企業アカウントの「中の人」が運用の秘訣を語る本連載のトップバッターはTwitter開設10年を迎える東急ハンズ。第1回は、アカウント開設の経緯や目的について語ってもらった。第2回は、運用経験から得た知見をまとめた「企業アカウントの作法10カ条」について説明する。

東急ハンズのTwitter活用ルールとは?(写真:Andrei Shumskiy/Shutterstock.com)
東急ハンズのTwitter活用ルールとは?(写真:Andrei Shumskiy/Shutterstock.com)

Twitterアカウント開設から10年、「中の人」を担当されて、得られた知見がたくさんあるのではないかと思います。投稿ノウハウ、あるいはルールといったものがあれば教えてください。

そういった内容のお話をする機会も増えているので、そこでこちら(下記)の10カ条をご紹介しています。

東急ハンズのTwitter活用で得た知見をまとめた投稿ノウハウ・作法10カ条
東急ハンズのTwitter活用で得た知見をまとめた投稿ノウハウ・作法10カ条

 1つ目の「時間を決めて定期的にお決まりの投稿をする」は、前回(第1回)お話しした午前10時の開店時刻に投稿する朝のあいさつです。「東京は今にも雨が降り出しそうな雲行き」といった、リアルタイムで投稿していることが伝わる内容にして、「便利なレイングッズをたくさん取りそろえていますよ」と来店促進フレーズを加えたりしています。

 2つ目の「臨場感のある投稿」。これは「行ってみた」「使ってみた」感を出す、という意味です。「この商品をハンズアカウントで紹介してほしい」という依頼が各部署からありますが、用意された写真や文面をそのままコピペして横流しするだけでは宣伝チラシになってしまいます。自分でいったんかみ砕いて、自分の言葉でツイートしたほうがいいですね。特に、自腹を切って買った商品を紹介すると反響が大きいです。

実際に試してみたうえでのツイートは反響が大きい
実際に試してみたうえでのツイートは反響が大きい

 ユニークな商品は、利用シーンも交えて投稿するようにしています。3月の送別会シーズンに「もらったらうれしいグッズ」として、「ヌードルブーケ」という、カップヌードルを花束にしたバラエティーグッズを紹介しました。これを商品写真だけでなく、1人花束贈呈式シーンを撮って載せたところ、多数のリツイートといいねが付き、実際によく売れました。体験が共感を呼び、共有されて、購入意欲を高める。そんな流れがありそうです。

なるほど。3つ目は「自分のキャラを隠さず自然体で投稿する」。ハンズさんの場合は、特定のマスコットキャラクターはないので、ゆるキャラになりきってツイートするといった運用ではないですね。

企業の看板を背負ったアカウントだと、ついハンズのことは何でも知っていなければ、詳しくなければ、と気負ってしまいがちですが、「知ったかぶり」投稿は嫌われるんですよね。「自然体で~」というのは、知ったかぶりは避けようという意味合いもあります。背伸びせず、偉ぶることなく、知らないことは素直に「よく知らないです」「どなたかご存じですか?」と教えてもらうスタンスがいいです。すると、「よしよし、わしが教えちゃる」みたいな感じで来てくれます(笑)。そのほうが盛り上がりますね。ハンズ公式Twitterの性格は、素のままの私です。何か特定のキャラを演じるのが苦手というか疲れてしまうと思ったので、「自分のスタイルで行く」と決めたのですが、それが長続きしている要因になっています。

移転前の横浜店(1990年開店)の敷地には開店前、何があったのか?という質問への対応
移転前の横浜店(1990年開店)の敷地には開店前、何があったのか?という質問への対応

10カ条の4~9は、Twitterユーザーとのコミュニケーションのあり方について定めたものですね。

はい、4つ目のエゴサーチ(自社名をキーワードにして検索)は、「ハンズ」で検索してハンズを含むツイートが職場のPCに常時表示されるようにしています。昼休みや外出時の移動中もスマホからちょくちょくチェックしていますね。 ポイント5倍・10倍キャンペーンや、アニメ作品とのコラボなど展開中の企画にどのくらい反響があるか、どんな声が上がっているか、確認しています。話しかけてきたものではない投稿への返信は最近はしなくなりましたが、面白い投稿が目に留まったときはリツイートすることもあります。

 5つ目の「投稿内容が偏らないように心がける」ですが、一方通行の情報発信ばかりに偏らないように注意しています。ハンズ公式Twitterの場合、情報発信2割、おしゃべり8割が目安です(笑)。Twilog(ついろぐ)で調べてみたところ、@付きのツイート数を総ツイート数で割ったコミュニケーション率が81~82%になっています。

 6つ目の「相手に合わせて会話の流れを壊さない」は、相手の会話トーンにできるだけ合わせるということ。フレンドリーにくだけた口調で話しかけたきた人に、堅すぎる返事をしても壁ができてしまいます。「昨日ハンズ行ったよー」と話しかけられたら、「ありがとうございまーす!」と返すノリですね。

商品や在庫の問い合わせは店舗へ誘導
商品や在庫の問い合わせは店舗へ誘導

 7つ目の「解決できない質問は窓口や最寄りの店舗を紹介」。寄せられた質問が自分のよく知っている、すぐ回答できる内容なら直接答えます。ただ、「新宿店の開店時間は?」のような即答できる質問はめったにないですね。よくあるのが「ハンズにカードケース売ってますか?」といった内容です。これ、意外と難しいんです。

 一口にカードケースといっても、薄いプラスチックケースでよいのか、定期入れのようなものを望んでいるのか、首から提げるIDカードケースのイメージか、いろいろあります。大抵どこの店でも取り扱っているカテゴリーの商品であれば、「ありますよ」とお答えしたうえで、「最寄りの店舗でスタッフにお問い合わせください」といった具合に返しています。質問者としても、私に答えてほしいわけではなくて、「こういう質問はどこで聞けばいいのか?」ということだと思うんです。なので、スピード優先で適切な窓口を案内することを心がけています。

 8つ目の「SNSのコミュニケーションは店頭の接客と同じ」と、9つ目の「メンションやコメントにできる限り返信する」。Twitterでフォロワーさんから話しかけられたということは、店舗でお客さんに話しかけられたのと同じだと解釈して、しっかり対応しようという意味です。「ネットだから」「リアルでは」という区別はありません。

確かに東急ハンズTwitterは接客そのものですね。ラスト10個目は「企業アカウントは凹んではいけない」。

企業アカウントがネガティブな投稿をするメリットは何一つないと思っています。ちょっと体調が優れなかったり、プライベートあるいは仕事で課題を抱えていたりしても、店舗の店員はその感情や表情をお客さんに向けることなく、笑顔で接客しています。それから比べればTwitter担当の接客負担は軽いのですが、直接お客さんと面と向き合わないだけに、切り替えができずにネガティブ投稿を安易にしてしまいがちです。そんな日は無理にツイートしないほうがいいでしょう。

 ネガティブ投稿が似合う会社はないと思いますが、特にハンズは、「何か新しい発見がある」「ワクワクする」といった企業イメージがあって、それを期待するフォロワーの方々に支えられていますから、凹んだ投稿はしないよう、心がけています。


 次回、東急ハンズの第3回は、バズったツイート、売れたツイートの成功要因を探ります。

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