「美しさ」に強く感動すると外部刺激に反応しないはずの脳領域「デフォルトモードネットワーク」が活性化する

by The 5th Ape

人は絵画などの芸術作品や雄大な自然などを見て「美しい」と感じることがありますが、誰もが同じものを見て美しいと感じるわけではなく、美しさの基準は主観的です。神経科学者らの研究チームは人の脳を核磁気共鳴画像法(MRI)を利用して観察し、美しさを感じている人の脳内では、自己認識や記憶に関わる「デフォルトモードネットワーク」と呼ばれる活動が活発になっていることを発見しました。

The default-mode network represents aesthetic appeal that generalizes across visual domains | PNAS
https://www.pnas.org/content/116/38/19155

Neuroscientists Find Our Experience of Beauty Is Linked to an Unexpected Brain Region
https://www.sciencealert.com/a-core-part-of-our-brains-may-contain-a-universal-code-for-what-we-find-beautiful

デフォルトモードネットワークは、主に休息中や安静状態など、人が「何もしていないと思っている時」に脳内で活発化する、脳領域の大規模な神経活動を指します。人々の自己感覚を調節する上で、デフォルトモードネットワークが大きな役割を果たしているともいわれており、自分自身を省みたり記憶を思い出したり、何かを想像したりする際に活性化することが知られています。デフォルトモードネットワークの働きについては、以下の記事から詳細を読むことが可能です。

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一般的に、デフォルトモードネットワークは外部タスクを遂行している時や、外部刺激によって活発化することはないとされています。しかし、マックス・プランク研究所の神経科学者であるEdward Vessel氏は、数年前から「美」に対するデフォルトモードネットワークの働きについて研究してきました。

2012年の研究で、Vessel氏は芸術作品が鑑賞した人々の琴線に触れた場合、デフォルトモードネットワークが活性化することを発見しました。芸術作品が個人に対して大きな感動を与えた時、通常の外部刺激では活性化しない脳のシステムが活性化し、「芸術作品を驚くほど個人的なものとして感じることができる」と、Vessel氏は2013年のフォローアップ研究で説明しています。

by TheDigitalArtist

その後も美しさを感じることとデフォルトモードネットワークとの関連について研究を続けるVessel氏らの研究チームは、芸術作品に限らず建物や自然の風景といった画像についても実験を行いました。研究チームは16人の被験者に芸術作品、建築物、自然の風景といったさまざまな画像を見せ、MRIを使ったfMRIという手法で脳活動を測定しました。すると、被験者が画像に対して「美しい」と感動したかどうかにかかわらず、脳内の視覚をつかさどる領域で画像の種類ごとに異なる活動パターンが見られたとのこと。

これに対し、デフォルトモードネットワークは違った反応を見せました。被験者が画像に感動を覚えなかった場合、デフォルトモードネットワークは活性化しませんでしたが、画像に対して強い感動を覚えた場合のみ、画像の種類に関係なく視覚をつかさどる領域と同レベルに活性化したそうです。

ほとんどの場合、外部のものを見る時には脳の視覚をつかさどる領域が最も活性化し、デフォルトモードネットワークは視覚的な刺激と切り離されています。ところが、何かが強く人の心に美的な魅力を強く感じる場合には、デフォルトモードネットワークが活性化して強く機能すると研究チームは主張しています。

美しさに関連してデフォルトモードネットワークがどのような働きを持っているのかは不明ですが、今回の研究結果は、視覚から受けた「美しい」という感覚が、何らかの形で脳の自己感覚にリンクしていることを示唆しています。研究チームは今後、デフォルトモードネットワークの活性化が音楽や詩といった、ほかの外部刺激によっても活性化するのかどうかについても研究を行いたいと考えています。

by Una Laurencic