サイエンス

「同性愛者を生み出す特定の遺伝子は存在しない」という研究結果

by Mahrael Boutros

近年では同性愛者両性愛者トランスジェンダーといったセクシュアル・マイノリティの人々に対する理解が進み、同性婚を認める国や地域も増えています。そんな中、研究者らは50万人近い人々の遺伝子を分析し、「同性愛者を生み出す特定の遺伝子は存在せず、多くの遺伝子や環境、人生経験などが少しずつ関わり合っている」という研究結果を発表しました。

Large-scale GWAS reveals insights into the genetic architecture of same-sex sexual behavior | Science
https://science.sciencemag.org/content/365/6456/eaat7693

There's No Such Thing as a 'Gay Gene,' Large Genome Study Finds
https://gizmodo.com/theres-no-such-thing-as-a-gay-gene-large-genome-study-1837675136

There's No Such Thing as a 'Gay Gene,' Massive Study Concludes | Live Science
https://www.livescience.com/no-single-gene-makes-someone-gay.html


スウェーデン、デンマーク、イギリス、アメリカなどの研究者からなる国際的な研究チームは、UKバイオバンクやDNA検査企業の23andMeによって収集された、約47万人ものボランティアの遺伝子データを分析しました。この研究で使用された分析手法はゲノムワイド関連解析というもので、ボランティアのゲノム全体の遺伝子型を決定し、性的指向や同性とのセックスに関する質問の答えとの関連を調べたとのこと。

「今回の研究で使用されたデータの規模は、以前に同様のトピックについて行われた研究の100倍ほどの規模です」と、論文の主著者であるAndrea Ganna氏は述べています。性的指向と遺伝子に関する研究は議論の多いデリケートな問題であり、「資金提供は限定的で、参加者の募集も困難でした」と、論文の共著者であるFah Sathirapongsasuti氏は指摘。依然として70カ国において同性愛が犯罪とされており、一部の国では死刑を宣告されることもあります。

分析の結果、同性愛的行動と優位な関連が認められる5つの遺伝的マーカーが見つかったものの、この遺伝的マーカーだけでは人間の性的指向を左右できないであろうことがわかりました。5つの遺伝的マーカーは確かに同性愛的な傾向に寄与している可能性があるそうですが、5つのマーカー全てを持って生まれた人が同性愛者になる確率は、マーカーを持っていない人々より1%未満のレベルで増加するだけだそうです。

by qimono

しかし、特定の「性的指向を決定する遺伝子」こそ存在しないものの、性的指向と遺伝的要因には関連があるとみられ、研究チームは今回発見された5つのマーカーを含め、数千の遺伝子が性的指向に影響を与えている可能性があると考えています。ただ、それぞれの遺伝子の影響は非常に小さく、他のマーカー特定にはさらなる研究が必要だとのこと。

研究チームは、今回発見された5つのマーカーと他の全ての遺伝的要因が同性愛的傾向に与える変動率を、およそ8~25%ほどだろうと見積もっています。以前から、それぞれが50%の遺伝子を共有している二卵性双生児よりも、全ての遺伝子構成を共有している一卵性双生児の方が性的指向の一致率が高いため、性的指向には遺伝子が関連しているとみられていました。今回の研究は性的指向に対して一つではなく広範な遺伝子が関与していると示唆する一方で、遺伝子だけが人の性的指向を決めるわけではないことも示唆しています。

研究チームのベンジャミン・ニール氏は、「今回の研究は人の性的指向を形作る上で環境が重要な役割を果たすことを強調しています。そして、一つの遺伝子ではなくゲノム全体に散在する多くの遺伝子が小さな影響を与えている点も、より重要かもしれません」と述べました。多くの遺伝子および環境が人間の特徴を決定づけるという方式は、身長の高さなどの多くの特性に当てはまります。

by Jean-Baptiste Burbaud

Ganna氏は研究の過程でいくつかの生物学的経路が、同性愛的傾向に関与している可能性があることを発見したと指摘。たとえば性的指向に関与する遺伝的マーカーの一つは嗅覚に関連していたほか、男性では脱毛に影響する遺伝的マーカーが性的指向に影響を与えていることも判明。また、女性よりも男性において遺伝的マーカーが性的指向に強い影響を及ぼしていることも明らかになったとのこと。

もっとも、今回の研究はサンプルサイズこそ大きかったものの、ボランティアはほとんどが裕福な国々に住むヨーロッパにルーツを持つ人々を対象としており、年齢も比較的高齢者が多かったと研究チームは指摘。他の国々では違う結果が出る可能性もあるほか、高齢者より性の多様性に寛容な年齢が低い人々においては、違う結果が出るかもしれないと研究チームは述べました。

by manseok

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
遺伝子はどのようにしてトランスジェンダーを形作るのか? - GIGAZINE

「ゲイの遺伝子」は存在するのか? - GIGAZINE

年齢によって同性愛者になったり異性愛者になったりすることがある - GIGAZINE

人の性的指向を変える「転向療法」は自殺や自傷を引き起こすと調査で示される - GIGAZINE

同性愛者であることを家族より先にFacebookが知っていた - GIGAZINE

ゲイに対する「セックスしてから1年間は献血禁止」という条件は差別であるという訴えが起こされる - GIGAZINE

同性婚を合法化すると10代の若者の自殺率が減少するとの調査結果 - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.