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山本太郎の「れいわ新選組」は既存政党を喰いつくす

安積明子政治ジャーナリスト
れいわ新選組で天下をとれるか?(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

自民党をはるかに超えた聴衆の数

 山本太郎氏が率いる「れいわ新選組」の進撃が止まらない。7月2日午後7時から新宿駅西口で行った街頭演説会には約1000名が集まった。山本氏は同場所で6月19日にも演説会を開いたが、それよりも確実に聴衆の数は増えている。

 自民党は同日、同じ場所で街宣を行った。参議院選に東京都選挙区から出馬予定の丸川珠代元環境大臣と比例区から出馬予定の丸山和也氏の他、非改選の中川雅治元環境大臣や青山繁晴氏、朝日健太郎氏が参加。G20で大役を終えたばかりの世耕弘成経産大臣や党女性局長の三原じゅん子氏も応援に駆け、豪華な面々が顔を揃えた。

 ところが集まった人たちはせいぜい150名。山本氏の演説会にはるかに及ばない。そればかりではない。空気が違うのだ。

 実際のところ、自民党の街宣に集まった人たちは、必ずしも穏やかな聴衆とは限らなかった。彼らには標的があった。三原じゅん子氏だ。

 三原氏は6月24日の参議院本会議で安倍晋三首相の問責決議案に対して反対討論を行ったが、この時に激しく野党を批判。「民主党政権の負の遺産の尻ぬぐいをしてきた安倍総理に感謝こそすれ、問責決議案を提出するなど、全くの常識はずれ。愚か者の所業とのそしりを免れません」と述べ、最後に「恥を知りなさい」と叱責したのだ。

 これに強く反発する人たちが事前にネットでこの日の三原氏の登壇を調べ上げ、集まってきたのだろう。三原氏の演説になると、「恥を知れ」のプラカードや幟が掲げられ、「恥を知れ!お前らに年金を語る資格はない!」との罵声が飛んだ。

 小競り合いもあったのだろう。警備していたSPのひとりが飛んできて、暴言を吐いた人を制止する場面もあった。

演説会では1万円を寄付する男性も

 しかしその騒然とした雰囲気は、1時間後には一掃されていた。三原氏に罵声を飛ばし、「恥を知れ」との幟が掲げられたと同じ場所に、れいわ新選組のピンクの幟がはためき、ライトやモニターが設置された。午後7時の「開演」の前からすでに支持者がどんどん集まってきた。「ステージ」の側にあるオリジナルグッズの販売コーナーでは、クリアリーフやTシャツが売れていた。

 その隣は寄付のコーナーで、若い女性が封筒に住所氏名を書き込み、1000円札を入れていた。同じく20代と思しき男性が、1000円札を寄付していた。中には1万円札を差し出す男性もいたが、短い時間にざっと見ただけで10名くらいが寄付をしていた。こうして集められた寄付は、7月1日までに2億2570万円にものぼっている。

 候補の面々も個性的だ。5月31日に北朝鮮による拉致被害者家族会連絡会の事務局長だった蓮池透氏の擁立が発表された。6月27日には安冨歩東京大学東洋文化研究所教授、翌28日には自立ステーションつばさ事務局長の木村英子氏、7月1日は元コンビニオーナーの三井義文氏、2日に沖縄創価学会壮年部の野原善正氏など、次々と候補が決定。他の政党にないインパクトがある面々であることに加え、極めて巧妙な戦略が読み取れる。

障碍者の代表は木村氏か斉藤氏か

 たとえば木村氏の擁立だ。生後8か月で事故のために重度の障碍を持つことになった木村氏は出馬会見で、障碍者の人生がいかに閉じ込められたものかを述べていた。

「お盆や暮れには介護者が足りなくて、(入りたくない)施設に入れられる」

 また介護の手が足りない時は、1日1食しかとれない人もいるなど、深刻な人権侵害の現状が語られた。

 同じく障碍を持つ候補としては、立憲民主党が「筆談ホステス」として有名になった斉藤りえ氏を擁立する。5月7日の出馬会見で、斉藤氏は元社民党参議院議員で視覚障碍を持つ堀利和氏から、「国会には2004年から障碍を持つ議員はいなくなった。斉藤さんには障碍者の代表として頑張ってほしい」と託された。

 斉藤氏はシングルマザーとして子育て政策も訴えるが、やはりメインは障碍者政策だろう。しかし斉藤氏は会見で「国政の福祉政策で、何が足りないと思うのか」という筆者の質問にきちんと答えられなかった。ちなみに立憲民主党は元「モーニング娘。」の市井紗耶香氏も「子育て世代の代表」として擁立したが、市井氏も出馬会見で政策についての質問に対し、ほとんど答えることはできなかった。

 「見てくれ」の立憲民主党に対し、「実務則対応」のれいわ新選組。ともに障碍者の代表を自任する2人の候補を見ていると、そう思わざるを得ない。仮に木村氏の得票が斉藤氏に負けたとしても、れいわ新選組の快進撃を見ると、斎藤氏の票をかなり喰うことは間違いない。

LGBTでも立憲民主党に喰い込む

 性の多様化という観点でも、女性装の安富氏を擁立するれいわ新選組は立憲民主党の脅威となるだろう。立憲民主党にはレズビアンをカミングアウトした尾辻かな子衆議院議員が在籍し、増原裕子氏や石川大我氏を参議院選で擁立。婚姻平等法案・LGBT差別解消法案を提出したこともある(廃案)。

 しかし安冨氏は2018年7月8日の東松山市長選に挑戦するなど、積極的な活動を展開。7月2日の演説会でも聴衆に人気を博していた。

 台風の目となろうとしているれいわ新選組だが、17日間の選挙でどのくらい大化けするのか。7月2日夜には山本氏の比例区への鞍替えも報じられた。比例区で議席の積み増しは可能なのか。また東京都選挙区の議席は死守できるのか。れいわ新選組からますます目が離せない。

※石川大我氏の箇所に事実誤認がありましたので、訂正しました。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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