サイエンス

AIで乳がんの発生を予知できる技術が開発される

by Malingering

MITコンピュータ科学・人工知能研究所はディープラーニングにより乳がんの発生を予知する手法を開発したと発表しました。これにより、乳がんになりやすい人を従来よりもはるかに高い精度で発見することができるほか、将来的には乳がん以外のがんや心筋梗塞などの早期発見にも役立つと期待されています。

A Deep Learning Mammography-based Model for Improved Breast Cancer Risk Prediction | Radiology
https://pubs.rsna.org/doi/10.1148/radiol.2019182716

MIT CSAIL's AI can predict the onset of breast cancer 5 years in advance | VentureBeat
https://venturebeat.com/2019/05/07/mit-csails-ai-can-predict-the-onset-of-breast-cancer-5-years-in-advance/

アメリカでは乳がんが、がん関連の死亡原因の第2位で、2015年だけでも約23万2000人の人が乳がんだと診断され、約4万人が乳がんで亡くなっています。また、世界のがん患者のうち、乳がんの患者数が最も多いという調査結果もあります。このため、世界中で乳がんを早期に発見する研究が盛んに行われていて、最近の例ではGoogleのAIが99%の精度で転移性の乳がんを発見することができたと発表されました。

GoogleのAIは転移性の乳がんを99%の精度で検知することが可能


既に発生してしまったがんを早期に発見することはもちろん重要なことですが、もし将来がんが発生するかどうかがあらかじめ分かっていれば、緊密ながん検査などを通してより効果的にがんの予防と治療が可能になります。そこで、乳がんの発生を予想するため、乳腺の密度や家族のがん既往歴などから統計的にがんの発生を予測する「Tyrer-Cuzick(TC)法」などの手法がこれまで用いられてきましたが、必ずしも精度が高いとはいえないものでした。

そこで今回、ディープラーニングにより高い精度で乳がんの発生を予見できる手法を開発したのが、MITコンピュータ科学・人工知能研究所でAIを研究しているレジーナ・バージレイ氏らの研究グループです。研究グループは、3万9571人の女性を対象としたマンモグラフィー検査により撮影された8万8994件の画像と、検査後5年間のがんの診断状況の統計データを使用して、深層学習によりAIをトレーニングしました。

by Lana_M

その後、6万886人分のマンモグラフィー検査の画像と診断状況の統計データを、「従来のTC法」「ディープラーニングによる診断(DL)法」「TC法とDL法を組み合わせたハイブリッドDL法」の3種の手法ごとに分析して乳がんの予測精度を検証しました。その結果、ディープラーニングを用いたDL法とハイブリッドDL法は、従来から乳がんの予測に使用されてきたTC法のみの手法に比べて高い精度で乳がんの発生を予測できたとのことです。

以下の画像は、従来のTC法とハイブリッドDL法によるリスク評価と実際のがん発生率を比較したものです。リスク評価は「低・中・高」の3段階で、縦軸が上から「TC法の低・中・高リスク」で、横軸が左から「ハイブリッドDL法の低・中・高リスク」を表しています。


例えば、左上はTC法・ハイブリッドDL法の両方が低リスクと評価したグループで、実際にがんが発生したの人は1466人中16人、割合にして1.1%しかいませんでした。


そして、右上はTC法が低リスクと評価した一方、ハイブリッドDL法は高リスクと評価したグループです。TC法では低リスクと評価されたものの、実際のがん発生率は3.7%と決して低くないものだったことから、TC法よりもハイブリッドDL法の方が、がんをより正確に予測していることが分かります。


また、TC法が予測の手がかりとしている乳腺の密度による評価と比較しても、ハイブリッドDL法はより高い精度を示しました。以下の画像は乳腺密度の高低と、ハイブリッドDL法のリスク評価を比較した図です。縦軸の上は乳腺密度が低いグループ・下が高いグループのがん発生率で、横軸の左がハイブリッドDL法によりにより低リスクと評価されたグループ、右が高リスクと評価されたグループを表しています。


ハイブリッドDL法が低リスクと評価した人は、乳腺密度によらずがん発生率が同じ1.4%だったのに対して……


ハイブリッドDL法が高リスクと評価した人は、乳腺密度が低い人は4%、乳腺密度が高い人は5.5%の割合で乳がんの診断を受けていました。乳腺密度が高い人の方がわずかに高い確率で乳がんが発生しているので、乳腺密度でのリスク評価も無意味というわけではありませんが、今回MITが開発した手法に比べれば精度はかなり低いものといえます。


なお、以下の画像は上の2図と、その図の各グループに分類された実際のマンモグラフィーの画像を比較したものです。人間の目で見てもまったく区別がつかないことから、いかに熟練した放射線医師でもマンモグラフィーから将来的に乳がんが発生するかどうかを見極めるのは困難だということが分かります。


TC法を用いた従来の予測方法では、乳がん発生率の精度が18%だったのに対して、ディープラーニングを用いた手法では31%もの精度で乳がんの発生を予測することができたとのこと。研究グループのバージレイ氏は、技術系ニュースメディアのVentureBeatの取材に対し、「この手法は乳がん以外の健康問題を予測する手法の基礎になるものです」と述べており、心筋梗塞やほかの種類のがんなどにも応用可能だとの見方を示しました。

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in サイエンス, Posted by log1l_ks

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