変化とは、違うものにすること。ある状態から別の状態に移行すること。
クリエイティビティとは、なにかをつくり出す能力。素質。創造的な状態。
イノベーションは、新しいものを世に出していくこと。新しさを表現するものごと。
そしてラテラル・シンキング(水平思考)とは、論理的段階を踏むより、問題への新しい見方を探す思考法。
『ラテラル・シンキング入門 発想を水平に広げる』(ポール・スローン 著、ディスカヴァー編集部 訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の冒頭では、このように説明されています。
1970年、創造的教育の研究者であるエドワード・デ・ボーノ博士が提唱した発想法。
従来の、原因から結果が生まれるという前提に立った「直線的な」因果関係思考へのアンチテーゼとして生まれたのだそうです。
いわゆるクリエイティブ・シンキング(創造的思考)が、イノベーションに結びつくかどうかとは関係なく、新しい見方を一般的に表す言葉であるのに対し、「ラテラル・シンキング」は、あくまでもイノベーションに向けた新しい見方であると同時に、そうした革新的な見方ができるようになるためのテクニックである。(「はじめに」より)
そこで本書では、「前提を疑う」「奇抜な組み合わせをする」「見方を変える」などのラテラル・シンキングができるようになる方法を解説しているわけです。
きょうはPart 1「ラテラル・シンキングができるようになる10の方法」内の「方法1 前提を疑う」のなかから、いくつかのポイントをピックアップしてみたいと思います。
「カワカマス症候群」に陥っていないか?
ラテラル・シンキングを身につけるための最初のステップは、前提を疑うこと。これまでの経験に基づく常識、想定、思い込み、先入観、仮説といいかえることもできるといいます。
しかし厄介なのは、それがあまりにも当然のこととして、無意識のうちに私たちの日常のものの見方を規定してしまっているところ。つまり、自分がどのような前提に基づいているからわからないということです。
そして、このことに関連して著者は、よく用いられるというカワカマスの実験を引き合いに出しています。
カワカマスというのは、大型の肉食淡水魚で、小魚が餌だ。で、一匹のカワカマスを、たくさんの小魚の泳ぐ水槽に入れる。ただし、この水槽には、真ん中にガラスの板があって、小魚の群れとカワカマスは仕切られている。
そうとは知らぬカワカマスは、小魚に何度も飛びかかろうとするが、そのたびにガラスの仕切りに衝突し、鼻先を痛めてしまうころになって、ようやくあきらめた。そこで、今度はその仕切りをそっと取り外し、水槽中を自由に泳げるようにしてやった。
ところが、カワカマスはガラスの板で仕切られていた付近を相変わらずぐるぐる泳ぐばかりで、小魚を捕まえようとしない。 食べようとしても無駄で、痛い思いをするだけだと学んでしまったからだ。(28~29ページより)
このように、状況の変化に適応せず、誤った固定観念を抱き続けることを「カワカマス症候群」と呼ぶわけです。
実際、私たちもカワカマスのような行動をしているもの。これまでの経験と方法によって、問題に当たろうとしてしまいがちだということです。
しかしそこには、無意識のうちに持っている前提と先入観が介在しています。その「前提」「先入観」こそが、私たちを革新的なアイデアから遠ざける障害になるのです。(28ページより)
定義のなかに含まれる前提を疑う
問題の立て方のなかに、解決を妨げる前提が含まれていることもあるそうです。
たとえば中世の天体学の定義は、「重い物体がなぜ地球のまわりを回るのかについての学問」だったといいます。
つまり定義そのものに、地球が宇宙の中心であるという前提が含まれてしまっていたということ。
一五一〇年、ニコラス・コペルニクスは、太陽が太陽系の中心であり、ほかのすべての星は自転しながらその周りを回っていると確信したが、生涯、その論文を公表しようとはしなかった。それがいかにたいへんな論争を引き起こすことになるかわかっていたからだ。
地球が宇宙の中心であるという考えは、あまりに強く一般に根づいていたため、それを覆すのは容易なことではなかった。
定義自体に、仮説が含まれてしまっているもう一つの例は原子だ。 かつて、原子は物質の最小単位だと定義された。つまり、これ以上分割できないということだ。それが、科学者たちが、さらに原子を分割してみようと思いつく妨げとなった。(30~31ページより)
ビジネスにおいても、同じようなことはたくさんあると著者は指摘しています。いい例が、大半の戦略や決定の根拠となっている仮説。
それらはあまりにも基本的なことなので、誰も疑おうとしないということです。(30ページより)
経験や事実からの推測を疑う
経験を積み専門家として熟練するほど、既知の事実や経験から推定し、結果を予想しがち。
そのことに関連して、ここでは1901年に若きイタリア人技師であるグルエルモ・マルコーニがイギリスを訪れたときのエピソードが紹介されています。
彼の目的は、「電波は太平洋を越えて送受信できる」という独自の理論をテストすることだったそう。いうまでもなく、専門家は嘲笑したといいます。
当時は電波が直進することと、地球が巨大な球体であることが知られていたため、水平に電波を飛ばせば、そのまま地球の接線上を無限の空間に進んでいってしまうと誰もが考えたから。
それでもマルコーニはその実験に固執し、送信機をイギリスのコーンウォールに、受信機をカナダのニューファンドランドに設置。
その結果、電波は太平洋を越え、彼の実験は成功したのだそうです。地球の周囲には、電波を反射する帯電した大気の層、電離層が存在していたためです。
科学者たちは、電波は直進し、地球は球体であるという事実に基づき、理にかなった結論を出したわけです。その事実だけで十分だと思い込んでいたから。
しかし実際には十分ではなく、そこにはさらに、方程式を覆す未知の事実があったということ。
私たちは経験を通じ、いくつもの仮説を積み重ねていきます。それは、あたかも壁のようなもの。
常識、仮説、経験、伝聞、人のうわさなどが積み重なってできた壁です。いわば360度自由に周囲を見回すかわりに、視野を狭い範囲に限定してしまっているのです。(31ページより)
当然だと思っている日常の物事を疑う
大切なのは、前提を疑うこと。前提を疑うというのは、当然だと思っている日常のものごとを疑ってみるということです。
たとえば、重力。重力は紛れもない事実ですが、世界最大の航空機メーカーであるボーイング社は、実験的に反重力計画というものに取り組んでいるのだそうです。
これを支えている理論をハードウェアに設計できれば、過去一世紀の航空宇宙の推進力技術を覆すことになります。
そのためシアトルにあるボーイングのファントムワークス高度研究開発所は、反重力装置を開発したと語るロシアの科学者に協力を持ちかけているのだとか。
これが飛躍的な発明であったか、不毛な期待にすぎなかったかは、いずれ時が明らかにしてくれるはず。
しかし、どうであれ、ボーイング社の人々には、もっとも根本的な根拠を疑うだけの心構えがあるということだけは間違いないわけです。(35ページより)
ラテラル・シンキングができるようになるための方法はもちろんのこと、本書ではそれをチーム・組織づくりに活かすためのアイデアも紹介されています。
だからこそ、ビジネスに大きく活用できるはず。硬くなりがちな思考を柔軟な状態に戻すためにも、手にとってみる価値はありそうです。
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Photo: 印南敦史
Source: ディスカヴァー・トゥエンティワン