米国TIME誌に「世界で最も履き心地のよいシューズ」と評されたことで、一気に知名度を上げ、北米を中心に大きな注目を集めるスニーカーブランドがAllbirds(オールバーズ)です。

そのオールバーズがいよいよ日本上陸。日本初のフラッグシップショップのオープニングに駆けつけたジョーイ・ズウィリンジャー氏に、その飛躍的な成長とビジョンについて話を伺いました。

サッカーニュージーランド代表選手で、プロアスリートとして活躍したティム・ブラウン氏と、バイオテクノロジー分野で実績を重ねたジョーイ・ズウィリンジャー氏によって、2016年にスタートしたオールバーズ。その短期間での成功をもたらしたものとは?

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Allbirds共同創業者のジョーイ・ズウィリンジャー氏
Photo: KOBA

──スニーカーといえば、ナイキやアディダスといった巨大スポーツブランドが市場を席巻しているのが現状です。新規参入のハードルが高い分野だと思いますが、あえてそこで勝負しようと決意したのは?

ジョーイ・ズウィリンジャー氏(以下ジョーイ):新規参入が難しい分野であることは確かです。なぜなら、スニーカーの生産には30以上もの工程が必要とされます。さらに、非常に高い精度が求められ、たった1mmのズレでも廃棄せざるを得ません。

ですから、スニーカー作りはある種のアートでもあると考えることができます。そんなハードルが高い分野にあえて挑戦し、消費者から信頼を得るブランドになることは、非常にやりがいのある仕事だと思えたからです。

──とはいえ、無鉄砲なチャレンジではなく、そこには勝算があった訳ですよね?

ジョーイ:もちろんです。既存のブランドと同じやり方では、通用しないということは明らかでした。ですから、全てを根本から見直す必要がありました。

素晴らしい製品(Great Product)、革新的な素材(Innovative Material)、新しい販売手法(Direct to Consumer)、社会的な責任(Social Responsibility)。これらの4つが揃うことで、初めてこの分野で成功することができると考えていたのです。

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Photo: KOBA

──あなたが思い描く最高のスニーカーとは、具体的にどんな条件を満たすものだったのでしょうか?

ジョーイ最高のプロダクトには、最高の素材が必要となります。ですから、まず素材にこだわりました。

我々が最初に生み出したWool Runner(ウールランナー)のアッパーには、高級スーツなどに使われているイタリアのREDA(レダ)社に生産を依頼した、最高級メリノウールのニット生地を使用しています。

羊にとって快適な環境で、倫理的(=エシカル)な飼育基準を満たしたZQメリノだけを使用しています。人間の頭髪の20%ほどの細さであるメリノウールは、通気性と吸湿速乾性に加えて、温度調整機能がある機能性素材でもあるからです。

ニットにすることで、軽量かつストレッチ性もあり、どんな足形の人でも最良のフィット感が味わえるはずです。ぜひ実際に履いてみてください。

──まず手にしてみて、圧倒的に軽いことに驚きました。足入れをしてみると、ちょうどいいフィット感ですね。ソールが非常に柔らかく、適度なクッション性があるのですね。

ジョーイ:甲高で足幅の広い日本人の方にも満足していただけるはずです。メリノウールをニットにすることで伸縮性が得られるので、足指を締め付けず、適度なフィット感を生み出すことができるのです。また、インソールはヒマシ油を利用したもので、シューレースは廃棄されたペットボトルを再利用したものです。

──なるほど、オールバーズのスニーカーはほとんどの素材が天然由来成分で、なおかつ再生可能な原料から成るのですね。

ジョーイ:その通りです。ソールもサトウキビから抽出したエタノールを利用して、CO2の排出量が極力少ない製法で作っています。このソールの開発には3年もの期間がかかりました。

近年は大手ブランドもサスティナブルを意識した素材を採用していますが、私の目から見ればそれはまだごく一部。オールバーズの製品は天然由来の素材にこだわり、エシカルかつ環境負荷の低い手法によって生み出すことができました。

大手ブランドではまだ実現できていないことを、我々が率先して取り組むことが、ブランドとしての社会的責任を果たすことにもつながります。

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Photo: KOBA

──それではデザインという面でのこだわりは?

ジョーイ:大手スポーツブランドは有名スポーツ選手と契約し、大きなロゴ入りのスニーカーを試合で履いてもらうことで知名度を獲得しています。シューズショップにある何百種類という商品の中から、選んでもらうために必要なプロモーションだと思います。

しかし、僕たちはそうした装飾的な要素を一切取り払った、究極にシンプルで快適なスニーカーが欲しかったのです。いわば、引き算の美学ですね。

──サスティナブルな素材と製法にこだわる、フランスに拠点を置くVEJA(ヴェジャ)というスニーカーブランドが、リック・オウエンスとコラボレーションしたことは、ファッションに敏感な層にも広くアプローチしました。そのように、著名なデザイナーを迎えたコラボなどが今後あるのでしょうか?

ジョーイ:デザイナーとブランドという従来のコラボレーションの形は、自分たちらしいやり方ではないと思っています。でも、サスティナビリティという点で共鳴するアーティストやブランド、もしくは企業とのコラボレーションが控えています。今はまだその詳細をお伝えすることはできませんが、半年後には皆さんにお知らせできるはずです。

──そのアナウンスを楽しみにしています。さて、オールバーズはシリコンバレーで活躍する企業家をはじめ、環境問題に積極的に取り組んでいるレオナルド・ディカプリオも愛用しているのですね。

ジョーイ:彼が我々のビジネスを後押ししてくれました。単にセレブリティを広告塔として起用するのではなく、あくまでも価値観が呼応する、共鳴する関係があってこそ意味があるのです。

──いわゆるインフルエンサーマーケティングではなく、企業理念に共感したファンを広げることこそ、成功への近道だったのですね。それでは販売方法のこだわりとは?

ジョーイ:オールバーズが既存のスニーカーブランドと大きく違う点として強調しておきたいのは、小売店を通さず直接消費者に販売する、ダイレクト・トゥ・コンシューマー(D2C)という販売手法を取っていることです。

これにより適正な利益を含んだ、適正な価格での販売が可能になります。小売店を排したことで得られる利益を、さらなる開発や改良に充てることができます。2016年に最初のプロダクトを発表してから、すでに30回以上もの改良を加えています。トレンドに合わせてデザインを変える必要もないですから。

──日本のビジネスマンも脱スーツ化が進んで、よりカジュアルなスタイルが広まっています。クールビズにおいてはその傾向が顕著で、ノータイでスニーカーというスタイルが広まりつつあります。アメリカでもそうなのでしょうか?

ジョーイ:日本のビジネスマンのカジュアル化が進んだのは、3.11が大きな影響を与えたと聞きました。たしかにカジュアル化は世界同時進行していると感じています。自宅にいながら仕事ができる環境が整い、働き方が多様化していますからね。

アメリカでもオフィスに行く必要がないビジネスマンが増えたこともあり、脱スーツ化=カジュアライジングは確実に進行しています。仕事に行く格好と、その後に遊びに行く格好はなるべく同じ方がいいですからね。

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Photo: KOBA

──日本初の旗艦店である原宿店の設計コンセプトをお聞かせください

ジョーイ:スニーカーと同様にグッドマテリアルを意識しました。壁面には天然木材を使用し、カウンターには古材を使いました。また、店内の木製チェアも工夫をしました。シューズを履くとき楽に背を屈められるように、前方へスイングする設計になっています。

また、試着時に待たされるストレスを軽減するために、すべての靴箱をあえて同じサイズにしています。そうすることで隙間なく積み上げることができ、限られたスペースを効率的に利用できるからです。お客様のご希望サイズをすぐに用意できるので、お待たせすることはありません。

──なぜ、原宿駅の目の前というロケーションだったのでしょう?

ジョーイ:さまざまな伝説的ブランドのスタート地点が原宿であったことを知り、この地が最適だと思いました。竹の子族をはじめとする、ユースカルチャーが生まれた場所であることも重要なポイントです。

──日本でもようやくSDGs(=Sustainable Development Goals、持続可能な開発のための17のグローバル目標と169のターゲットからなる、国連の目標)という言葉が、聞かれるようになりました。しかしながら、まだまだその指標へは程遠いというのが現状です。

ジョーイ:私は三井物産と仕事をしていたこともあり、日本への渡航は30回以上に及びます。その中で、日本人特有の自然との付き合い方があることを知りました。国や企業が率先してSDGsを掲げていなくても、ひとりひとりが自然との接点を持ち、自然を敬う気持ちを忘れなければ、それは実現するはずです。

──決して日本も楽観視できる状況ではありませんが、一人ひとりの意識が少しずつでも変わっていくと、未来はより良いものになるかもしれませんね。最後にジョーイさんが好きな日本のスポットを教えて下さい。

ジョーイ:カフェなら渋谷の“茶亭 羽當”と京都の“ガロ”、日本食なら大手町の“天ぷら すず航”、ファッションブランドでチェックするのは“ジャパンブルージーンズ”です。トラディショナルとモダンが共存した空間が好きなのです。


【Information】

ブランド名:Allbirds(オールバーズ)

ストア名 :Allbirds 原宿(オールバーズ原宿)

オープン :2020年1月10日(金)

住 所  :東京都渋谷区神宮前1-14-34 原宿神宮の森ビル1階

営業時間 :11:00 ~ 20:00 不定休

URL     :www.allbirds.jp

Instagram :@allbirdsjapan


Source: Allbirds

Photo: KOBA