仕事の効率が悪いのは、「動線」を意識していないから。

そう断言するのは、『トヨタで学んだ動線思考 最短・最速で結果を出す』(原マサヒコ著、祥伝社)の著者です。

トヨタのディーラーで整備士をしていたという実績の持ち主。「無駄な動作」に敏感なトヨタの現場で鍛えられたため、異業種に転職したときにはオフィスで働く人たちの動作が「ものすごく遅い」と感じたのだそうです。

昨今の日本では、残業が社会問題になっており「働き方改革」の名のもとに残業時間そのものは減少しているのかもしれませんが、仕事は減っていません。 これは、「無駄な動線」を歩いている人が多いからではないでしょうか。

ここでの「動線」は職場でのリアルなルートだけでなく、スケジュールの立て方やパソコン操作、考え方といった抽象的な「歩きかた」も含めたいと思います。

まずは「動線」を意識してほしいのです。リアルな動線、抽象的な動線、それらを見直して減らすことで、余計な仕事を減らし、労働生産性を高めることができるはずです。(「はじめに トヨタの現場で叩き込まれたのは『正しい動線』だった」より)

そうした考え方のベースになっているのは、トヨタの現場に貫かれている「カイゼン」。「もっといい方法があるはずだ」という視点を軸に、常に仕事の進めかたをブラッシュアップしているわけです。

もちろん動線についても同じ。動線を意識することで、現状に満足することなく「いまよりよい方法」を考えるクセも身につくようになっていくということ。

そこで本書において著者は、動線についてのさまざまなノウハウを明かしているわけです。

注目すべきは、職場を移動する際の動線はもちろん、スケジュールの立て方やパソコン操作における動線にまで言及している点です。

きょうはそのなかから、デスクまわり、ノートやスケジュール帳内での動線の組み立てかたについて述べられた第4章「机の上の動線を極めよう」に注目してみたいと思います。

よく使う書類は利き手の近くに

自分のデスクは、一日のなかで多くの時間を過ごす場所。そこでムダな動線が多くなってしまうと、「多くの時間をムダにする」ということになってしまうわけです。

だとすれば知りたいのは、デスク上にあるどんなものがムダな動線になっているのかということ。そこで著者は、「デスクまわりのモノの配置」に注目しています。

その根底にあるのは、「動作経済」の原則。以下の4つを基本に考えていけば、なにをすればよいのかがおのずと定まってくるというのです。

原則 (1) 仕事をする時には両手を常に同じ業務に充てること

原則 (2) 必要な基本動作の数を最小にすること

原則 (3) 個々の動作の距離を最短にすること

原則 (4) 動作を楽にすること (122ページより)

これに則って考えていくと、“右利きの人が電話をしながらメモをする”というときには、受話器を左手でとって右手でメモをするということになるはず。

そして、その動作を考えれば、電話機とメモ帳はどのような配置がベストなのか、おのずとわかってくるわけです。

同様に右利きの人であれば、よく使う書類のファイルはすぐ取れる右側に置くべき。

些細なことではありますが、こうした日々の細かな動きをもとにして、「いかに動作の数を減らしていけるか」を常に考えていくことが大切だというのです。

著者がこれまで見てきたオフィスでは、よく使う資料が入っているキャビネットが席から離れているというケースがあったそうです。

また、右利きなのに文房具を左側のケースに入れているため、腰をひねったり体を動かして取っている人もいたのだとか。

しかしそのように動作が増えてしまうと、それだけ時間のロスが大きくなってしまいます。

たかが数秒だとはいえ、年間でみれば膨大な時間をムダにすることになるのですから、意識してみる価値はありそうです。(122ページより)

資料探しに「10秒ルール」

“資料を探す”という行為に関しては、“10秒ルール”を儲けるとよいと著者は記しています。いったい、どういうことなのでしょうか?

トヨタの現場で実際にやっていたのですが、整備作業をしているときに無理な体勢でネジを回したりすることがあります。

そういった作業をしているときに、先輩が「ラチェット!」などと工具を渡すよう求めてくるのですが、すぐにパッと渡せないと怒られてしまいます。

(中略) ですから、どんな状況であっても、10秒以内に渡せるようにしていました。(134ページより)

これは整備作業に限らず、どんな仕事にもあてはまるはず。

だからこそ、「自分が日々使っている書類や備品を10秒以内に見つけ出せるかどうか」を試してみてほしいと著者は言います。

10秒以内に見つけ出せないものがあるなら、整理整頓に問題があるということになるわけです。(124ページより)

引き出しの中身も“3定”を意識

「机の上はきれいにしているけれど、引き出しのなかが散らかっている」という人は少なくありません。

パッと見をきれいにしておけばいいと考える人だったり、そもそも片づけられない性格であったりと、理由はさまざま。

しかし引き出しが片づかないのは、「仕組みができていないから」だと著者は指摘しています。

引き出しの片づけを仕組み化するため最初に取り組むべきは、保有するモノの「定量」を決めてしまうこと。まずは、すべてのモノの個数を決めてしまうということです。

そして、その量を増やさないために置ける場所を仕切るなど、“一定量以上置けない仕組み”をつくることも大切

その次にすべきは、置き場所を決める「定置」を行うこと。

使用頻度や効率のよい動線を重視して、最短・最小限の移動で出し入れできる場所を定位置としてしまうということです。

共用の道具入れであれば、定位置を決めたら「住所」をつくってしまうのがよいといいます。その道具入れに入っている備品の名前を書き、住所を明示して貼り出してしまうということ。

さらに工夫して写真つきのものを貼り出したりすると、わざわざ開けなくてもなにが入っているかわかることになります。

モノは見えないところにたまるもの。見えないところにあるモノを探そうとする動線はムダだということになります。しかし、どんどん可視化していけば、ムダな動きを減らせるわけです。

引き出しの奥にたまりやすいものは、過去の書類など「いつか使うかも」と取っておきがちなものであるはず。しかし、そういったものは「期間」を判断基準にして整理してしまうことが大切。

「3カ月以内」「1年以内」など、期間による制限を設けて張り紙をし、その期限が来たら有無を言わさず処分してしまうということです。

定量と定置について触れましたが、「3定」はそもそも何を(定品)・どれだけ(定量)・どこに(定置)配置するか、という3つの定です。

「何をという「定品」をどう決めたら良いかというと、「使用頻度」っと「動作経済」を基準に決めるべきでしょう。(129ページより)

つまり、「よく使うものほど取り出しやすい場所に保管する」ということ。自分自身がよく使うものはなんなのか、そして、それがどこにあると取り出しやすいのか。

この「使用頻度」と「動作経済」のつながりは、動線を設計する際にぜひ意識してほしいと著者は主張しています。(127ページより)


本書を通じて著者が伝えようとしているのは、「日々の仕事のなかで、無駄な動線を減らしていかなければならない」ということ。

さらには最適だと考えている動線についても「もっと減らしていけないか」と常に考えるべきだといいます。なぜならそうすれば、残業に悩むこともなくなるはずだから。

仕事の効率を高めたいという方は、参考にしてみてはいかがでしょうか?

きっと、適切なヒントが見つかるのではないかと思います。

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Photo: 印南敦史

Source: 祥伝社