。場の空気がカタいうちは、そうしたリアクションを引き出すことを第一に考えましょう。 別にうまい話でなくていいので、冒頭には絶対に反応してくれそうな話を振るようにします。

「今日は思いのほか寒いですよね」「年度末はやはりバタバタしますね」「○○社の倒産は驚きましたねぇ」というように。「ええ」「そうですね」などと、相手の反応さえ引き出せれば、話題はなんでもいいのです。(61~62ページより)

話題がなんであれ、相手の反応があることは、話す側を勇気づけるもの。逆にいえば、聞いている人が無反応だと、話していてつらいわけです。

しかし簡単なものであったとしても反応を引き出せれば、それが自信につながり、緊張した気持ちが少し楽になるということ。

そういう意味でも、挙手やうなずきを促すアイスブレイクは有意義だということです。(57ページより)


雑談がうまくできると、仕事の可能性や人間関係の幅が広がると著者は記しています。

たしかに新しい人と出会う機会も増えるでしょうし、結果的に和やかな雰囲気を生み出すこともできるでしょう。

だからこそ本書を参考にしながら、雑談力を高めてみたいものです。

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Photo: 印南敦史

Source: 日本実業出版社