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「カードを机の上でかき混ぜたら何秒で完璧に混ざるのか?」にガチンコで挑む数学者がいる

by 萩原 浩一

スタンフォード大学で統計学の教鞭を執るパーシ・ダイアコニス教授は、プロのマジシャンとして活躍した経歴を持つ異色の数学者で、コイントスやカードのシャッフルといったランダム性に関する研究で多くの功績を挙げています。そんなダイアコニス氏が、「シャッフルの最大の謎」として挑戦中なのが、机の上でカードをかき混ぜる原始的なシャッフル方法「スムーシング」の問題です。

Persi Diaconis Mixes Math and Magic | Quanta Magazine
https://www.quantamagazine.org/persi-diaconis-mixes-math-and-magic-20150414/

◆スムーシングとは?
以下のムービーを再生すると、元プロのマジシャンであるダイアコニス氏が、カードのシャッフルを実演している様子を見ることができます。

The Best (and Worst) Ways to Shuffle Cards - Numberphile - YouTube


ダイアコニス氏は、これまでの研究により既にさまざまなシャッフル方法で「何回シャッフルをすればデッキが完璧にランダムになるか」を突き止めています。例えば、こんな感じに2つに分けたカードを噛み合わせながら混ぜるリフルシャッフルでは、7回やればOKだとのこと。


一方で、日本ではなじみ深いオーバーハンドシャッフルは最も効率が悪い切り方の1つで、厳格なランダムさを求めるなら1万回はやらなければならないとのこと。


そして、机の上でカードをかき混ぜるシャッフル方法が「スムーシング」で、ウォッシュシャッフルと呼ばれることもあります。上下もバラバラになるのでカードの上下が重要になるタロット占いで使われるほか、簡単なので子どもがトランプで遊ぶときにもよく使われます。


◆スムーシングの研究
スムーシングをやるのは簡単でも、カードの動きを数学的に解き明かすのは至難の業で、「何秒続ければランダムになるのか?」という問題はいまだに答えが出ていません。ダイアコニス氏によると、「スムーシングをやったときのカードの動きは流体力学的な現象に近い」とのこと。こうした現象の一例が、海流により運ばれる海洋ごみの動きです。


流体力学は完璧に解明することが非常に難しい分野で、例えば流体力学の重要な柱の一つであるナビエ-ストークス方程式の解にまつわる謎は、物理学の未解決問題のひとつに数えられています。

この問題に立ち向かうためにダイアコニス氏が取り組んでいるのが、統計学分野で幅広く使用されている計算手法であるマルコフ連鎖モンテカルロ法の研究です。ダイアコニス氏は、流体力学と統計学を統合することが、スムーシングの謎に迫るための道なのではないかと考えています。

ダイアコニス氏の研究のもうひとつの手がかりが、「カット・オフ現象」です。感覚的には、カードをシャッフルすればその分だけデッキはランダムになっていくように思えますが、ダイアコニス氏の過去の研究では、「シャッフル中のデッキはあるタイミングで急激にランダムになる」ことが分かっています。この「急激にランダムになる」という現象がカット・オフ現象です。


ダイアコニス氏がこれまで解明してきたリフルシャッフルなどのシャッフル方法では、すべてカット・オフ現象が発生していることが分かっているため、スムーシングでもカット・オフ現象が起きることが分かれば、何秒で完璧にランダムになるかをつきとめる重大な手がかりとなります。

◆実験
実践派の統計学者であるダイアコニス氏は、既にスムーシングを繰り返す実験を行っています。ダイアコニス氏は、スタンフォード大学の生物統計学者であるマルク・コーラム氏とLauren Bandklayder氏、そして教え子らとともに15秒間・30秒間・1分間のスムーシングをそれぞれ100回ずつ行い、実際にデッキがランダムになったかどうかを調べました。

デッキがランダムになっているかどうかを調べるには、デッキが同じ並び方になった割合を調べるのがベストですが、この方法は現実的とはいえません。というのも、52枚あるトランプカードの並び方の種類は52の階乗通り存在することになりますが、52の階乗の計算結果は銀河にある原子の個数と推定されている数に近いほど大きな数字になるためです。これにより、「有史以来、よく切ったカードの並び方が同じになったことがある可能性は限りなくゼロに近い」といわれており、100回や200回のシャッフルで同じ並び方になることはほぼありません。

by Nejron

そこで、ダイアコニス氏はスムーシングでシャッフルした結果を10通りの統計的手法によりテストしました。例えば、「特定のカードがデッキのどの位置に移動したか」や「スペードの1と2のように連続したカードがシャッフル後も連続していた回数を調べる」といったテストです。

その結果、15秒間のスムーシングはダイアコニス氏の予想どおりテストをパスできませんでした。一方、ダイアコニス氏の「1分間のスムーシングでも全てのテストをパスすることは難しいだろう」との予想を裏切り、30秒と1分間のスムーシングは10通りのテストを全てパスしました。ダイアコニス氏はこの結果から、「デッキを完璧にランダムにできるスムーシングの長さは1分以内」だと見ています。しかし、実のところ100回というサンプル数は統計的には信用できるものではありません。

ダイアコニス氏が納得のいく結論を出すには、少なくとも1万回は必要だとのことですが、15秒~1分間に分けてそれぞれ1万回もシャッフルするというのは気が遠くなるような作業で、ダイアコニス氏や同僚たちだけでは到底不可能です。そこでダイアコニス氏は今後、アメリカ中の中学校や高校の数学の授業でスムーシングをやってもらう「国家スムーシング計画」を進めていく考えだとのことです。

ダイアコニス氏の「国家スムーシング計画」がどこまで本気かは不明ですが、ダイアコニス氏が14歳で家出してマジシャンの世界に飛び込んで以来、50年以上もの歳月をシャッフルの研究に費やしてきたことを鑑みれば、シャッフルにかける情熱は間違いなく本物だといえそうです。

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