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 2030年に「従来型IT⼈材」が10万⼈余る。従来型IT人材は「従来型ITシステムの受託開発、保守・運用サービス等」に従事する。これらは2019年4月23日に経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」という報告書に出ている数字と用語である。

 同報告書を紹介した4月24日付日本経済新聞の記事には「先端人材55万人不足 経産省試算 30年、AIやIoT」という見出しが付けられていた。

先端IT人材は足りないが従来型IT人材は余る

 新聞記事の見出しと本稿の題名は同時期のIT人材需給を指している。すなわち2030年に人材不足と人材余剰が同時に起こる。AIやIoTに関わる先端人材は55万人足りなくなるが受託開発や保守運用を担う従来型IT人材は10万人余る。

 同報告書は「先端IT人材」と名付け、「AIやビッグデータ、IoT等、第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手として、付加価値の創出や革新的な効率化等により生産性向上等に寄与できるIT人材」と定義している。

 従来型IT人材は「付加価値の創出や革新的な効率化」に寄与していないとどうして言えるのか、と絡みたくなるがそれはさておき、従来型IT人材と先端IT人材のそれぞれの人数をどう計算したのかが気になる。

 報告書の説明によると情報処理推進機構(IPA)が企業にアンケート調査を実施して従来型ITと先端ITの需要を調べ、需要の割合に応じてIT人材の全数(国勢調査に基づく)を従来型IT人材と先端IT人材に分けたという。

 ここまで読み、「55万人不足」あるいは「10万人余剰」という指摘にうんざりした読者がいるだろう。SEやプログラマーが将来何十万人不足する、といった警告は過去たびたび出されてきた。

 ただし今回の報告は産業政策を担う経産省の思惑だけでまとめられたものではない。報告書には次のように書かれている。

 「『未来投資戦略2017』(平成29年6月9日閣議決定)に基づき、第4次産業革命下で求められる人材の必要性やミスマッチの状況を明確化するため、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省連携でIT人材及びAI人材の需給試算を行いました」。

 「未来投資戦略」や「第4次産業革命」という言葉遣いが気になるが、それもさておくとして政府や各省がIT人材の問題に取り組もうとしていることは間違いない。

前提を変え、人材需給を考える

 「IT人材需給に関する調査」をどう受け止めたらよいのか。ITの仕事をする人やIT人材を抱える企業は自分が納得できる前提を選び、2030年のIT人材需給の試算結果を読み、あれこれ考えることができる。

 日経新聞が「試算」と見出しに入れた通り、報告書に出ている需給の数字はいずれも前提に基づく試算であり、報告書には前提を変えた試算例が複数掲載されている。

 IT人材需給に関わる前提として、報告書はIT需要の伸び率、IT人材の労働生産性上昇率、Reスキル率を用意している。

 Reスキル率は、従来型IT人材が先端IT人材に変わる割合を指す。報告書は「(x-1)年に従来型IT人材であった人材でx年に先端IT人材に転換した人材数/(x-1)年の従来型IT人材数」と定義した。Reスキル率という表記は気持ちが悪いので以下では「先端人材への転換率」と書く。

 本稿や日経新聞が紹介した「2030年に先端IT人材が55万人不足し、従来型IT人材は10万人余る」という試算の前提は、IT需要の伸び率2~5%、生産性上昇率0.7%、先端人材への転換率1%であった。