レビュー
Westone次世代イヤフォンを聴く。小型&高音質化「W」と低音がスゴイ「B」
2019年5月17日 08:00
アメリカ・コロラド州に本拠を置くWestone(ウェストン)は、イヤフォンや補聴器などを手がけているメーカーで、プロミュージシャンがステージなどで使うカスタムIEMなどもラインナップしている。そんなWestoneのカナル型イヤフォンであるWシリーズが、このたび一新されることとなった。
同時に、Westone初となる低音重視モデル「Bシリーズ」も登場。aptX HD対応のBluetoothワイヤレスケーブルなども同時期に発売される。今回はリニューアルされたWシリーズと新しいBシリーズの詳細に迫るとともに、実際のサウンドがいかなるものかも紹介しよう。
Wシリーズ
まずはWシリーズの話から。Wシリーズは、Westoneがラインナップするカナル型イヤフォンで、「リスニングに特化した音作りで、豊かな低音や音場、細かい音のディティールを楽しめる」というテーマによって作り上げられた、コンシューマー向けのサウンドチューニングが行なわれた製品となる。
これまでW10、W20、W40、W60、W80と5製品がラインナップされていたが、リニューアル後もこれは変わらず。基本的なコンセプトにも変更はなく、上位モデルなどの開発で得たノウハウを活かして筐体変更を行なったり、全モデルにBluetoothワイヤレスケーブルを付属するなど、音質の改善やユーザビリティの向上などが行なわれた「リデザインモデル」と位置づけられている。ドライバー構成と付属フェースプレートカラー、実売価格(全製品オープンプライス)は以下のようになっている。
- W10:BA×1 (ブラック、レッド、ブルー) 27,800円
- W20:BA×2(高域1・低域1) (ブラック、レッド、ブルー) 37,800円
- W40:BA×4(高域1・中域1・低域2) (メタルオレンジ、ガンメタル) 59,800円
- W60:BA×6(高域2・中域2・低域2) (メタルオレンジ、ガンメタル) 124,800円
- W80:BA×8(高域4・中域2・低域2) (メタルオレンジ、ガンメタル、メタルブルー) 178,000円
このなかでも、W80のプライスダウンはとても嬉しいポイントといえる(発売当初W80は20万円超のプライスタグが付けられていた)。
では、具体的にはどういった部分が新しく生まれ変わったのだろうか。その内容を個別に見ていこうと思う。
まず、W40とW60については、筐体が“リデザイン”されている。いままでもマルチドライバー搭載モデルのなかでは小柄な筐体だったが、さらにシュリンクされ、W60などは6BAドライバー構成とは思えないほどのコンパクトな筐体サイズとなった。これは、W80を開発した際に得たノウハウの反映だと思われるが、実際に製品を手に取ってよく見てみると、上下に小さくなり、厚みも気持ち薄くなっているのが分かる。
なかでも、W60はW40とほとんど差のない大きさまでコンパクト化されている。おかげで、装着感は今まで以上に軽快な印象となった。また、W40とW60は内部の音響もリファインされ、「より洗練された高域、豊かな伸び、スムーズなサウンド」を実現したとメーカーはアピールする。
また、W40とW60、W80で共通の付け替え式フェイスプレートは、素材をメタル製へと変更したうえ、カラーバリエーションも変更されている。
さらに、実物を見て目を惹かれるのが、W40以上に標準装備される「High-Definitionシルバーケーブル」だ。こちらは「銀の含有量を高めたことで減衰率が小さくなり、より繊細な音の伝達が可能になった」とのことだが、音質に加えて見た目も良く、透明なシースとやや明るめのホワイトカラーが上品な印象を与えてくれる。表皮が柔らかく取り回しもし易いので、使い勝手も良さそうだ。ちなみに、W10とW20には3ボタン式のリモコンケーブルが属する。
全モデルにBluetoothワイヤレスケーブルが付属
そして、新Wシリーズ最大の注目ポイントといえるのが、全モデルにBluetoothワイヤレスケーブルが付属されたことだ。W10、W20、W40、W60にはaptXコーデック対応の「Bluetoothケーブル」が、W80にはaptX HD対応の「Bluetoothケーブルバージョン2」(単体の別売もアリ)が同梱される。
このうち「Bluetoothケーブルバージョン2」は、充電しながら使用できるチャージングドックが付属していて、本体だけで最大6時間、チャージングドック併用で最大12時間の使用が可能となっている。
ちなみに、以前W80に付属していたALO製リケーブルはなくなり、その代わりに「Bluetoothケーブルバージョン2」が付属することになったという印象だ。価格ダウンも、このあたりが関係しているのかもしれない。とはいえ、引き続きW80専用の大型セミハード・イヤフォンケースも付属するなど、ケーブル以外の付属品に変更はない。
また、スマホからイヤフォン端子が無くなりつつある昨今、aptX HD対応のBluetoothワイヤレスケーブルが付属しているのも、ありがたい限りだろう。ちなみに、W40とW60にはW80用のケースを小型化したような、セミハード・イヤフォンケースが付属する。プレーヤー+イヤフォン+Bluetoothワイヤレスケーブルが一緒に収まるサイズなので、こちらはなかなかに重宝しそうだ。
絶妙なバランスのサウンド、完成度がUPしたWシリーズ
肝心のサウンドをチェックしよう。今回は、筐体がリデザインされたW40とW60の2機種をメインに聴いた。プレーヤーはCOWON「PLENUE L」を使用し、まずは4BAドライバー構成となるW40のサウンドを確認してみる。
【W40】
ひとことで表現するならば、“ウォーミーな音色ながらキレの良さを伴うサウンド”。BAドライバーならではのキレの良さと中域の細やかな表現、高域の伸びやかさなどはしっかりと確保されているので、ドラムの演奏はキレが良く、ピアノの音は伸びやかなのだが、高域に嫌なピークは感じられないためか、心地よい音色に感じられる。
また、低域がたっぷりとした量感を持ちつつ、フォーカス感もしっかりと確保されているので、落ち着きのあるゆったりとした歌声の男性ヴォーカルを楽しむことができる。一方、女性ヴォーカルはちょっとだけハスキーな歌声で、距離感の近さが嬉しい。聴きやすいけど迫力のある、絶妙なバランスのサウンドだ。
【W60】
続いて、BAドライバーを6基搭載するW60を聴いてみる。こちらはさらにウェルバランスでリアリティの高いサウンドといったイメージ。以前のW60はウォーミーさが強めな音色傾向だったが、新W60はもう少し普通というか、比較的素直なキャラクターへとシフトしている。
また、どの帯域も充分以上の解像度感が確保されているため、音数の多いリアリティの高さも持つようになった。Wシリーズらしく、低域がやや強めな、重心の低いサウンドバランスも特徴だ。おかげで、男性ヴォーカルは厚みのある、そしてどこか朗らかな歌声を聴かせてくれる。ベースの演奏も、フレーズがよく見えるうえグルーブ感も高い。
一方、女性ヴォーカルはハスキーな感じを残しつつも、抑揚表現が丁寧な、伸びやかな歌声がとても心地よく感じられる。この2機種を比較すると、女性ヴォーカルなら断然こちら、W60だろう。かなり完成度の高いサウンドだと感じた。小さくなった筐体といい、Bluetoothワイヤレスケーブルが付属することといい、なかなか魅力的なモデルへ進化したと思う。
余談となるが、W80もお借りしたので、「Bluetoothケーブルバージョン2」と組み合わせたサウンドもチェックしてみた。ソニーのウォークマン「ZX300」とaptX HDコーデックで接続してみると、かなり良質なサウンドが再生される。
Bluetoothケーブルとしては、メリハリ重視の表現となるが、解像感は高く、音数もそれほど損なわれていない。晴れやかな、活き活きとしたサウンドだ。有線接続と比べ、W80のサウンドの魅力を全て享受することはできないが、ワイヤレスならではの利便性を考えると、屋外ではこちらの利用が高まりそうだ。
“迫力の低音”だけじゃないBシリーズ
さて、ここからは新モデルBシリーズに話を移そう。
Bシリーズは、Westone初となる低音重視モデルで、今回2製品がラインナップされた。ドライバー構成と付属フェースプレートカラー、実売(全機種オープンプライス)は以下のようになっている。
- B30 BA×3基(高域1・中域1・低域1) (メタルオレンジ、メタルブラック) 47,800円前後
- B50 BA×5基(高域2・中域2・低域1) (メタルオレンジ、メタルブラック) 79,800円前後
偶然か必然か、ドライバー数はWシリーズにない数をチョイスしており、製品名もWシリーズにはない30と50が与えられている(ちなみにproシリーズには50型番などもあるので偶然だと思う)。
Westoneのサウンドデザイナーであるカートライト兄弟が、“よりアグレッシブなベース音を求めるユーザーの声が多いこと”に注目し、新しいクロスオーバーと新しいアコースティック設計により作り上げたのがこのBシリーズだという。これまで積極的に個性的なサウンドを作り上げることはしていなかったWestoneだけに、この製品は画期的な存在といえる。
筐体デザインは、Wシリーズと基本的に変わらない。ただし、よく見比べてみるとやや上下に大きい作りになっていたりと、ディテールは多少異なっている。
付け替えが可能なフェースプレートは、W10、W20に近い、挟み込むタイプとなっている。一方で、B30とB50の筐体はほぼ変わらず、大きさもほとんど同じ。フェースプレートの型番ロゴがなければ、見分けはつかないかもしれない。
付属品は、W40あたりと同じ。High-Definitionシルバーケーブルと、Bluetoothワイヤレスケーブルが付属する。イヤフォンだけでなくプレーヤーも収納できるセミハードケースも同梱されている。
Bシリーズ最大の特徴はサウンドだろう。ということで、早速試聴してみることにした。まずは、3BAドライバー構成のB30から。
【B30】
こちらもひとことで表してみると、たっぷりとした低域による迫力のサウンド、といったイメージ。ただし、ここがWestoneらしさ、カールライト兄弟らしさなのだろう、かなりのボリュームを持つ低域なのだが、フォーカスがしっかり確保されているためか、普段と音色的な違和感がないうえ、中域が埋もれることもない。おかげで、男性ヴォーカルは落ち着きのある、それでいて表情豊かな活き活きとした歌声を聴かせてくれる。
ほんの少しウォーミーな傾向も持ち合わせているが、高域への伸びはしっかりと確保され、スネアは切れも伸びもよく、サックスも艶やかな音色を聴かせてくれる。また、高域のざらつき感が巧みに抑えられているのか、特にJポップが聴きやすい。とても落ち着いた印象のある、ジェントルなサウンドキャラクターとなっているので、人によってはWシリーズよりこちらの方が好み、という人がいることだろう。
また、音量小さめで音楽を聴く人も、B30の帯域バランスがちょうど良いと感じるかもしれない。なかなか、魅力あるサウンドだと思う。
【B50】
続いて、5BAドライバー構成のB50を聴く。こちらも、基本的なキャラクターはB30と同じ。より量感がリッチになった低域と、繊細で丁寧な表現の中高域が組み合わされ、パワフルさとジェントルさとが巧みに融合したサウンドを楽しませてくれる。
ただし、解像感に関してはB30よりも高く、音色はややウォーミー寄り、抑揚表現もジェントルさが増したイメージにシフトしている。結果として、スネアは余韻や付帯音が増したように感じ、ピアノの響きもウォーミーだ。
一方で、男性ヴォーカルは歌声が一段とリアルに感じられるなど、音質面での上質さではかなりの差を持ち合わせている。“落ち着いた音色で迫力のあるB30”か、“音質も低音もリッチなB50か”、悩ましい選択だ。
B50でBluetoothケーブルによる接続も試聴してみた。プレーヤーはウォークマンZX300だ。
有線と比べると解像感は少し落ち、高域にちょっとした伸びやかさが加わる変化があるものの、低域のパワフルさや中高域のジェントルな表現は健在で、聴き心地の良い迫力サウンドを楽しませてくれる。電車内など、騒音レベルの高い場所や外出時には、こちらを活用するのも良さそうだ。
予算と好みに合わせ、より選びやすくなった
このように、リデザインされたWシリーズも、新しいBシリーズも、Westoneならではといえる、徹底的にサウンドを作り込んだ良質な製品に仕上がっていた。
特に、コンセプトを持ってサウンドキャラクターを作り上げたBシリーズは、Westone製イヤフォンの新たなる魅力を味合わせてくれる、魅力的な製品だ。
UM Proシリーズも含め、Westoneには幅広いラインナップが用意されているので、音の好みと予算に合わせて、お気に入りの1台を選んで欲しい。とはいえ、W80ユーザーの筆者としては、W60かB50か、それともB30を選ぶべきか、いやいや「Bluetoothケーブルバージョン2」が先だろうと、色々思い悩んでいる次第だったりする。
(協力:テックウインド)