エルフの女奴隷を代々受け継ぐ家系の話( #えるどれ )~1世代目~

シリーズ全体の目次はこちら https://togetter.com/li/1479531 ハッシュタグは「#えるどれ」。適宜トールキンネタトークにでもどうぞ。
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みやはらみおさんに呪いの家系の初代、バンダゲムゾブドを描いていただきました!蛮族のくせに装備の良い略奪男の特徴を見事にとらえてくださいました。

以下本編

帽子男 @alkali_acid

人間とエルフって寿命が違うじゃん。 だから女エルフの奴隷を代々受け継いでいる人間の家系があるといいよね。

2019-09-22 11:06:39
帽子男 @alkali_acid

ひいひいおじい様の代から大事に使っているアンティーク奴隷ですよ。

2019-09-22 11:07:07
帽子男 @alkali_acid

んで代々の主人の中に女がいたかというと…。 この家系ではない。常に主人は男。万世一系の男子。 しかも兄弟もいない。いつもひとりっこ。へへ残念だったな。百合展開も兄弟サンドイッチも拝めねえよ。

2019-09-22 11:12:49
帽子男 @alkali_acid

エルフの女奴隷は姫騎士…じゃなくて妃騎士っすわ。 妃で騎士。夫たる王もいたし娘もいた。 戦場では駿馬を駆り、剛弓を引き、利剣を振るい、呪文を唱え、闇の軍勢をばったばったとなぎ倒していたハイスペバリキャリ。 なのにどうして奴隷に堕ちたかと言うと。

2019-09-22 11:16:41
帽子男 @alkali_acid

ある時、闇の女王に仕える人間の群に出くわしたんですわ。毛皮をまとい、棍棒を振るう野蛮なまあ毛無猿。 黥面文身。歯はわざと削ってとがらせてるし、投石器でうんこは投げてくるし最低の連中ですわ。 「うお!うお!尖り耳ども、うお!うお!」

2019-09-22 11:19:18
帽子男 @alkali_acid

汚い東夷の言葉で喚いて果敢に突撃してくる。 恐れを知らないこと、エルフやその友である西方人を憎むことだけが取り柄のカスどもっすわ。 当然、妃騎士は迎え撃ち、まあ全滅させますわな。

2019-09-22 11:20:56
帽子男 @alkali_acid

終わり。 いや終わりじゃない。東夷の集落がまだどっかにあるかもしれないしほっとくと人間すぐ増えるからね、角笛を吹き鳴らし妖精の騎士を呼び集め、猟犬と鷹を連れて「荒々しき狩り」と呼ぶ追跡を始める。 こりゃ恐ろしいもんですわ。何せエルフは目も耳も鼻も鋭く、森や山や野に隠れても、

2019-09-22 11:23:10
帽子男 @alkali_acid

必ず探り出して殺してしまう。 しかも魔法まで使いますからね。勝ち目がない。 でも容赦をしているとね。東夷はあっという間に繁殖して、再び連合を組んで闇の女王の支配する影の国の軍門に集まり、雄叫びを上げて西方世界に挑戦してきますからしゃあない。しゃあない。

2019-09-22 11:24:32
帽子男 @alkali_acid

紋様つきの板塀が囲む村の中央。すでに守りは破れ、妖精の馬と猟犬と鷹が暴れ、燐光を引く矢が乱れ飛ぶ家々のあいだに、身の丈七尺ぐらいはある全身刺青半裸の大男が立ち尽くす。 「尖り耳の魔女!!牙の部族の長ガンドバスガブルが相手をしてやる!!」 でも東夷の言葉なんかエルフの耳には雑音。

2019-09-22 11:28:01
帽子男 @alkali_acid

一度に三矢を放つ妃騎士の弓にかかれば瞬殺ですわ。 そうでもない。二矢までを武器で受け、最後の一矢を腕で止める。 「きさまのへなちょこ矢などきかんぞ!あいつが大将首だ!!潰せ!」 東夷の男達が雄叫びを上げて集まり、木の盾を掲げて長とともに突進する。 まだ小さな子供も混じっている。

2019-09-22 11:29:52
帽子男 @alkali_acid

子供は投石器振り回す係。 矢だらけになりながらも蛮族の戦士達は止まらない。 「闇の女王のために!!」 「獣の神々のために!!」 「牙の部族のために!!」 突出しすぎている妃騎士を守ろうと配下が馬を飛ばしてくるが将はさがりもせず弓を下げ、片腕を上げる。

2019-09-22 11:31:41
帽子男 @alkali_acid

たちまち風の刃が男達をずたずたのミンチに変えてしまうんですな。 魔法。 どうしようもねえ。 魔法はよ。定命のゴミには何にもできねえから。 こんな辺境には闇の女王直属の黒の乗り手もいねえしよ。 じゃあ弓とか要らないじゃん。いやそうなんだけどたまには弓の練習もしないと鈍るし魔法は目立つ

2019-09-22 11:33:32
帽子男 @alkali_acid

あとちょっと疲れる。まあ節約ですよ節約。 すぐに屍の山だけが残った。 妃騎士はじっと血と肉の堆積を見やる。動くものなし、音もなし。さすがにくさすぎて鼻は利かない。 「奥方様。お見事な腕前」 「時間を無駄にした…すぐに陛下と合流せねば。敵の本隊ははるかに手強い」 「奥方様!お顔が…」

2019-09-22 11:36:20
帽子男 @alkali_acid

青ざめた騎士が差し出す手巾を、弓籠手をはめた優美な指でうけとって、頬をぬぐうと血がついている。どうやら投石器の礫がかすめたよう。 一矢、いや一石むくいた蛮族。 「構わぬ」 「しかし」 「先を急ぐぞ」 「は…」

2019-09-22 11:37:58
帽子男 @alkali_acid

奴隷?奴隷は?いつ奴隷になるの。 まあ待って。牙の部族の屍の山にはやがて野から入ってきた金狼が群がり、肉を裂き骨を噛み、食事にかかる。東夷にとっては悲惨な最期ではない。獣の腹に還るのはね。 毛むくじゃらの掃除屋が悪臭を放ち蠅のたかる血だまりに頭を突っ込んでると中から痩せた腕が

2019-09-22 11:40:15
帽子男 @alkali_acid

伸びて耳をつかみ、引きずり込んで首をへし折る。 「…ぐう…尖り耳…殺す…絶対に殺す…」 少年だ。牙の部族の戦士の最後の生き残り。ガンドバスガブルの息子バンダゲムゾブドだ。 先だってまで狩りも戦も肩を並べ苦楽を分かち合った父や叔父や従兄や従弟の血にまみれながら、バンダは復讐を誓う。

2019-09-22 11:42:53
帽子男 @alkali_acid

だがまずは祖母や母や従姉やそのほか、闇の女王に仕える祭祀でもある女達のもとへ行かねば。男は死んでもまた育てればよい。女こそが牙の部族の知恵と伝統とすべてを支える要だ。 バンダは殺した金狼の毛皮をまとい、四つ足で駆ける。

2019-09-22 11:45:16
帽子男 @alkali_acid

隠れ処へ。だがすでに女達はいずこかへ消えていた。エルフに連れ去られたか。探し回りながら野を彷徨し、やがてオーガの軍勢にぶつかる。殺されそうになるが、汚い闇の言葉で話して同じ女神を崇めると解ると非常食兼下働きとして加わることを許される。めちゃくさいし不潔だが東夷は気にしない。

2019-09-22 11:46:52
帽子男 @alkali_acid

「尖り耳の魔女…絶対に殺す…でもその前に部族の女達を探す」 「女。ぐははは!とっくに死んでいる!女は弱い!それよりもうすぐ大戦がある東の闇と西の光の最後の決戦だ!殺して殺して殺しまくるのだ!」 「殺す!でも女達は…」

2019-09-22 11:48:47
帽子男 @alkali_acid

女達は見つかった。沼地で。エルフの荒々しい狩りから逃げ惑ううち、死者の沼に迷い込み、溺れ死んだのだ。死体漁りのゴブリンが教えてくれた。 「まあまあうまかったぞ。お前の部族の女は」 「…何人いた」 「俺達が漁ったのは三十四」 「…みんな死んだか」 「どうした?」 「牙の部族はもうない」

2019-09-22 11:51:13
帽子男 @alkali_acid

少年は拳で胸を何度も叩いた。 「俺は…俺の部族はもうない」 「またお前が増やせ」 「女が増やす!知恵とならわしを教え、闇の女王に貢物を捧げる!男は狩りをして戦って死ぬだけだ!」 「女を手に入れろ」 「部族の女はいない!」 「お前が手に入れた女が部族の女だ」 「違う…もういい。俺は戦う」

2019-09-22 11:53:04
帽子男 @alkali_acid

さて戦ヶ原に集まった東西の軍勢は双方万を超えていたんやね。 まず東軍。魔狼や大蝙蝠にまたがるゴブリン、常闇の霧に守られたトロール、オーガの大軍。東夷もほぼ全部族が終結した。黒の乗り手もいれば、化蜘蛛もいる。竜までいる。

2019-09-22 11:55:23
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