月面着陸は本当はなかったと、いまだにちょこっと信じていたりとかしませんか?
月面着陸50周年を心の底から楽しむために、陰謀説の出元を振り返ってスッキリしましょう。
決定打は1冊の自費出版本
月面着陸陰謀説は、ネットでフェイクニュースが社会現象になる遥か前に生まれて広まりました。出元は1974年にBill Kaysingという人が自費出版した「We Never Went to the Moon」という本です。
Kaysing氏は冷戦の最中の1950年代、宇宙開発関連企業Rocketdyneでテクニカルライターとして働いていた人なので、そんな経歴の人が「月面着陸の写真はアリゾナ州のエリア51でスタジオ撮影したものだ!」と書いたもんだから、さあ大変。みな内部告発と勘違いしてしまったんです。でも本人もあとで認めているように、宇宙開発関連の社員といっても、ロケットの知識はゼロのド素人です。
もともと国民の3割は信じていなかった
人類が月面に初めて降り立ったのは、それに先立つ1969年7月20日。アメリカではベトナム戦争、ウォーターゲート事件で学生運動が吹き荒れて、「もう政府の言うことなんて全然信じられねえ」という厭世ムードが広まっていました。本が出る前から、国民の3割は「あれもどうせデマに決まってる」と思っていたことが、ナイト・リッダーの1970年の世論調査でわかっています。出版の2年後の1976年のギャロップ世論調査でも28%が陰謀説支持派。あまりにも偉業すぎて国民の意識がまったくついていっていなかったんですね。
今思うと騙されたのが不思議な陰謀説①「宇宙なのに星が写っていない」
Kaysingさんが陰謀説の根拠として挙げたのは、当時の技術では実現不能だったという点です。これは内部告発調で、本にあることないこと書きました。
「Santa Susana研究所でロケット試験運用に何度も立ち会ったが、そこで目にしたものは数々の失敗、爆発、エンジン緊急停止だった。[...]空軍がアトラスロケットシリーズの大陸間弾道ミサイル (ICBM)への配備を承認してからも、エラーの連続だった」( 「We Never Went to the Moon」 より)
読む人が読めばウソとすぐ見抜けるんですが、もっと簡単にアウト判定できる発言もあります。それがこちら。
「宇宙なのに、どの写真を見ても星が1個も写っていないのが何よりの証拠だ。本当に月で撮ったのなら星が写ってないとおかしいじゃないか」(1977年、ニュージャージーの地方紙の取材に答えて)
それってただの「黒つぶれ」なんじゃ…。暗いところで写真撮るとき、なんか明るいものがあると、暗いところが真っ黒に映るやつ。万人スマホフォトグラファーの今なら、だれでも常識で想像がつきますよね。月面も日光の照り返しが激しいので、普通にそこに絞り値を合わせると、背景の星は消えます。
星に絞り値を合わせるとどうなるのか? これについては映画監督のS G Collinsさんが再現しています(3:35~)。
そうなんですよ。宇宙飛行士が真っ白に飛んじゃうんですね。
②「ねつ造には巨匠キューブリック監督が関わった」
映像には途中で何度もスタンリー・キューブリック監督の写真が出てきますけど、これは、Kaysing本でねつ造に関わった監督と名指しされたから。監督が特殊効果の技術で世界の度肝を抜いた「2001年宇宙の旅 」の翌年が月面着陸というのは単なる偶然じゃない、「映画は表向きの名目で、実はアポロ月面着陸ねつ造プロジェクト(ASP)が主目的だった。アポロ計画は途方もない予算規模になったが、あれは映画制作費がかさんだせいでもある」と想像たくましく自論を展開しているのです。
③「宇宙飛行士3人は月ではなくベガスで豪遊していた」
では、主人公のエドウィン・オルドリン 、ニール・アームストロング、マイケル・コリンズは月にも行かずにどこをほっつき歩いていたのか? もちろん、ベガスのホテルで豪遊ですよ。これは派手好きなマネジャーのたっての希望でそうなった、とKaysing本には書かれています。
…と勘違いされても仕方のないほど予行練習の写真はフェイクっぽかった
まあ、しかし、Kaysingさんが「ねつ造の撮影現場にしか見えない」と何度も何度も本の中で書くのも無理ないほど、予行練習の公式写真は紛らわしいものでした。今だにネットで「証拠写真」として使われてます。
④「宇宙飛行士が全然うれしそうじゃない」
陰謀論コミュニティのもうひとつのバイブルは、1994年のRalph Rene著『NASA Mooned America! (NASAがアメリカの月面に着離!)』です。これはいまだにAmazonで買えます。
書いている内容はだいたいKaysing本の焼き直しで、もっとしょうもない”証拠”を書き加えています。地球帰還のときも、宇宙飛行士たちは全然うれしそうじゃなかった、きっとこれだけのねつ造で国民を欺く罪悪感に苛まれて、喜ぶどころじゃなかったんだろう、とかね。
結論:ねつ造は技術的に不可能だった
そんな陰謀説もだんだん下火になって、1999年の段階で「本当は月に行っていない」と思っている米国民は全体の6%でした。陰謀論の大家はふたりとも故人です。
…で、結局、月には行ったのか、行かなかったのか? 今は普通に考えて、行ったとしか考えられないという結論になっています。理由は簡単。上記の動画でCollinsさんが映像制作に関わる人の目で丁寧に説明しているように、1969年当時は高速撮影のビデオカメラがまだなかったので、スローモーションのねつ造なんて無理だったんですね。
あの世紀の映像は10FPSで撮影されていた。
短い映像だったらねつ造も簡単だけど、1969年7月のあの日は世界中がTVのブラウン管に釘付けになって、えらい長い時間生中継して、途中でヒマになるぐらいだった。16分でビデオカメラON。4分で最初の一歩。アームストロング船長が飛び回って、結局、143分もカメラは回しっぱなしだった。
あれがすべて、3分の1にスローダウンしたねつ造映像だとすると、元の映像は連続43分。でも1969年当時、市販のディスクは30秒しか映像を保存できなかったんだよね。
NASAなら可能だったかもしれないが、それにしたって、とてつもなくデカいディスクが必要になる。いくらNASAでも神じゃないんだから。
さあ、これでみんなスッキリして50周年を迎えられますね。月面着陸50年おめでとう!