プラスチック減量中のアメリカで卵のプラパックが増加。なんで?

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プラスチック減量中のアメリカで卵のプラパックが増加。なんで?

海のプラごみの量が魚の量を抜くと言われた2050年まであと31年

そんな未来は嫌だとコンブチャの量り売り、ストロー撤廃が広まる中、アメリカでは卵のケースを伝統的な紙パックからプラスチックのパックにわざわざ切り替える会社が増えて「なんでやねん」とみんな首をかしげています。

中国が2017年にもう廃プラ要らない宣言して廃プラが世界中にあふれ返っている問題。アメリカでも影響は深刻です。プラごみ回収を減らしたり、やめたり、フィラデルフィア市みたいに燃やしちゃう自治体まで出ていて、自然界にばら撒かれたプラごみがめぐりめぐってイリノイ州などでは地下汲み上げの飲み水にも混入しています。

今や世界中のウミガメの体内にあるらしく、春にはフィリピンで餓死したくじらの子のお腹から40kgのプラごみが見つかってニュースになりました。今月も、北極からドイツの研究班がスプーンで回収してきた雪から検出されて、もう逃げ場なしだね、と言われています。

なぜプラスチックの卵パック?

プラスチック使用中の大手食品ブランドは Pete and Gerry’s、Organic Valley、Nature’s Yoke、Eggland’s Best、Farmers Hen、Saudersなど。卵会社のウェブサイトでは、こんな風に書かれています。


・リサイクル率が高い

・中身が見えるとお客様にも好評

・軽量

・卵が割れない

データは古くて、よく見ると隣の国

ただ、リサイクル率が高いというのは、カナダの梱包会社 Interplast(現在はPactiv傘下)が2011年に調べたリサイクル率がベース。中国の激震でリサイクル産業が破綻している現状はまったく反映されていません。

梱包材のライフサイクル評価に詳しいChristoph Meinrenkenさんも、「8年前のデータで大事な持続可能性を判断するのは無理がある。とくに、紙パックとプラスチックパックの持続可能性の比較には、リサイクル環境の比較が欠かせないと調査報告書にも書かれていますしね」と言ってました。1社の梱包材をケベックのリサイクル環境で比べたデータであって、それをアメリカの卵会社が拝借してもあんまし意味ないってことですね、はい。

エシカル卵を選ぶとプラスチック容器というジレンマ

ただプラスチック採用を牽引しているのは、エシカル卵、ケージフリー(放し飼い)卵のブランドという共通項があります。そっちを重視すればプラパックで魚かわいそう、魚を重視すれば棚飼いで鶏かわいそう、というジレンマがあります。

表向きの理由はリサイクル率

たとえば、ニューハンプシャー州のPete and Gerry’s Organic Eggsも放し飼いのブランド卵で知られるB Corp認証企業(社会・環境の責任を果たす最高ランクの企業)で、rPET(再生プラスチック)のパックはもともと利用していたんですが、上記のライフサイクル分析が発表されて、我が意を得たりだったと取材で語っています。

まあ、しかし、中にはペンシルバニア州のSauders Eggsみたいに、サイトではrPETのメリットを述べつつ、実際使ってる素材を見てみると、再生でもなんでもない新品プラスチック、という事例もありますけどね…。プラスチック移行を2017年に発表したCountry Henも、持続可能性を一番の根拠に挙げてましたが、これまた使ってるのは新品プラスチックですし、中国ショックで状況が様変わりしたのに、プラ化を止めたわけでもありません。

本当の理由

けっきょく、ブランド卵は1個1個の付加価値が高いぶん、割れにくいパッケージで大事に届けている、というのが実情のようです。Pete and Gerry’sの広報VPのPaul Turbevilleさんによると、プラパック導入後は割れる率が1%未満に減ったんだそうな。紙パックだと2~3%なのでだいぶ助かってるみたい。

もちろん古いデータに頼るのは褒められたことではないので別の方法を一生懸命探しているそうですけど、プラスチックになって消費者の足が遠のくようなことも今のところ起こってない、とのことでした。だったら割れないほうを選んで少しでも安くしたいって思っちゃいますよねぇ…。

まあ、しかし、Meinrenkenさんは、データが古いなら梱包会社にまた調べさせればいいだけだ、と言ってますよ。「ライフサイクル評価の旗振り役は消費者でも養鶏農家さんでもいいから。梱包選びみたいな大事なこと、企業が最新データをもとに決めなくてどうするんですかね。それはおかしい、もっと新しいデータを出せって消費者から要求しないと」

リサイクル崩壊

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米国に製品を運んで空っぽになった船に資源ごみを満載で帰っていたのも今は昔…。青は古紙、緑は廃プラスチックの輸出量
米国勢調査局、米国際貿易委員会調べ via ISRI

中国の廃プラ輸入ストップで減ったアメリカから中国への古紙・プラスチックごみ輸出量はなんと90%。業界団体VPに春先に聞いたら、古紙は1トン100ドルだったのが、今や高くても3ドルということでした。いやあ…プラごみも似たりよったりで、リサイクル自体、採算が合わなくなってます。

データを出したくない気持ちはよくわかるけど、そんな今だからこそライフサイクル評価をアプデしてみんなで考えないと…。買うとき梱包のことまで考えて決められるように。