タイタンをドローンで探査する新ミッション「ドラゴンフライ」

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NASAは2026年打ち上げ予定の新たな探査ミッション「ドラゴンフライ」を発表した。ドローン型の着陸機で土星の衛星「タイタン」を探査し、有機物の探索などが行われる。

【2019年7月5日 NASA

土星の衛星タイタンは水星よりも大きく、太陽系の衛星としては木星のガニメデに次ぐサイズの天体である。タイタンの大きな特徴の一つは、衛星としては唯一、大気が存在することだ。その主成分は地球と同じく窒素で、表面気圧は地球の1.5倍ある。また、タイタンではメタンの雲が発生してメタンの雨が降り、地表には湖や海が存在している。

タイタンは初期の地球に似ていて、地球でどのように生命が誕生したのかを知る手がかりを与えてくれると考えられている。これまでにNASAとESAの土星探査機「カッシーニ」による観測が行われたほか、2005年にはカッシーニの子機「ホイヘンス」が着陸探査を実施した。

そのタイタンを探査する新たなミッションとして、NASAは「ドラゴンフライ」計画を発表した。「トンボ」を意味するこの探査機は2026年に打ち上げられ、タイタンに2034年に到着する予定だ。ドラゴンフライの基本ミッションは約2年8か月で、この間に有機物の砂丘から衝突クレーターの底まで、幅広い環境を探査する。

ドラゴンフライ
タイタンに着陸する「ドラゴンフライ」の着陸機のイラスト(提供:NASA/JHU-APL)

「ドラゴンフライ計画で、NASAは、私たち以外にはできないことを再びやろうとしています。神秘的な海を持つタイタンを訪れることで、私たちが持っている宇宙の生命についての知識が一変するもしれません。この最先端ミッションはわずか数年前には考えもつかないものでしたが、ついにこの驚くべき飛行ミッションを実現する準備が整いました」(NASA長官 Jim Bridenstineさん)。

ドラゴンフライの着陸機は8枚のローター(回転翼)を持ち、大型のドローンのような機体になっている。地球外の天体で複数の回転翼を持つ機体を科学探査目的で飛行させるミッションはNASA史上初だ。タイタンの大気は地球の4倍の濃さを持つため、観測装置を新たな場所へ運んでは特定の表面物質を調べる、ということを繰り返し行うには、ドローンが最適だ。

ドラゴンフライでは、カッシーニが13年間にわたって集めたデータを活用して、着陸に適した穏やかな天候や安全な着陸地点、科学的に興味深い探査地点が選ばれた。最初の着陸地点は、タイタンの赤道域にある「シャングリラ」という砂丘地帯になる見込みだ。ここはナミビアにある縦列砂丘に地形的に似ていて、多様なサンプル採取場所を選ぶことができる。ドラゴンフライはこの地域を短い間探査した後、最大8kmに達する長距離の飛行を何度か行う。同機は「蛙跳び」のように飛行と着陸を繰り返し、様々な地質を持つ場所に着陸してサンプルを採取する。

この飛行ののち、機体は最終目的地の「セルク」クレーターに到着する。ここはかつて液体の水と、炭素・水素・酸素・窒素からなる複雑な有機分子が1万年以上にわたって存在した証拠が見つかっている場所だ。これらの物質に加えてエネルギー源があれば、生命誕生の材料が揃う。ドラゴンフライはここで、生命誕生の前段階で起こる化学反応(prebiotic chemistry:前生命化学)がどのくらい進行しているかを調べることにしている。

着陸機は最終的には175km以上を飛行する。これは過去に火星探査ローバー全機が走破した合計距離の2倍近くになる距離だ。

ドラゴンフライは冥王星やカイパーベルト天体を探査した「ニューホライズンズ」、木星探査機「ジュノー」、小惑星ベンヌを探査中の「オシリス・レックス」などと並ぶ、NASAの「ニュー・フロンティア」計画の一部として今回選定された。

「ニュー・フロンティア計画は太陽系に関する私たちの理解を変えました。荒れ狂う木星大気の内部構造や組成を解き明かし、氷で覆われた冥王星の風景の秘密を発見し、カイパーベルトに存在する不思議な天体の姿を明らかにし、生命の材料を求めて地球近傍小惑星の探査を行っています。そして今、NASAが探査に向かう謎に満ちた天体のリストにタイタンが新たに加わります」(NASA惑星科学部門 Lori Glazeさん)。

「ドラゴンフライ」の着陸・飛行シーケンスを描いた動画(提供:NASA Video)