超ハイスペックな金属なんです。
日本時間9月11日の深夜に行なわれたApple(アップル)の製品発表会。忘れ物防止タグの発表はありませんでしたが、第5世代の「Apple Watch Series 5」は無事発表されました。
液晶の常時点灯やコンパス機能の追加などがありましたが、ギズモード的にはチタニウムモデルの登場に興奮しました。軽くて丈夫なハイスペック金属チタンが、Apple Watchの素材になったんですから。これは大注目です。
そこでこの記事では、チタンがどんな金属なのか解説していきたいと思います。みんな、ついてきてね!
チタンはどんなものに使われているの?
Apple Watchに使われているチタン。実はけっこう私たちの身の回りで使われているんですよ。
日本チタン協会によると、もともとは、航空機やロケットなどの部品素材として使われていました。現在でも、海水淡水化装置や海上橋脚、熱交換器などに用いられています。
また、建築の分野でも大活躍。屋根や壁材、手すり、モニュメントなどに用いられることも。加えて、医療機器にも使われています。インプラントの人工歯根などが有名ですね。
その後、民生用機器にも使われるようになります。車やバイクのマフラーやカメラ、ゴルフのクラブ、メガネフレーム、登山用品やアウトドアグッズ、剣道の面などもチタン製のものがあります。昔チタニウムのPowerBookなんてのもありましたね。
最近では腕時計の素材としても注目されています。シチズンやセイコー、カシオ、オリエント時計といった国産メーカーはもちろん、海外メーカーでも採用しているところが増えています。
意外と身近なところにチタン製品ってあるものなんですよ。
チタンの特徴は「軽い」「強い」「錆びにくい」
では、チタンという金属はどんな性質を持っているのでしょうか。
チタンの特徴を端的に言うと「軽い」「強い」「錆びにくい」。チタンは、ステンレスに比べ約40%ほど軽く、比重(対象と同じ体積の水の質量比。チタンは4.51、ステンレスは7.9)に対する強度「比強度」が高いという特徴があります。つまり同じ強度のものを作った場合、チタンはステンレスよりも軽くできるのです。
同じような素材にアルミニウムもありますが、重さだけで言えばチタンのほうが重くなります。ただし「比強度」がチタンのほうが高いため、同じ強度のものを作る場合、アルミニウムに比べチタンのほうが軽くできるのです。
また、ステンレスやアルミニウムに比べる錆びにくいという点もチタンの特徴のひとつ。まったく錆びないというわけではないのですが、錆びにくさは頭ひとつ飛び抜けています。こういった特徴があるため、宇宙関係や航空関係で使われてきたわけですね。
また、チタンの隠れた特徴として「金属アレルギーが出にくい」という特徴があります。これは、チタンの表面に形成されている不動態化被膜のおかげ。そのため、常に肌に触れる腕時計の素材として注目され、現在ブームになっているというわけです。
チタンのデメリット
一方、デメリットもあります。ひとつは、「光沢が出にくい」ということ。ステンレスのミラー加工のような、ピッカピカな光沢感は基本的にありません。光沢を出すにはかなり手をかける必要があります。
また、ステンレスやアルミニウムに比べ柔らかいというデメリットもあります。比強度は高いのですが、単純にチタンとステンレスまたはアルミニウムを比べると、チタンのほうが柔らかいのです。
しかし、柔らかいのはチタンの中でも100%チタンの「純チタン」の話。一般的には硬さを出すために、チタンにパナジウムやアルミニウムを添加した「チタン合金」が使われています。この柔らかさに関連する弱点として、「擦り傷に弱い」という点があります。純チタンは耐摩耗性が低いため、傷が付きやすくなります。
軽くて強くて錆びないけれど、光沢が出にくく擦り傷に弱い。それがチタンなのです。
チタンの希少価値は実は低い
チタン製と聞くと高級なイメージがあると思います。実際、ステンレスやアルミニウム製のものに比べると価格帯は上がります。チタンが高いのは、貴重な金属だからなのでしょうか。貴重なものは高いですからね。トリュフとか。
実は、チタンは地球上でも5番目くらいに埋蔵量の多い金属。量としてはちっとも貴重じゃないんですね。
じゃあなんで高いのかというと、加工が難しいから。チタンは非常に酸化しやすいという性質があるのです。
チタンを使えるようにするためには、採掘した酸化チタン、またはそれを含むルチールという鉱物を塩化させたり、スポンジチタンというものにしたり、砕いたり溶かしたりして、加工できる金属の状態(板状や棒状)にします。
酸化しやすいチタンは、これらの工程をすべて真空、またはアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスを充填したタンクで行なう必要があります。精製にものすごく手間がかかるのです。そのため、ステンレスに比べ10倍ほどの価格になってしまうとのこと。
チタンは貴重だから高いのではなく、使えるようにするまでが「くっそめんどうくさい」から高いんです。
チタンの色はどうやって変えているの?
チタンの色を変える場合は、チタンに電気を通して色を変える「陽極酸化法」という方法を用います。チタン自体は、この方法を用いると100種類以上発色させることが可能です。なかなか色彩豊かな金属です。
この陽極酸化法は、チタン表面の酸化被膜の厚さを変えることで光の反射をコントロールして発色させる方法。理論的には、可視光に含まれる色なら再現できます。
しかし、この方法では黒と白は出せません。白はさまざまな色が混ざり合った結果なので、ある特定の色を引き出す陽極酸化法では無理なのです。また、黒は単純に「暗い」という明るさの問題なので、可視光の成分を利用して発色しているチタンの特性上、黒という色は出せないのです。可視光のなかには「黒」という色はありませんから。
でも、巷にはブラックチタンなるものがあります。あれはどうやって黒くしているのでしょうか。
実はブラックチタンは、炭素などをコーティングしているのです。この炭素コーティングは色を黒くするだけではなく、チタン表面の硬化にも一役買っています。
一見、簡単そうに見える白や黒といった色も、チタンの場合はかなり高度な技術が必要になるんです。
チタニウムモデルとステンレスモデル、どっちにする?
今回Apple Watch Editionに加わったチタニウムモデル。チタンはステンレスモデルに比べ光沢はないものの、硬くて軽いのが特徴です。ただApple Watchの場合、どちらも重さは同じなんですよね。
Apple Watch Edition チタニウムモデル(40mm)
縦:40 mm
横:34 mm
厚さ:10.74 mm
ケース重量:39.8 g
8万2800円(税別、最安のバンドを選んだ場合)
Apple Watch ステンレスモデル(40mm)
縦:40 mm
横:34 mm
厚さ:10.74 mm
ケース重量:39.8 g
7万2800円(税別、最安のバンドを選んだ場合)
重さどころか、サイズも一緒。つまり強度的にはチタニウムのほうが上ですね。おさらいすると、比重に対する強度が高いので、ステンレスとチタンが同じ体積のとき、チタニウムのほうが強度は強くなります(チタニウムモデルに使われているのが、よほどチタンの含有率が低い合金でない限り)。
うーん、どっちを選べばいいんですかね? ステンレスモデルとチタニウムモデルの価格差は1万円。この差が高いのか安いのか……。
Source: 一般社団法人日本チタン協会,