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経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

緊縮速報・増税で却って財政再建に遅れ

2020年01月19日 | 経済(主なもの)
 日本では、消費増税が目的化しているので、経済成長どころか、財政再建すら犠牲にして推し進められる。増税後、景気対策の支出が剥落した段階の2021年度の基礎的財政収支のGDP比は-2.0%と、増税前の2018年度の-1.9%より、わずかながら悪化する。これでは、何のための消費増税なのかと、脱力してしまう。増税で成長を低下させ、他の税収が減るのを、消費増税で補う形なのだ。財政収支が改善しないなら、純増税なぞ試みない方がマシではないか。消費増税そのものにサディスティックな喜びを感じるというのでないならね。

………
 1/17に「中長期の経済財政に関する試算」が公表された。世間的には、2025年度に財政再建の目標を達成できるかばかりが注目されているようだが、経済的には、財政収支は、ゆっくりでも改善していれば、リスク管理には十分である。実際、基礎的財政収支のGDP比は、2015年度に-2.9%だったものが、2018年度には-1.9%まで改善しており、増税がなくても、1年に+0.33%のペースで改善をしてきた。政治的に決めた到達時期に意味はない。

 この改善ペースを単純に伸ばしていけば、5~6年後には、消費増税がなかったとしても、赤字がゼロになった計算だ。たとえ、景気後退で改善が中断し、達成が1~2年遅れたとしても、何の問題もない。すると、消費増税をするのなら、更に早く達成できるくらいでないと、理屈が立たない。すなわち、景気後退の最中に増税するという、成長に深手を負いかねない危険を、わざわざ犯す必要性は、何なのかということになる。

 今回の「試算」で、気づいてほしいのは、2018年度のGDP比が-1.9%に、大きく上方修正されたことだ。前回の試算では-2.4%と、0.5%も低かった。財政赤字を大きく見せるのは、いつもの事ながら、これでは状況判断を狂わせてしまう。赤字がGDPの2%より小さいなら、名目成長率を1%ほど確保するだけで、債務比率は、現状のGDP比200%弱くらいで安定的になる。つまり、闇雲に赤字ゼロを目指して無理をする必要がないレベルなのである。

 「試算」については、とかく、「高めの成長率が前提なのに、目標に届かない」と批判されるが、過去3年の改善ペースの実績は、図で分かるように、高めの成長率の場合を上回る。つまり、「実際の成長率は、前提より低い」と言って、財政赤字の先行きを深刻視するのは虚しい。アベノミクスにおける公的需要の名目GDP比は減り気味で、世間のイメージと違い、高齢化で膨らんでいるわけではない。むしろ、余計な心配をして、締め過ぎる方に害がある。

(図)



 さて、ここで、財政の緊縮・拡張の度合いも点検しておこう。補正によって、2019年度予算の歳出は、前年度補正後比が+3.3兆円となった。問題は、税収が前年度決算比でどれだけ伸びるかだ。その分が緊縮になるからである。前年度決算は60.4兆円で、政府の2019年度税収見込みは60.2兆円だが、これは悲観に過ぎると思われる。法人税等の低下は、政府の見込みほど大きくならず、税収は60.8兆円程度になると見ている。

 また、2020年度の政府予算案は、公債費が-0.1兆円と、わずかな緊縮の形に作ってあるが、税収見込みの63.5兆円が上ブレすれば、緊縮は強まる。今後、企業収益の取り戻しによって、65.1兆円程度への伸びもあると見ている。こうして、補正とトータルすると、+1.2兆円程度の拡張にとどまり、さほどの財政出動ではない。展開としては、景気の悪化で結果的な財政出動になったり、景気の小康による税収増の自動ブレーキで低迷したりではないか。

………
 本当に財政再建をしたいのなら、財政は経済の一部なのだから、成長を阻害しないように進めなければならない。強引にやれば、家計から奪い取るだけのゼロサムになり、激しい痛みが走ることになる。忌避感が出るのも当然だ。消費増税は、大き過ぎて加減が効かず、成長との整合が極めて難しい。そういう経済的な難しさをよく分からずに、政治上の規範的な意識だけで無頓着にやってしまうところに、この国の病理がある。

 余計なことを言うと、消費税は「減税」するのも難しい。下手をすると、輸入ばかり増えて、成長が低下するという事態もあり得るからだ。設備投資を引き出すのに必要十分な需要に管理するのは、結構、大変なのである。今回の消費増税は失敗が明らかになりつつあり、政治的な反動も予想されるが、極端から極端は避けたいところだ。穏健かつ柔軟、すなわち、透徹した現実主義に立った経済運営が求められる。


(今日までの日経)
 財政健全化、遠のく日本 足元の税収減響く 25年度の赤字3.6兆円に拡大。地方景気、海外減速で打撃。日銀、長期国債購入減に拍車。バイト時給、最高更新 昨年12月三大都市圏、2.9%高1089円。主要職種で時給上昇 一般事務、1年で5~6%。


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