人間と猿が同じ映像を見ると仲良しになれることが判明

気になる人を映画に誘うことで親密になろうとしたことがある人は多いかもしれませんが、人間同士どころか「猿と人間が同じ映像を見ると仲良くなれる」ことが最新の実験により明らかになりました。

Visually attending to a video together facilitates great ape social closeness | Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.0488

Human test makes chimps watch TV together, chimps become friends - SlashGear
https://www.slashgear.com/human-test-makes-chimps-watch-tv-together-chimps-become-friends-17584295/

Chimps more sociable after watching movies together – study | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2019/jul/17/chimps-more-sociable-after-watching-movies-together-study

マックス・プランク進化人類学研究所の所長を務めるマイケル・トマセロ氏らの研究グループは、17匹のチンパンジーと7匹のボノボに映像を見せる2種類の実験を通じて、「共通の経験が形成する絆」のルーツを探りました。

◆実験1：人間と猿
以下の画像は、猿から見た最初の実験の様子を再現した図です。実験群の猿は左の写真のようにスタッフと一緒に映像を見ました。その一方で、対照群が映像を見るときは右の画像のようにモニターに角度がついていて、猿だけに映像が見えるようになっていました。また、スタッフが映像を見ていないことが猿によく分かるように、実験中のスタッフはクリップボードに目を落とすようにしました。

モニターの前にはジュースが出るチューブを設置して、猿がモニターの前に顔を置くようにしました。また、猿の目の動きを追跡するトラッキングカメラも設置し、猿がきちんと映像を見ているかを確認しました。

以下の画像は実験群の目の動きを捉えたトラッキングカメラの映像で、赤い点は猿が見ている場所を表しています。モニターには猿が好む「小猿が遊んでいる映像」が流れていて、映像によく集中しているのが分かります。

しかし、時折スタッフの目元にも目配せしている様子が観察されたことから、猿はスタッフの目線をしっかりと意識していることが確認できます。

実験はこんな感じで、2つのケージが通路で連結された場所で行われました。

映像が終了するとスタッフは隣のケージの前に移動して待機。また、別のスタッフがジュースが出るチューブを取り外し、猿がいつまでもジュースを飲み続けないようにしました。

そして、やることがなくなった猿がスタッフに近づくまでの時間を計測しました。

以下の図は、猿がスタッフに接近するまでにかかった時間の分布を表したグラフで、縦軸は上にいくほど長い時間がかかったことを意味しています。スタッフと一緒に映像を見た実験群のグラフ(左)と、スタッフが映像を見ていなかった対照群(右)とを比較すると、実験群の方が短時間でスタッフに近寄っている傾向があることが分かります。

◆実験2：猿同士
2つ目の実験では以下の画像のように、猿同士のペアに映像を見せました。実験群の猿は左の写真のように、1つのモニターを2匹で見ました。一方で、対照群の猿は右の写真のように個別のモニターで映像を見ました。映像は無音のため、実験群の猿には自分たちが同じ映像を見たことが分からないようになっています。

2つ目の実験では、映像を見終わった猿がケージの中で接近していた時間を計測しました。以下の図は、映像を見た猿のペアが接近していた時間を表したグラフで、縦軸は上にいくほど長い時間を過ごしたことを意味しています。実験の結果、ばらつきはあるものの、実験群(左)は対照群(右)よりも長い時間、親密な距離を保っていたことが確認されました。

◆まとめ
論文の共著者であるデューク大学の大学院生ウーター・ウルフ氏は、「長い間、共通の経験によりある種の絆を作るのは、ヒトが持つ固有の特性だとされてきました。今回の実験結果は、ヒトが進化の過程で絆を獲得したのは、これまで考えられていた時期よりもずっと前だった可能性があることを示唆しています」と話しています。