敏腕クリエイターやビジネスパーソンに学ぶ仕事術「HOW I WORK」シリーズ。今回はマイノリティの人々の積極的な職場参加や待遇改善を目的としてマギル大学で組織行動学を研究するパトリシア・フゾン・ヒューリン(Patricia Faison Hewlin)教授の仕事術です。

パトリシア・ヒューリン教授は、組織の多様性、マイノリティの組織への参加と組織における待遇について研究しています。これまで「How I Work」シリーズで多くのインタビューをしてきましたが、今回は個人的に共鳴するところがあります。

ヒューリン教授は、ビジネススクールにおける多様性を高めることで職場の多様性も高めることをミッションにしているPhD Projectにすすめられて、組織行動学の博士号を取得しました。彼女のキャリアパスや現在挑戦中の課題について話を聞きました。

居住地:ケベック州モントリオール

現在の職業:マギル大学デソーテルズ経営学部副学部長

現在のPC:キーボード付きのSurface Proタブレット

現在の携帯端末:iPhone XR

仕事の仕方を一言で言うと:折衷主義

「何かを発見すること」が自分の歩むべきキャリア

── まず、略歴と現在の仕事に至るまでの経緯を教えていただけますか?

私は本に囲まれた家庭で育ちました。両親が購入した大きくて重たいエンサイクロペディア・ブリタニカのセット(今ならネットで簡単に買えますが)を毎日見て暮らすうちに、研究に興味を持つようになりました。

生物学から都市の人口に至るまで、幅広くランダムに学ぶようになり、「何かを発見すること」に特に気持ちが向くようになりましたが、20代の終わりになって初めてそれが自分の歩むべきキャリアだと気づきました

大学では英文学とレトリックに加えてスペイン語も専攻しましたが、仕事が見つからなかったので、派遣会社に登録して秘書的な仕事をしばらくした後、やっと小さなプライベートバンクに就職しました。金融界で働きながら好きなことができる仕事を探し続け、金融分野のMBAを取得して、ニューヨークのCitibankの支店長になりました。

支店長のポジションに就いてみると、社員の能力開発やリーダーの効率を高める方法についても自分は興味があることがわかりました。銀行勤務は楽しかったのですが、まだ何か足りないと感じていたので、転職しなければならないと思いました。

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Photo: Courtesy of McGill University

その頃PhD Projectが、ビジネススクールでPhD(博士号)を取得することを勧めるハガキを私に送ってきていました。PhD Projectは、マイノリティにPhDを取得させビジネススクールの教授にすることをミッションにしている組織です。

私にとってPhDを取得することがベストな選択かわからなかったので、ニューヨーク大学スターン・スクールでお世話になった組織行動学の教授に連絡しました。教授は学者としての人生について意見をシェアしてくれて、私が博士課程の理解を深められるように博士課程の学生と会わせてくれました。

PhD Projectが主催するカンファレンスにも出席して、そのカンファレンスでPhDを取得することが「人生の目的を果たせる道」に通じると完全に納得しました。すぐに複数のビジネススクールに願書を出し、ニューヨーク大学スターン・スクールに再入学して組織行動学のPhDを取得しました。

私は、学者、アドミニストレーター、教員として好きなことをしています。職場で能力の真価を発揮できなくなる要因や自分の価値観に正直でいられなくなる要因(文化、宗教など)、個人の視点や考えが主要な研究分野です。

見せかけの調和」の創造は、組織のメンバーが個人的な価値観を封印して、組織の価値観を受け入れるふりをしている度合いを説明するために私が考え出したコンセプトです。

私は自分の研究を使って、学生や世の中の人々がもっとありのままの自分を出しても職場に溶け込めるようにしたいと思っています。私の研究で、人々は「見せかけの調和」を生むと、感情が消耗して仕事に打ち込めなくなることがわかっています。

そのため、「本当の自分を出していけること」が職場で個人の幸福を高めるためにはとても大切なのです。

何が一番大切か、を思い出させてくれる家族の時間を大切に

──最近の1日の流れを教えてください

朝は必ず家族の時間から始まります。夫と娘と一緒に支度をしながら今日はどのあたりに行くか話したりします。慌ただしくてとても短い時間ではありますが、朝家族とこんなふうに過ごせることに感謝しています。家族とのつながりこそ、私の基盤であり、何が一番大切か思い出させてくれるからです。

最近仕事の日はまず現在手掛けているプロジェクトでコラボしている人たちとメールでやり取りしながらプロジェクトをリードしたり、研究の原稿を編集することでスタートします。午前10時頃までは、副学部長を務めている関係で会議がびっしり。さまざまな方針、全体的なカリキュラムの実施、学生の福利厚生の改善について話し合っています。

ここまでは、講義をしない学期の1日についてお話ししました。

2つの講義を担当する学期もあり、そのときは組織行動学の講義をすることに多大な時間を使います。夏場に加えて年に2、3回は、カンファレンスと研究のために海外に出張します。

── 「これがないと生きられない」というアプリ・ソフト・ツールは?

リサーチや講義をしに中国にたびたび出張するので、Google翻訳アプリが無いと生きていけません。音声と単語をスキャンする機能は不可欠です。

メモは音声で。ToDoリストは手書き

── お気に入りの時間節約術やライフハックは何ですか?

文章を書いたりメモを取るときはボイスレコーディングを好んで使っています。移動中や夜中にふと考えが浮かんだときは特に便利です。口に出した言葉がテキストになるので、それを原稿にコピペできるからです。

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Photo: Courtesy of McGill University

──ToDoはどうやってトラッキングしていますか?

いつも紙とペンでToDoリストを作っています。完了したタスクに横棒を引いて消していくのは気分が良いですし、視覚的にもモチベーションが上がります。

私のToDoリストはとても長いので、各タスクに日付を付けています。不測の事態が発生することがあるので、完了期日は2、3日余裕をもって設定します。スケジュールはMicrosoft Outlookで管理しています。

──どのように充電したり休憩していますか?

カリブ海に行くと間違いなく充電できます。通常は旅先にも仕事を持って行きますが、それでも癒されます。わかりやすく言うと、仕事をしながら充電するときは、自分が楽しめる仕事を選ぶからです。太陽の下で好きなトピックについて文章を書くと本当に楽しいですね。

お気に入りの場所は、タークス・カイコス諸島、アルーバ、アンティグア、セントルシア、ケイマン諸島です。

──今、何を読んでいますか? おすすめの本はありますか?

Dolly Chugh著『The Person You Mean to Be』はとてもおすすめです。著者は偏見を乗り越える方法に関するメッセージを発信していて、現代社会に必要なことだと思います。

──今日あなたがされたのと同じ質問をしてみたい相手はいますか?

Carla Ann Harrisさん(モルガンスタンレーのマネージングディレクター)

──これまでにもらったアドバイスの中でベストなものを教えてください

神を信じること。そして、毎日今日が人生最後の日だと思って暮らしなさい。

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中国の杭州で教えるヒューリン博士
Photo: Courtesy of McGill University

──挑戦中の課題はありますか?

本物の自己表現」に興味があり、周囲に広めていきたいと思っています。問題は、「本物の自己表現」とは心の中は相手を傷つけることであろうとなんでも言うことだと思っている人たちがいることです。私は、リーダーの皆さんがお互いを尊重し合いプロに徹する仕事の仕方のルールを作ることができるように、手助けしたいと思っています。

同時に、職場環境では、「本物の自己表現」はまだ評価されるにも至っていない個人的な特性や考え方を持つ人たちにとってははるかに難しいということをリーダーが理解することも大切です。

言い換えると、「本物の自己表現」は、何の問題も無くできる人たちもいれば、そうでない人たちもいて、特に職場でマイノリティの立場にある人たちにはリスクを伴う試みかもしれません。

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Nick Douglas – Lifehacker US[原文