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最強の捕食者Amazonを打ち負かすのは多様性を持った「真のプラットフォーム」だという指摘

by aixklusiv

Amazonが物流を支配するスピードはすさまじく、配送システムそのものの質を変える勢いだと指摘されています。一方でAmazonは各オンラインショップの個性を無に帰して価格競争を余儀なくさせているともいわれます。そんなAmazonのライバルはウォルマートのような既存の大手スーパーマーケットチェーンではなく、各ショップの個性を重視して多様性を生み出す「プラットフォーム」であるとアナリストのベン・トンプソン氏が解説しています。

Shopify and the Power of Platforms – Stratechery by Ben Thompson
https://stratechery.com/2019/shopify-and-the-power-of-platforms/

Amazonがビジネスをスタートした時、そのビジネスモデルは既存の小売をオンラインで展開するだけのものでした。つまり、Amazonはサプライヤーから製品を購入し、それを顧客に販売するという形です。


しかし、その後Amazonは急激に成長し、独自のフルフィルメント・ネットワークを持つまでになりました。1999年にはAmazonはアメリカやヨーロッパに7つのフルフィルメント・センターを設け、2019年7月時点では、全世界で300以上のAmazonのフルフィルメント・センターが存在します。

ここまでAmazonのフルフィルメント・ネットワークが成長した理由の1つは、2006年にスタートしたフルフィルメント by Amazon(FBA)という仕組み。FBAはサードパーティーがAmazonのフルフィルメント・センターを使えるようにするもので、FBAを利用するサードパーティーの製品はAmazon.com上に表示され、Amazonによって保管・梱包(こんぽう)・発送されていきます。これによりAmazonは「小売」部門と「フルフィルメント」部門に分かれることになりました。


フルフィルメント・センターの増加スピードを見ても、2006年以降の加速がとんでもないのがよくわかります。2019年時点でAmazon.comにある半数の製品はAmazonによって購入されたものですが、Amazonをバイパスしたサードパーティー製品も急増しています。


スーパーマーケット最大手のウォルマートがeコマースに参入しようとしてもAmazonに勝てないのはこれが理由。ウォルマートのライバルはAmazon単体ではなく、FBAを利用するサードパーティーを含めた巨大なネットワークにあるためです。単純に自社製品の小売をオンラインで展開するだけではウォルマートが太刀打ちできない規模と成長速度がAmazonには存在します。

AmazonやGoogleはよく「プラットフォーム」と呼ばれますが、厳密にはプラットフォームではないとトンプソン氏は語ります。これはビル・ゲイツがプラットフォームと「アグリゲーター」という概念を別のものとして扱っているため。

Windowsの生みの親ビル・ゲイツが定義した「プラットフォーム」と「アグリゲーター」の差を示す「ビル・ゲイツ・ライン」とは? - GIGAZINE


プラットフォームとアグリゲーターの違いを簡単に説明すると、「プラットフォームがサードパーティーのサプライヤーとエンドユーザー間の関係を促進することで力を増すのに対し、アグリゲーターは両者の関係を仲介し制御する」ということにあります。

Amazonを例にとると、Amazonはアグリゲーターにあたります。Amazonは「小売」と「フルフィルメント」に分かれていますが、消費者はそれらの違いを認識せず、「Amazon」にものを買いにいきます。実際にはサプライヤーが異なっても消費者は同じ「Amazonのカート」に購入物を入れ、「Amazonの箱」に入った製品を受け取ります。一連のプロセスでエンドユーザーとサプライヤーの関係は促進されず、エンドユーザーの目線では「Amazonでの購入体験」があるのみです。このため、サードパーティーは価格を下げることによる競争を余儀なくされます。


ではAmazonのようにオンラインでものを販売しながら、アグリゲーターではなくプラットフォームとして機能しているサービスは存在するのか?というと、トンプソン氏はその答えとしてShopify.comを挙げています。

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https://www.shopify.com/


Amazonと異なり、エンドユーザーがShopifyのウェブサイト上で何かを買うことはありません。また実際に製品を購入した人は2億1800万人に達しますが、購入者のほとんどはShopifyという会社があることすら知りません。これはAmazonと違ってShopifyがエンドユーザーに直接商品を届けるのではなく、Shopifyを利用する82万のサードパーティーがエンドユーザーに対して責任を持っているためです。AmazonではエンドユーザーがAmazon上で検索することで製品にたどり着きますが、Shopifyの場合はサードパーティーが自力で広告し、注目を集め、購入に結び付ける必要があります。さまざまなサードパーティーによる多様性が生まれるShopifyこそが、「プラットフォームの美しさ」を持っているとトンプソン氏。

もちろん、自力でショップや製品をアピールしていく必要があるShopifyでは、簡単にeコマースが行える反面、失敗するショップも多く、解約率も高くなります。一方で、個性を打ち出し差別化に成功することで、大きな成功をおさめるショップも少なくありません。この点から、Amazonの真のライバルはウォルマートではなく、長期的にみればShopifyになる可能性があるとトンプソン氏は述べています。


そして、2019年7月19日のShopifyのブログ投稿によると、Shopifyもまた自社のフルフィルメント・ネットワークを構築しているとのこと。ただしShopifyのネットワークは全てを自社で担うのではなく、配送や梱包を行う既存のサードパーティ・ロジスティクス(3PL)をサードパーティーが利用しやすくするというもの。つまりShopifyは、バリュー・チェーンにおける2者間の接点を作るという、「プラットフォーム」としてあるべき行いをしているといえます。

Shopifyの発表によると、2018年にShopifyは10億ドル(約1000億円)の収益を生み出しましたが、そのパートナーたちは12億ドル(約1300億円)を生み出したとのこと。これはShopifyが作り出したエコシステムの中で利用者の経済的価値が成立したことを意味しており、プラットフォームがクリアすべきビル・ゲイツ・ラインを越えていることを意味します。

Amazonは多くの顧客やサプライヤーを持っており、フルフィルメントのコストが低く、配送速度も早いという、多くの利点を持っています。製品を販売する上でこの利点を利用するために、ショップは価格競争を余儀なくされます。しかし、価格競争から抜け出すためには差別化が必要です。ウォルマートは独占的なブランドを作るなどして差別化を図っていますが、オンラインに関して言えば、トップダウン式の計画で差別化が生まれることはありません。この意味で、Shopifyに代表される「エコシステムで支えられたプラットフォーム」こそが、差別化の可能性を生み出すとトンプソン氏は考えています。

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in ネットサービス, Posted by darkhorse_log

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