安倍政権について何を書いても「正論」になってしまうという現実

中島岳志×武田砂鉄『自民党』対談

参議院選挙を前に、政治学者・中島岳志氏が『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンド・ブックス)を上梓した。今、自民党の本質はどこにあるのか? ライター・武田砂鉄氏との対談前編では、自民党政治家の言葉を深く読み解いた。後編は『ViVi』と自民党のコラボの話題からノンフィクションが成立しない時代というトピックまで――。

(構成:山本ぽてと、写真:杉山和行)

(左)中島岳志氏、(右)武田砂鉄氏

建設的な議論になる手前で

武田:実は今日、『ViVi』(※)のコピーをもってきました。

※2019年6月10日、講談社の女性誌『ViVi』がWEB上で自民党の広告記事を掲載したことが話題になった。この対談は6月12日に行われた。

中島:さすがです。

 

武田:現代ビジネスは講談社の媒体ですから、避けるべきではないと思いまして。講談社は今回の広告について「政治的な背景や意図はまったくございません」とコメントを発表した。実に奇妙なコメントです。政党と組んだ広告企画には、政治的な背景と意図があります。「違法じゃないのだから、野党もやればいい」との意見もありますが、支配的な権力と潤沢な資金を持っている与党が、こうして女性誌とタッグを組んだ事実は、「ならば他党もやればいいのに」との意見で終わらせられることではない。

加えて、モデルの口から語られたのは「外国の方やお年寄りにもっともっと親切な対応をすべき」「他人の価値観を理解し、尊敬し合えることができたらどんなにいいだろう」といった、自民党が進めている政治とは逆行する内容でした。彼女たちの言葉に党として応答することはせずに、「#自民党2019」を最後にくっつけるだけ。この気持ち悪さを放置し、慣れてしまってはいけない。

中島:このような広告的な手法は、『ViVi』に始まったことではありません。少し前には、菅官房長官を「令和おじさん」と呼ぶようなイメージ作りもありました。甘利明をゆるキャラにしようとしたことも。さらに遡れば、安保法制の時にお母さんと子どもの絵を使って、印象操作をした。同じことが連綿と続いています。広告的な手法によって政治が行われ、実際に政治が動いている状況です。

中島氏は『自民党』で政治家の発言を徹底的に分析し「実像」に迫った

武田:自民党』の本についての対談相手に、こうして、自分のような、ジャンルを問わずにあれこれ書いているライターが引っ張りだされるのが今っぽいと思っています。

『ViVi』の広告のような「よさげ」な感じを読み解く作業って、政治学者が政治を、憲法学者が憲法を、というように専門家が出てくる段階にない。建設的に政策を問う以前に、まずは彼らが作り上げる空気・雰囲気を掴まないといけない。そんなことばかりが続きます。

中島:武田さんのようなお仕事と双方向であるべきだと思っています。政治思想的な議論ではなく、広告的な仕掛けをしてくる政治家に対して、政治学者である僕になにが出来るのか。政治思想で語れないなら、政治家の発言を根掘り葉掘り調べて、「理論」ではなく「実像」に迫ってみる。この人はなにを実現したい人なのか。そもそも実現したいことがあるのか。ないのであれば、将来なにをしそうか。政治家が書いた本だけではなく、インタビュー、選挙区の地元紙、業界団体の雑誌まで徹底的に読み『自民党』を書きました。

文献を集めるのは、学者の得意な仕事です。言葉を保存し、実像に迫る。これが広告的手法に対抗できる、ひとつの方法だと思っています。

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