問題は、冥王星じゃない。私たちのほうだ。
そう語るのは、米GizmodoのRyan F. Mandelbaum。トップ画像(NASAの画像に、彼が描いたぐちゃぐちゃな線入り。)のように、冥王星に対する私たちのイメージって、ちょっと勝手なところがあります。「冥王星は惑星」派の人も「冥王星は惑星じゃない」派の人も「べつにどっちでもいい」派の人も、改めてそもそも惑星とは何かについて一緒に考えてみませんか。
先日「冥王星は惑星だ」と、公の場で発言したのは米航空宇宙局(NASA)のJim Bridenstine長官。もしかすると半分冗談だったのかもしれません。動画では背後で「AHAHA!」という笑い声も聴き取れます。ただ、そのときのBridenstine長官の笑みにどんな意図があったのかは本人のみぞ知る...といったところでしょうか。
さて、いずれにせよ「冥王星は惑星なのか」という議論をするのに今は絶好のときです。宇宙の複雑さを鑑みると「惑星」という言葉自体が古めかしいことも否めないのですから。
かつて大昔は、太陽や月などの空を漂うものを惑星と呼んでいました。のちに科学者らは、地球が太陽の周りを回っていること、そして太陽系の他の物体はさらに分類できることに気づきました。水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星は明らかに惑星である。でも、月は惑星ではない。なぜなら、月は月だから...とか。
冥王星を発見したのは1930年、アメリカの天文学者Clyde Tombaughでした。彼が見たのは空を漂うもの、すなわち惑星でした。その後も調べるほど惑星というカテゴリーの曖昧さは拭いきれません。
1992年、科学者のDavid Jewitt、Jane Luuが海王星のさらに奥で当時のエッジワース・カイパーベルトを発見。続いてエリス、マケマケ、ハウメアといった冥王星に似た天体が発見されると、研究者らは太陽系外には冥王星のような天体がいくつも存在することに気がつきました。特にエリスは冥王星よりも大きかったことから、カイパーベルトの天体を惑星へと昇格させるか、あるいは冥王星を準惑星へ降格させるかといった議論が始まったのです。
そして2006年、国際天文学連合(IAU)は後者の方法を選びました。惑星は重力の影響で球体であること、太陽を周回する軌道上にあること、そして近接するものがないこと(軌道上で支配的な重力体であること)という3つの条件で定義されることになったのです。
冥王星やエリスは「近接するものがない」という部分で当てはまらなかったため純惑星となりました。実際、冥王星とカイパーベルト天体カロンに注目すると、カロンが冥王星の軌道に沿っていないことがわかります。
それからというもの、冥王星が惑星でないという新たな事実とうまく向き合えずにいる人たちも少なくありません。それは「水金地火木土天海冥」が「水金地火木土天海」になることへの違和感からかもしれません。あるいは、NASAによる巨額プロジェクト「ニューホライズンズ」が2006年に始まったばかりだったのに、「惑星に着いたと思ったら準惑星だった」みたいな、たとえるならばエベレストの登山中に「じつはもっと高い山がある」と宣言されたようなものだと感じる人もいることでしょう。
2年前に「基本的に、星よりもちいさな丸い物体すべてを惑星に」と提案したのは、ニューホライズン主任研究者で冥王星エバンゲリストのAlan Sternなどの科学者ら。ただ、星と惑星の間をまたがる多数の物体が多数あるためこの定義には欠陥がありました。
「冥王星は惑星か、準惑星か」という議論で対立する見解はどこか客観的でない部分も出てきます。でも、冥王星自体には何の問題はありません。宇宙に対する理解のスピードに、私たちの言語のほうが追いついていないことのほうが問題ではないでしょうか。「惑星」という言葉に重しをのせすぎたのかもしれません。
昔の定義に当てはまった冥王星が、惑星という言葉を掘り下げようとするとその他の「水金地火木土天海」と同じカテゴリに属さないと定義されてしばらく経ちます。今後も、メディアを通じて「冥王星は惑星か」という議論は続くことでしょう。でも実際には、海王星の先にある、大きくて丸くて氷で覆われた興味深い物体のひとつ。それが冥王星です。本当は、ちっぽけな定義づけの箱の中に閉じこめる必要なんてないのかもしれません。