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NHK学生ロボコン2019|京都大学にド直球インタビュー なぜ優勝できたのか?

学生ロボコン2019 京都大学
「なんで勝てたか……、不明、です」。

2019年NHK学生ロボコンは、既報のように、京都大学・機械研究会が優勝した。15年ぶりの出場は、実質的に初出場のようなものだろう。そして予選リーグ、決勝トーナメントを通して、「強豪」と当たり続けた。失礼を承知で言えば、多くの人が予想しなかった結末、と言えるのではないか。

冒頭の発言は、そのチームの発起人であり、リーダーでもある森田瞭平さんによるもの。しかし、これをその言葉通りに受け取っていいのだろうか。何か、ここへ至るまでの流れが、あるいは勝因というべきものがあるのではないか。そんな疑問を持ちながら、京都大学・吉田キャンパスにある部室に、モンゴル・ABUロボコンを目前に控えるメンバーをたずねた。

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NHK学生ロボコン2019 京都大学 初代MR2↑インタビューに応じてくれたのは、左から、岡本尚之さん、森田瞭平さん、松本直樹さん、鈴木誠さん(以下敬称略)。

「オムニホイールを見たことがなかった」ところから NHK学生ロボコンプロジェクト発足

━━時系列でお伺いしていきます。まずはなぜ15年ぶりに出場を志したのか、教えてください。

森田:僕が、2018年のNHK学生ロボコンをストリーミングで見ていて、かっこいいな、と思ったのが始まりです。リングに向かってシャトルを投げる、ネムコン“シャトルコックスローイング” ですね。特に、東京大学の彼氏・彼女の彼女の方が(※編注:彼氏・彼女とは各ロボットに付けられた名称。このコンビは圧倒的な速さを誇った)。あとは、機械研究会はサークルとして知名度が低すぎるので、もうちょっと人目につく大会に出よう、あわよくばテレビに映ろう、という(笑)。

━━とは言え、15年ぶりです。なかなかの大プロジェクトです。資金も必要です。

森田:最初から最後まで、「いける」とは思っていませんでした。でもやり始めたら、これまでやってきたことが案外応用が利くというか、どうにかなるかな、という感触を持ちながら、という感じです。それまで、その他のロボコンにはいくつか参加していたんです。

資金面に関しては、OBOGのみなさんの寄付が本当にありがたかったです。そこに自腹を加えて、合計で120〜130万円ぐらい。ただ、今までの蓄積がない状態からのスタートですから、消し飛んでいった、という感覚です。実際、ほとんど残っていませんでした。

━━ロボットのことや、開発の経緯の詳細は、デバプラで配布している技術解説資料の『解剖計画』でお聞きします。全体的には、試行錯誤しながら「なんとかし続ける」というような、混沌とした開発現場だったと聞いています。しかし、最終的には、仕上がりましたよね。しかも、外から見た勝因は「安定感」です。

森田:各自の技術力で押し切ったところはありますね。各自の担当分野は各自の技術力でなんとかして、それを無理矢理がっちゃんこした感じ。そもそも部としての蓄積がなくて全部イチからつくるしかないとなると、そういうことにならざるを得なかった。それまでオムニホイールをちゃんと見たことがない、とかですから(笑)。もちろん、デバプラもデバプラの「解剖計画」も、少なくとも僕個人は熟読しました。

NHK学生ロボコン2019 京都大学 初代MR2↑初代MR2。このときは、ライク・ア・ホースを志した。2代目はエアシリンダで足を持ち上げるタイプ。3代目はジャンプ機。4代目が最終形。

「動くと思っていなかった」前日から、優勝まで

━━大会前日、当日は、どんな気持ちで会場入りしましたか?

森田:当事者としては、まったくうまく動くとは思っていなかったというか。例えばシャガイ投げがうまく50点で立つことなんか……、

岡本:テストで1回あったかどうか……、

森田:でも試合に行ってみて、あ、立つじゃん、って。MR2に関しても、うちで引いていたフィールドの精度がそれほどでもないので、自動化しても毎回同じようにやってくれるか、本番のフィールドでは不透明でした。でも、テストランをしてみたら「案外いける」となりました。いや、いけるというか……、ギリギリなんとか、という感じですかね。

━━予選グループは、いわゆる死のグループ、豊橋技術科学大学と東京工業大学でした。紛れもない強豪です。

松本:絶望(笑)。森田君が抽選から帰ってきた時、手に持っていた発泡スチロールボードをバキッって割ってしまいました。で、みんなであぁーーーーっとアタマを抱えました。

森田:京都大学(以下、京大)が15年前に出場したときは、1勝もできなかったと聞いていました。だからとりあえず1勝したい、というぐらい。

でも考えてみると、実際にはロボット自体はそれなりに動いていて、人間の方がロボットより悲観的になっていた、というのはあるかもしれません。変な言い方ですが。

━━結果は、2勝です。

NHK学生ロボコン2019予選組み合わせ表↑強豪ぞろいの予選トーナメントを見事勝ち残り、決勝トーナメントへ進出。

森田:初戦が対豊橋さんだったんですが、その前と後で、まったくモードが変わりました。前は、緊張しているのと「負け確定モード」だったのが、勝った後は急に目の色が変わった。あれ?勝てる……?と。

松本:ただ、とは言え「決勝に進めたから満足、ま、いっか」みたいな……、

森田:他のチームのタイムを見ていたら、決勝トーナメントではほぼ確実に長岡科学技術大学さんと当たることがわかりました。それで、「あっ、これ終わったな」と。でも決勝に行ければテレビにもちょっと映るかな、って(笑)。

━━ところが、その長岡にも勝利。さらには準決勝では、みなさんがこのNHK学生ロボコンに出場するきっかけにもなった東大にまで勝つことになりました。
NHK学生ロボコン2019トーナメント表↑準々決勝では長岡技術科学大学に勝利、その後準決勝で東大を破り、決勝へ。

森田:長岡さんの時は、もしミスが出ればワンチャンあるか、と思ってたんですが、東大さんの時は負け確定、「シャガイ投げまでたどり着くか?」という状態です。

でもベスト4に入れば『解剖計画』を書けるって思い込んでて、良かったと思ってました(編注:正確には各賞の受賞校に依頼している)。やりきった感はありました。

鈴木:直前に、MR1のシャガイをつかむ部分が壊れて、人間で言うと手がプランプランしているような状態だったんです。で、勝敗どころじゃなかった。

━━そして、決勝戦の早稲田です。

森田:試合中、勝っている感覚はなかったんです。試合の後半、シャガイ投げが勝負のキモになっていましたが、あのときフィールドでは、正しい点数とかどちらが先に投げたとか、よくわかりません。歓声もすごくて、審判ともちゃんと話せない。で、正直、負けた、と。150対150の同点で、相手のほうがシャガイを投げた数が多い。

でも、うちの方が先に投げていたんですね。

学生ロボコン2019 京都大学 初代MR2↑早稲田戦。記者もその勝負の行方を見失っていた。

崩れ落ちた理由

━━優勝のコールがあったあと、崩れ落ちてましたよね?

鈴木:全員ずっこけて(笑)。

━━……ずっこけ!?

森田:あれは、どう感じたらいいのかわからない、自分でも受け止められないというリアクションです(笑)。勝ったのか負けたのかわからなかった、勝ったのはもちろんうれしいけど、ロボットは壊れているし、日本代表でモンゴルだし、素直に大喜びしていいのか、これはマズいんじゃないか……。

━━なるほど、日本代表としてモンゴルに行くことに対して、圧を感じたわけですね。あえて率直に言えば……、ロボコンファンに、「最速のタイムではない京大が世界大会に行くのは心もとない、と思われるのでは」ということですね。

松本:当日、新幹線で帰りながら、Twitterなんかを見るわけです。そうすると、「世界」を基準にした厳しい言葉がチラチラと……。でも森田君は、「俺らはやれるだけのことをやりきったらいいやん」て。

森田:そう、でも、やっぱり、潰されそうになることもあります。

━━確かに。でも、そこにとどまっているわけではないですね。

森田:はい、今、モンゴルに向けていろいろやっています。全体としては、モンゴルまでにやりたいことを10としたら、3割ぐらいでしょうか……。マズい状況ではありますが、やれるだけやっています(編注:取材は6月中旬に行われた)。

MR1に関しては、森エリアの通過スピードが遅すぎると考えていて、これを5秒ぐらい縮めたい。他のチームや海外勢も全部解析して、改良ポイントを見いだしています。それに加えて、シャガイ投てきの後の無駄な時間を削ります。

MR2は、全体のタイムが50秒だとしたら、40秒ぐらい使っています。30秒ぐらいにすべく、完全につくり直しています。特に対策しているのは、砂丘の段差を越えるスピードです。

NHK学生ロボコン2019 京都大学 機械研究会↑『デビルマン』……ではなく、一応のモンゴルガイド本。その隣は『円周率1,000,000桁表』。……のペルシャ語版。なんというか、これがここにあってなんの不思議もないところがクール。

「負けなかった」理由

━━改めて、実質初出場にも関わらず、活躍できた理由をどう捉えているか、お聞きしたいです。

森田:そうですね……、運、が大きいと思います。

岡本:個人的には、ロボコンの魔物に、相手が呑まれていた……という感もあります。

森田:負けなかったから勝った、としか言いようがない。勝ったわけではなくて、負けなかった。常に「勝負に負けて試合に勝っていた」、という感覚です。少なくとも、東大さんとかにロボットが負けているのは、誰が見ても明らかです。だからこそモンゴルに向けて、複雑な気持ちでいるわけですが……。

━━ひとつは、さきほどあった、各自が持っていた技術がうまくつながった、ということがあるのでは? 「なんとか」だったのかもしれませんが。

松本:それもありますし、いろいろ無理はしたけど、一発勝負みたいなことはしなかった、という面もあるかもしれません。あまり博打はしない。

鈴木:常にできることを考えていた、というか、ちょっとでも複雑になるなら止める判断をしていた。例えばモータを一個増やすだけでも、それが故障やリスクなを増やすことになるわけで、相当に慎重に判断していました。経験がない分、不安要素をできるだけ減らそうという考え方ですね。

岡本:それは、キャチロボの経験から生まれた判断です。

━━キャチロボにはサークルとして出場していますね(編注:キャチロボ→「キャチロボバトルコンテスト」。関西を中心とした5校の大学が主催するロボコン。さまざまなモノをつかむ機構のアイデアを中心としている)。

森田:キャチロボでは、今回とは逆で、「勝負に勝って試合に負けた」んです。

松本:2018年のキャチロボは、優勝を狙えるメンバーでした。そしてあれやこれやと入れていって、結局最後には、それをまとめきれずに……、

森田:ポテンシャル的には、確かに優勝できる機体を持っていました。自信もありました。しかし、ベスト4で終わってしまったんです。

松本:負けた直後、森田君と北村さん(編注:メンバー中、唯一の4回生の北村健浩さん)が泣き崩れて……、

森田:そのシーンがテレビで映っていたらしいですね。未だに僕は見ていませんが。

鈴木:NHK学生ロボコンでも、やろうと思えば、攻めに攻めて勝負、ということもできたんだと思います。しかし、最後に詰め切れずに負けるよりは、できるところで行った方がいいじゃん、て。

森田:大会を通して、ロボットのスピード設定なんかは一切いじりませんでしたね。例えばそれが5秒の差だったら、一発勝負に出たかもしれません。しかし、僕たちが持っていたタイムでは、どうあがいても強豪チームには勝てない。相手がミスなく行ったら負ける。だったらリスクは取らずに、という判断です。

そのあたりの、勝負、というようなものに関しては、それ以外もいろいろロボコンの経験者がいるので、勘があった、と言えるかもしれません。もちろんそこで学んだ技術力みたいなものも。

━━ありがとうございます。では最後に、この結果は、他のチーム、特にこれまでNHK学生ロボコンに興味があったけど参加していないみなさんを勇気づけるものだと思います。そんな人に、何かアドバイスはありますか?

森田:はい、勇気づけたいと思います。とは言え何ができるかわかりませんが……、ひとまず、新規参入する人たちに向けて、今回の全部の技術情報を公開するつもりです。他のロボコンと比べて、NHK学生ロボコンの技術情報はあまり公開されていないように思うので。もちろん、技術交流会みたいなものも歓迎です。大会前、大阪大学さんと京都工芸繊維大学さんには特にお世話になりました。ギブ&テイクじゃなくて、ずっとテイクさせてもらいました。だから、もし僕たちの持っているものが役に立つなら、と思っています。


乱暴を承知で、記者が京大・機械研究会が活躍できた理由をまとめるとすれば、以下のようになる。

  • メンバー、そしてそれまでのロボコン経験
  • そこで培われた技術力、もろもろの勘、判断
  • 特にキャチロボでの手痛い敗北
  • できるだけシンプルに、不要なリスクを増やさないという方向性・戦略

森田さんは「運」だとも言うが、その運が回ってきた時に、間違いなくつかむのも力量のうち。今回の京大チームは、その準備ができていた、と記者には思える。

また、もしNHK学生ロボコンで活躍したいと思ったら、他のロボコンなどで多くの経験をし、そこから自分自身で生きた知識を得ることが大事、という指針が導き出せそうだ。

付け加えるならば、この活躍の要因として、森田さんのリーダーシップも大きかったのでは、と想像する。押しが強くぐいぐいとメンバーを引っ張る、というようなものではなかったかもしれない(このインタビュー中も、特に優勝の理由の部分については、記者が無理矢理に言葉を引き出したぐらいだった)。しかし、「言い出しっぺ」となり、かつ最後までたどり着くのは、並大抵のことではない。当然、他のメンバーがいなければプロジェクトは成らないが、森田さんの存在はチームにとって大きなものだったのではないか。

モンゴル・ABUの場でも、こうした強みを思う存分に発揮していただきたいと思う。「かっこいいな」から始まったプロジェクトは、地続きで世界につながっている。デバプラはもちろんだが、すべてのロボコンファンもまた、京大・機械研究会を応援しているはずだ。

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