ギズモード・ジャパンからの転載

革新のヒント目の前にありました。

最近のリスニング事情はワイヤレスが主流。でも、だからこそ高品質なサウンドを、それこそ有線でも聞きたいというニーズ、あると思います。アナログレコードの再興やポータブルヘッドフォンアンプの盛り上がりは、そうした願いの現れかと。

現在、クラウドファンディングmachi-yaでは「T3-02」というカナル型イヤホンがキャンペーン中なのですが、このイヤホン、只者ではないのです。究極のナチュラルサウンドを謳う「T3-02」は、並々ならぬ情熱をもって作られました。

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Photo: ヤマダユウス型

生み出したのは、群馬県高崎市に構えるプロ向けのレコーディングスタジオTAGO STUDIO TAKASAKI。作曲家・音楽プロデューサーの多胡邦夫さんが運営しています。

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プロ向けスタジオでありながら高崎市営の施設。カフェエリアなどもあったり。学生もよく利用するそうですよ。良いなぁ、こういう場所が地元にあるのって。

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Photo: ヤマダユウス型
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Photo: ヤマダユウス型

スタジオに続く廊下には多くのアーティストのサインがびっしり。こ、これは、高崎出身でも知られる布袋寅泰さんのサインッ! マリオネッツ!

今回は多胡さんに、「T3-02」の制作秘話やクラウドファンディングの経緯についてお話を伺ってきました。

知ってもらうためのクラウドファンディングだった

─「T3-02」のクラウドファンディング起案の経緯を教えて下さい。

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Photo: ヤマダユウス型

多胡さん(以下、敬称略):もともと僕たち(多胡さんと一緒にイヤホンやヘッドホンを作っている株式会社TOKUMI)は「T3-01」というヘッドホンを作ったのですが、あちらはいわゆるモニターヘッドホンで、クリエイターを意識したプロダクトでした。今回の「T3-02」はそうではなく、もっと多くの人に音楽を楽しんでもらいたいという思いがあります。その上で、ミュージシャンやオーディオファンだけでなくフラットに音楽を楽しんでいる人たちにも伝えたいと思い、クラウドファンディングを活用させていただきました。

─クラウドファンディングというと資金調達という印象がありますが、それが目的ではなかった?

多胡:そうですね。「T3-01」がプロに向けたものだったので、今回の「T3-02」はなるべく一般の人にも届けたくて。より多くの人に知ってもらうためのクラウドファンディングという感じです。今までの方法だと音楽業界やコアな音楽ファンの方には届くんですが、クラウドファンディングであればまた違った人たちに届けられるのではないかと

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Photo: ヤマダユウス型

右側がスタジオモニターヘッドホン「T3-01」。メイドイン高崎の銘機として高い評価を得ている。

─いわゆるポタフェスだったり、自分からオーディオ機器を研究しにいく人たち以外にも知ってもらうためのクラファンだったのですね。

多胡:コアなファンはもちろんですが、気軽に音楽を聞いてる人たちにも届けたくて。本当に良い音で音楽を楽しもうと思ったら昔のようにスピーカーで聞くのが良いんですけど、今はスマホやサブスクで音楽を楽しむのが主流になってます。スピーカーの時代に戻すことはおそらくもう無理でしょうけど、ヘッドホンやイヤホンさえしっかりしたものを使えば、そこが音楽を感動して楽しめる最後の砦になるんじゃないかという思いは以前からありました。

─確かに、ヘッドホンやイヤホンは最後の出力地点ですものね。

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Photo: ヤマダユウス型

多胡:なので、「T3-02」は本格的な音楽プレイヤーでもスマホでも、適正なバランスで聞けるように作っています。そもそも適正なバランスというのは一番その音楽が感動できるバランスであり、ミュージシャンやレコーディングエンジニアがスタジオで作ったバランスをそのまま届けることが最善だと僕は考えています。それが可能なヘッドホンやイヤホンはそう多くないのが現状です。なので「T3-02」はそこを目指しつつ、スマホでもちゃんと鳴らせることを前提に作りました。

外で聞くためのナチュラルは、また別のサウンド

─「T3-02」の特徴やこだわりは何でしょうか?

多胡:こだわりは「T3-01」の時から一貫していて、スタジオでミュージシャンが作ったバランスをそのまま聞いてもらうことです。それが一番感動できる音楽であるべきですし、そうでないなら音源のバランスがおかしいということになるはず。生のギターをここで鳴らした音をそのままイヤホンから出すような、究極のナチュラルサウンドを目指しました。

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Photo: ヤマダユウス型

─原音に忠実という表現はよくありますが、まさに生音という意味のナチュラルですね。

多胡:あとは、外で気持ちよく聞けるようにすることです。外には車や電車など様々なノイズがあって、そのレベル帯で目減りする周波数があります。あと、これは僕個人の考えなんですけど、外で聞く時と家の中で聞く時と、求める音像がわずかに違うんですよね。例えばレストランで食べる料理やワインは美味しいけど、バーベキューをするような屋外だとそれは果たして同じように美味しく味わえるのかって。多分、そこではビールや肉の方が美味しいと思うんですよ(笑)。

─とてもよくわかります!

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Photo: ヤマダユウス型

多胡:同じ食事でも屋内と屋外だと求めるものが違う。音楽でも同じことがあると思うんですよ、五感のことですから。で、さきほどのノイズによる目減りも意識しつつ、外で聞くナチュラルサウンドってこういうことじゃないのかっていうチューニングを施しています。ここは「T3-01」と違うところですし、外で聞いて気持ち良いナチュラル感っていうのを何ヶ月も研究しました。プロトタイプも何回も試しましたし、この楽器がもうちょっと出て欲しいなとか、この帯域が出てると気持ち良いなとか。なので、モニターイヤホンとは謳ってません。

─「T3-01」はモニターヘッドホンでしたけど、「T3-02」は外で聞くナチュラルサウンドを追求したイヤホンなんですね。

多胡:そうです。あとは価格ですね。なんとか3万円台にすることも最初から一貫していていました。価格を上げればもっと上を目指せたり開発も楽になるんですけど、そうなると本当に一部の人にしか届かなくなってしまう。スマホでの再生を意識してるように、「T3-02」はもっと若い人たちにも聞いて欲しいという思いがあって、ちょっとアルバイトを頑張ったら手が届くような価格帯に押さえたかった。それで良い音を知ってほしいし、外に持ち出して欲しいなと。

外で心地良く聞ける密閉度を実現した、意外なアイディア

─「T3-02」は、部屋の中にもう一つ部屋を浮かせる浮遮音構造からヒントを得た「BOX-IN-BOX構造」が採用されていますね。このアイディアを思いついたときはどんな手応えでしたか?

多胡:それはもう「よっしゃこれだ!」ですね(笑)。だって音楽を作っているこのレコーディングスタジオと同じ構造なんですから。これで成功する道だけを探ろうと言い切りました。

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TAGO STUDIO内のコントロールルーム。防音効果の高いこの部屋と同じ構造をイヤホンに応用。
Photo: ヤマダユウス型

─まさに灯台下暗しですね。具体的なイヤホンの形状はどうなっているんでしょう?

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多胡:イヤホンとしての機能を持ったコアユニットをさらに筐体で覆っています。二重構造にすることで遮音性を高め、騒音の多い屋外でも「T3-02」ならではのナチュラルサウンドを生み出せています。極端な話、コアユニットだけでも音は聞けるんですよ。部品的にイヤホン二個分になっているので、余計にコストがかかってしまっていますが、その価値はあったと感じています。

─シルバーのコアユニットを、カエデ材の外装部品が覆ってるかたちですね。

多胡:どうしても本体が大きくなってしまうので、耳が小さい人には装着性が悪くなる可能性もリスクとしてはわかっていたんですが、そこを覚悟してでも「BOX-IN-BOX構造」にトライしました。なので、少し大きいと言われるのはもう承知の上ですね。

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─スペースが余ってるなら、ワイヤレス通信のチップを載せようとか、追加できる要素はあったと思うんですよ。でも、そこを空きのまま通したというのは、正直すごいなと思っています。

多胡:ワイヤレスについては初めから考えてませんでした。まずはフラッグシップとして最高に良い音を作る。そうなると、ワイヤレスではない。もしワイヤレスをするとしたら、この次のプロダクトになると思います。

─BOX-IN-BOX構造を実現する上で、どんな部分で苦労されましたか?

多胡:いってしまえばもう全部です(笑)。コアユニット全体をまるっと覆っているようなイヤホンは、おそらく前例が無いかと。

─でも、それだけコストをかける意味もあったのですね。

多胡:そうですね。あと、開発時、TOKUMIさんには「多胡さん、イヤホンはヘッドホンと違って音をいじれる範囲が圧倒的に少ないので、そこだけはあらかじめご理解ください」と念を押されて言われました(笑)。何世代か前のプロトタイプをもらった時に「このかたちでできることはもう全部やりました、限界です!」と言われたんですけど、そこをなんとかアイデアを出し合いながら超えてもらって、さらにその次も超えて、次も超えて…。結局、限界を10回くらい超えて、今のかたちになりました。

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─限界の超えっぷりがすごい…!

多胡:その違いも本っ当に微々たるもので、作ってる僕たち以外の人が聞いたらほぼ同じに感じると思います。でも、そのミクロの差がとてつもなく大きくて。どうしたら次に進めるか悩んでいた時に、TOKUMIさんが新しい切り口を提案してきてくれたんですけど、それでようやく「コレだ!」という音ができたのが、ポタフェス出展の週の月曜とかでしたからね。もしかしたら出展できないかもしれないとも言われました(笑)。

─本当にギリギリですね! まさに、料理でいうとあと一振り塩を足すかどうかの微妙な違いなんだとお察しします。

多胡:まさにそうです。前の「T3-01」も、そうした紙一重の積み重ねでたどり着きましたからね。音楽って、最終的には聞いた人が感動するかしないかになってきますから、その感想は十人十色だと思うんです。でも、僕たちが「これは世界一のヘッドホンだ、イヤホンだ」と胸を張れるものを作りたいし、それができなければ出さなくていい。そういう思いでやってきましたね。

自信をもって提案できる、本当のナチュラルサウンド

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─「持ち歩く究極のナチュラルサウンド」を冠にするイヤホンとして、「T3-02は」どんなサウンドに向いてますか? 今までのお話を聞くと何を聞いても素晴らしいとは思うのですが。

多胡:ジャンルは選ばないですけど、そうですね……。「T3-02」の良さをより体感しやすいジャンルとして提案するなら、生楽器やアコースティック系ですね。ギターやヴァイオリンやピアノ、あとは女性ボーカルモノなら、他のイヤホンやヘッドフォンと「T3-02」の違いがより伝わりやすいかと思います。

─どんなユーザーに「T3-02」を使ってほしいですか?

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多胡:もちろん音楽を愛している人すべてですけど、なるべく若い子に使って欲しいとは思いますね。僕らの世代は家にオーディオ機器もあって、良い音を聞いて育っていたと思うんですけど、PCスピーカーやスマホの音楽で育ってきた今の子たちは、周波数的にもガツっとカットされた音楽に慣れてると思うんです。それって本当にもったいないし、良い音を聞いたときの感動って、倍どころか何十倍も違うじゃないですか

─「こんな音鳴ってたんだ!」みたいな感動って、本当に震えますよね。

多胡:なので、若い人たちにはぜひ豊かな音場で鳴る音楽を体験して欲しいし、「T3-02」でその感動を味わってほしいですね。きっとこの音質でこの価格帯はかなり挑戦してると思いますし、オーディオに詳しい方ならそこはもうわかってもらえていると思います。クラウドファンディングを通じて、多くの人に届いてほしいですね。


インタビュー後、僕も外で「T3-02」を使ってみました。とにかく、音場が素晴らしい。耳の奥に音を届けようと頑張る「狭く鳴る音」では決してなく、イヤホンから出る豊かな音の広がりが感じられます。サイズはたしかに大きめですが、いざ装着してしまえば重さも相まって存外に安定感がある。

そして、ナチュラルサウンドと謳う意味もよくわかりました。無理にドンシャリさせないフラットなチューニングで、素直かつ穏やかに音楽に没入できます。女性ボーカルのロングトーンの切れ目なんかは、音場が広いおかげで距離感までもしっかり追える。アコギなんかの生音もしかり。この伸びやかさはとても気持ち良い…!

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Photo: ヤマダユウス型

メイドイン高崎のイヤホンTAGO STUDIO「T3-02」のクラウドファンディングは、2019年9月30日(月)まで実施中。中野ブロードウェイのフジヤエービック、eイヤホン各店舗、宮地楽器神田店では試聴機も出ているので、興味のある方はぜひ訪れてみてください。素晴らしいサウンドを保証しますよ。

Photo: ヤマダユウス型

Source: machi-ya