火星移住のためエアロゲルで温室を作る計画が考案される

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  • author Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US
  • [原文]
  • 岡本玄介
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火星移住のためエアロゲルで温室を作る計画が考案される
Image: Harvard SEAS via Gizmodo US

人類がすでに持っている素材を利用します。

火星の地表はあまりにも寒すぎて、今のところ人が住める環境ではありません。でも人類がいつの日かそこに植民地を作るのであれば、寒さを凌ぎ、温めてくれるものが必要となります。どうすれば良いのでしょうか?

鍵は「シリカエアロゲル」

現在、科学者たちは「シリカエアロゲル」という断熱物質を利用して、火星の地表の一部をたとえば植物のような光合成生物が住みやすい環境に出来ないか?と提案しています。あくまでこれは一部の土地で行なうことを想定しており、惑星全体を地球化するテラフォーミング計画というわけではありません。もしこの「エアロゲル」の布団を、スケート・リンクのように凍った場所に敷けば、その氷床をいとも簡単に溶かして水の豊かな土地に改善し、人類や植物が長期間に渡って生活できるようになるかもしれないとのこと。

NASAのJPL(ジェット推進研究所)にいる科学研究員ローラ・カーバー氏が、米Gizmodoにこう話してくれました。

これまで惑星をテラフォーミングするために考えられてきた方法はあまりにも前衛的すぎましたが、これは違います

「シリカエアロゲル」は、急進的な科学物質ではなく、すでに存在する小型で拡張可能な技術なのです。実際にどんなものなのか、映像でご覧ください。

Video: Veritasium/YouTube

火星は温暖化できない

人類はすでに、温室効果を上手に使って地球を暖めることが非常に得意だってことを証明していますよね。それは、たとえば二酸化炭素のような物質が太陽光を吸収、再放射することで、直下の地域をほかの場所より暖かくする、というものです。

とはいえ、この方法ではさすがに地球全体を暖めることは不可能です。過去の結果から、現在の技術と、火星にはテラフォーミングに充分な二酸化炭素がないことが示されています。なので科学者たちはその代わりとして、可能な限り最小の労力で、研究用の植民地としていかに小さな領域を暖められるかに焦点を合わせようとしているのです。

「シリカエアロゲル」の効果

「シリカエアロゲル」は温室効果を誘引します。これは網状の二酸化ケイ素に閉じ込められた、主に空気の体積でできた物質となっており、その性質のおかげで厚さ数cmの層が、植物が光合成に使う可視光を透過し、有害な紫外線を遮断し、その下の部分を暖めることが出来るようになります。

研究チームは、おおよそ火星と同じレベルの光をゲルに照射する実験装置を作り、上下の温度差を摂氏50度以上と測定しました。なのでこのような材質が、火星のの周辺地域の地上温度を上げるのに役立つかもしれない、と考えています。そこでカーバー氏は、タイル状になった「シリカエアロゲル」を作り、温室のような構造に組み立てることを考案しました。

周囲の評価

この研究に関わっていない、とある科学者はこの研究を「賢い」、そして「潜在的に興味深い」アイデアだと評しています。

コロラド大学のブルース・ジャコスキー教授が米Gizmodoに語ったコメントでは、ほかの報道でも主張されているように、この方法は「絶対にテラフォーミングではない」と話してくれました。ですが代わりに、一部の領域を氷を溶かすほど温めることを提案。

しかしnature astronomyが掲載した論文では、「生命にとって重要な気圧はシリカエアロゲル温室では克服できない、という重大な制約が残っています」と書かれており、カーバー氏は「シリカエアロゲル」はとても脆く、ポリマーのような別の材料を添加する必要があると指摘しています。

それ以前に課題が山積み

とはいえ、火星の一部を居住可能にテラフォーミングしようと考える前に、まだまだたくさんを考えなければなりません。火星に基地を設置するともなれば、誰がなぜそこに行くのかについて議論の余地が発生します。

それに今日の火星には、独自の生命が存在するかもしれないため、人間や植物や微生物といった地球からの存在は、火星探査を複雑にすることでしょう。それにカーバー氏も、もし火星をテラフォーミングしてしまうと、科学者たちが調査したい「手付かずの」環境が破壊される、と指摘しています。

小さい領域ならイケるかも

火星全体をテラフォーミングするのは、おそらく悪い考えでしょう。ジャコスキー教授はこう話しています。

これには危険が伴います。地球の環境をないがしろにしてもいいことを示唆してしまいます。良いコンセプトとはいえません

ですが惑星全体ではなく、小さな領域でその仕組みを構築するのであれば、研究者たちは潜在的に悪い結果を出さずに実験を行なえるかもしれません。

まずは地球で実験したい

最終的に、これは概念実証の研究になるでしょう。そして火星に人類が定住することは、まだ遠い不確かな未来の構想段階です。ですが今のところ、研究者たちは南極やチリなど地球上の過酷な環境にて、この物質を実験したいと考えています。そして惑星全体を変えるのに用いられるような不確実な技術とは違い、すでに存在する物質から温室を作ることは、そう難しいことではないでしょう。

Source: NASA, YouTube, nature astronomy