SpaceXのFalcon Heavyロケットに載ってたものが多彩過ぎる

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
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SpaceXのFalcon Heavyロケットに載ってたものが多彩過ぎる
Image: SpaceX/YouTube

人工衛星24機、その目的もさまざま。

6月24日午前2時30分(米国時間)、米国フロリダ州にあるケネディ宇宙センターからSpaceXの超大型ロケット、Falcon Heavyが飛び立ちました。今回の打ち上げはイーロン・マスクCEO自身も「今までで一番難しい打ち上げ」と認めていましたが、搭載していた24機の人工衛星の3つの軌道への投入も無事完了した模様です。打ち上げのときの様子は、下の動画の24分58秒あたりから見られます。

Video: SpaceX/YouTube

Falcon Heavyロケットの打ち上げはこれがまだ3回目ですが、今年4月に使って回収したサイドブースターが再利用されていて、今回の打ち上げ後もその回収に成功しました。上の動画では33分30秒あたりからその興奮の場面が確認できます。一方、フロリダから1,240kmほど離れた大西洋沖に浮かべたドローン船「Of Course I Still Love You」への着地を目指していたコアブースターの部分は回収できませんでした。動画では36分20秒あたり(解説者さんたちの「無理めの電車にダッシュで乗ろうとしたけどやっぱ間に合わなかっただけ」くらいの爽やかなリアクションが印象的)です。

いくつもの「初めて」をクリア

米国防総省的がSpace Test Program-2(STP-2)と名付けたこのミッションでは、「初めて」がたくさんあります。Falcon Heavyを夜間に打ち上げるのも、米国防総省がSpaceXのFalcon Heavyを使うのも、Falcon Heavyが複数の衛星を軌道投入するのも、初めてでした。宇宙へと運んだものは多岐にわたり、重量は3,700kgに及びました。

そして今回初めて、搭載物を保護するフェアリング(ロケットの先端部分)の回収にも成功しました。海軍の船「Mr. Steven」改め「GO Ms. Tree」が広げた網で、無事キャッチできました。

さらにSpaceX的に初めてなのは、上段ロケットの噴射が4回あることです。彼らは上段ロケットのエンジンをミッションの中で3回を超えて点火したことはない、とSpaceFlightNowは伝えています。またコアブースターの着地点は、前回の打ち上げでは沖合い970kmだったのが、今回1,240kmに伸びています。全部が成功ではないにしろ、できることが着実に増えている感じです。

人工衛星っていろいろある

このミッションでは、SpaceXと米国防総省が米国内外の官民とりまぜた複数の組織とパートナーシップを組んでおり、その相手はNOAA(米国海洋大気庁)、NASA、大学、NPOなどさまざまです。

24機の衛星の中には、米空軍研究機関のDemonstration and Science Experiments(DSX)のものもあります。こちらは、地球の中軌道での太陽の放射線の影響を観測するのが目的です。電子部品や素材が長い間太陽にあたるとどれくらい劣化するか、を研究するってことです。Hill Air Force Baseによれば、「最終的には、米国がより耐久性のある宇宙システムを編成する能力を向上させる」とのこと。この中にはNASAのSpace Environment Testbeds (SET、直訳:宇宙環境テストベッド)も含まれていて、こちらは長期間での太陽放射線のハードウェアへの影響を測るのに利用されます。

Video: NASA Goddard/YouTube

もうひとつ、NASAのGreen Propellant Infusion Mission(直訳:グリーン推進剤注入ミッション)は、今普通に使われているロケット燃料がケミカルで環境に優しくないので、もっと優しい燃料を開発しよう、というプロジェクトです。NASAはBall Aerospace&Technologiesなどのパートナーとともに、小さな衛星を使って新種の燃料、たとえばAF-M315EとよばれるHydroxyl Ammonium Nitrate(HAN、硝酸ヒドロキシルアミン)をベースとするものなどをテストしようとしています。衛星を軌道上でいろいろ操作して、「姿勢制御や軌道傾斜角の変更、軌道降下などの際の推進剤の性能を実証したい」とNASAは言っています。

太陽の力で進む宇宙船

Falcon Heavyに載っていたものの中でさらに楽しみなのは、惑星協会がクラウドファンディングで開発した太陽帆宇宙船・LightSail 2です。LightSail 2の目的は、惑星協会によれば「地球の軌道上で初めて、太陽光だけによって推進される宇宙船」を作り出すことです。先代のLightSail 1は2015年、まずはそんなアイデアが宇宙空間で通じそうだってことを実証しましたが、今回のLightSail 2は一歩進めて、太陽光を使って軌道を上げていこうとしています。

「太陽帆を通じ、我々は1日0.5kmのオーダーで軌道高度を高められるはずです」SpaceNewsによれば、このミッションのプロジェクトマネジャーでパデュー大学の教授、David Spencer氏は電話会議で言っていました。「定常的にある程度の高度上昇ができ、徐々に軌道を上げてもっとも遠い軌道である遠地点が見えれば、我々の勝利です。」

Video: The Planetary Society/YouTube

惑星協会によれば、LightSail 2はジョージア工科大学の学生たちが作った衛星・Prox-1の中に入っています。打ち上げから1週間ほど経った時点で、高度720kmで放出される予定です。

「これは40年越しの夢なのです」惑星協会のCEO、ビル・ナイ氏は米Gizmodoへのメールで語りました。「世界中の何万という人が力を合わせて、この瞬間を実現させたのです。太陽帆はゲームチェンジャーです。LightSail 2の末裔は、いつか別の星に行けるかもしれません。ゴー、LightSail 2!」

研究をサポートする人工衛星たち

NOAAが作った6機の衛星集団、Constellation Observing System for Meteorology, Ionosphere, and Climate (COSMIC-2、直訳:大気、電離層、気候のためのコンステレーション観測システム)も、Falcon Heavyに載っていました。この衛星コンステレーションは、地球の低軌道を周りながら、宇宙天気が地球の大気に与える影響のモニタリングに貢献しようとしています。

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Image: UCAR
COSMIC-2のイメージ図。

COSMIC-2は地球の大気圏のさまざまな高度の中で、その気温や気圧、空気密度、水蒸気といったデータを集めます。COSMIC-2のミッションは大気研究大学連合(UCAR)と米空軍、台湾の国立宇宙機関(NSPO)のパートナーシップで、UCARによれば「大気や電離層の観測数を革命的に増加させ、これによって研究・運営コミュニティに多大なメリットをもたらす」ことが期待されています。

またもうひとつNASAから、深宇宙原子時計もFalcon Heavyで宇宙に飛びました。これは1年がかりのミッションで、最終的には探査機が深宇宙を自律的に進んでいくのをサポートすることにつながります。宇宙用のGPSみたいなイメージです。

あと重量70kgのナノ衛星・Oculus-ASRも12機搭載されました。ミシガン工科大学の学生グループが作ったこれらの衛星は、地球上から軌道上の宇宙船をモニタリングする宇宙望遠鏡のキャリブレーションをする際の目標物として使われます。

たくさんの人の思いを宇宙へ

SpaceXはまた、宇宙葬を行なうCelestisの「Memorial Spaceflights」として、152人の遺灰も運んでいきました。BGRによれば、遺灰の主の中には、NASAの宇宙飛行士Bill Pogue氏、日本の野球選手の富田勝氏、宇宙ジャーナリストのFrank Sietzen氏などがいます。遺灰を入れた容器は、25年ほど後に地球の大気圏に降りてくると予測されています。

…というわけで、今回のFalcon Heavyには、ひとつのロケットにさまざまなプロジェクトや思いが詰まっています。すべてのミッションが無事に進んで、搭載したものそれぞれが宇宙のいろいろなところでそこに込められた思いを果たしてくれればと思います。

Source: SpaceX, NASA, SpaceFlightNow, Hill Air Force Base, SpaceNews, UCAR, Celestis