南の島の人たちの生き方から「しない」をテーマに切り取るコラム「南の島の幸福論」。サモアに住む酋長ツイアビさんの言葉から生まれるコペルニクス的転回とは?
サモア人酋長のツイアビさんは「パパラギ(ヨーロッパ人)は、もっと時間が欲しいといつも不満をいう」といいます。
仮にパパラギが、何かやりたいという欲望を持つとする。その方に心が動くだろう。
たとえば、日光の中へ出て行くとか、川でカヌーに乗るとか、娘を愛するとか。
しかし、そのときの彼は「いや、楽しんでなどいられない。俺には暇がないのだ」という考えに取り憑かれる。だから、たいてい欲望はしぼんでしまう。
「パパラギ」より引用
私が住む南国フィジーも「フィジー・タイム」と呼ばれる、ゆるい時間感覚があります。
フィジー在住13年目になりますが、フィジー人から「もっと時間が欲しい」といった類の言葉を聞いた記憶がありません。
モチベーションは新鮮なうちに活用する
ツイアビさんがいう「欲望がしぼむ」という経験、私もよくあります。
たとえば、仕事帰りの夕方(月曜日)に立ち寄った本屋でおもしろそうな本を見つけ、週末にでも時間ができたときに読んでみようと購入します。
実際、週末になったときには、その本を読みたいという欲求はだいぶ落ちていて、むしろ「せっかく買ったから読まねば」という義務感が発生してしまっていたり…。
欲求(モチベーション)を維持することはなかなか難しいのです。
だから、モチベーションが高いタイミングで即実行に移せるように、未来の時間を空けておくことが重要!
「この本を読みたい!」と思って買った直後に読み始める。これがモチベーションを腐らせず、有効に活用する方法だと思います。
「やりたいと感じる瞬間」と「実行する瞬間」がなるべくズレないように、思い立ったが吉日で。
スケジュール帳をホワイトニングする
以前はスケジュール帳を真っ黒にすることで充実感を感じていました。
しかし、フィジーに移住してからは「スケジュール帳のホワイトニング」が人生を謳歌する秘訣だと思っています。
なるべく予定をスカスカにすること。フィジー人たちは自然にそれができています。
そもそもスケジュール帳を持っている人も少ないです。スケジュール帳を使っていて、予定をたっぷり書き込んでいる人でも、フィジーは「ドタキャン」に寛容なので、気が乗らなければ迷わずアポをキャンセルします。
だからこそ、義務感で疲れたりもしません。
「いま、やりたいこと」を大切に生きているので、欲望をしぼませる暇がありません。
時間がない、その理由は?
ツイアビさんはこう続けます。
時間はそこにある。パパラギはそれをまったく見ようとはしない。彼は自分の時間を奪う無数のものの名前をあげ、楽しみも喜びも持てない仕事の前へ、ぶつくさ不平を言いながらしゃがんでしまう。
だが、その仕事を強いたのは、他の誰でもない、彼自身なのである。
「パパラギ」より引用
そこにあるはずの時間が「ない」と錯覚してしまうほどに、忙しくしてしまう日本人も多いはず。
「忙」という漢字が心を亡くすと書くように、「時間飢餓」の状態だと、心の健康が失われてしまうので注意が必要です。
「時間が足りない」を作り出している原因の1つは「備えあれば憂いなし」の精神かもしれません。未来のリスクをなるべく減らすべく、入念な準備をしがち。
杞憂に終わりそうなことにも準備をし、結果として、膨大な時間を浪費していませんか。
フィジー人はフォーカスが「今」に当たっているので、「未来」の不安がありません。しっかりした事前準備をする習慣も薄く、行き当たりばったり感が強いです。(それをおすすめする訳ではありませんが)
特にリスク回避のための準備に時間を取られていると感じるなら、それは本当に時間を割いてまで備えるべきリスクなのか?と自問して、必要以上の準備時間を減らしていくことが、時間飢餓からの脱却方法なのかもしれません。
ツイアビさんは厳しくこう言います。
私たちは、パパラギ(ヨーロッパ人)の小さな丸い時間機械(時計)を打ち壊し、彼らに教えてやらねばならない。
日の出から日の入りまで、ひとりの人間には使い切れないほどたくさんの時間があることを。
「パパラギ」より引用
「時間はある」という、南国らしいメッセージ。
「いやいや、私たちが住む国は南の島とは取り巻く状況が全然違うんだ! そんなのんびりしたこと、言ってられるかっ!」と突っぱねることは簡単です。
ただ、どこか彼らから学べる部分を探して、生活に取り込んでいく実験をしてみると、目からウロコの発見があるかもしれません。
次回「しないから幸せ『南の島の幸福論』vol.3」は、<仕事はちょっぴりしかしない>というテーマです。なぜ南の島の人たちは働かないのか、について考えたいと思います。
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永崎 裕麻(ながさき・ゆうま)|Facebook

「旅・教育・自由・幸せ」を人生のキーワードとして生きる旅幸家。2年2カ月間の世界一周後、世界幸福度ランキング1位(2016/2017)のフィジー共和国へ2007年から移住し、現在13年目。ライフスタイルをアップデートする英語学校カラーズ校長。100カ国を旅し、14カ国で留学した経験を活かし、内閣府国際交流事業「世界青年の船」「東南アジア青年の船」に日本ナショナル・リーダー/教育ファシリテーターとして参画。ライター、教育企画の立案、「幸せに気づくコーチング」、「40歳定年」などの活動もしており、フィジーと日本を行き来するデュアル・ライフを実践。2019年からは「幸福先進国」であるデンマークも加えたトリプル・ライフに挑戦中。大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒業。二児の父。

著書に「世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論」(いろは出版)。
Photo: 永崎裕麻