南の島の人たちの生き方から「しない」をテーマに切り取るコラム「南の島の幸福論」。サモアに住む酋長ツイアビさんの言葉から生まれるコペルニクス的転回とは?
いきなりですが、私たちが「働く理由」って何でしょうか?
即答できない人も多いかと思います。南の島に住む酋長ツイアビさんの答えは明確です。
腹いっぱい食べ、頭の上に屋根を持ち、村の広場で祭りを楽しむために、神様は私たちに働けとおっしゃる。
だが、それ以上になぜ働かねばならないのか。私たちの仕事はほんのちょっぴりで、職業という点からは、貧しく見えるかもしれない。
だが、たくさんの島の心正しい兄弟たちは、喜びとともに自分の仕事をする。決して苦しみながらではない。そんな仕事なら全然しないほうがましだ。
そして私たちとパパラギ(ヨーロッパ人)との違いが、まさにここにある。
「パパラギ」より引用
ツイアビさんの場合、働く目的は「食住祭」です。
表現の違いこそあれ、それは日本人とそんなに大差があるわけではないでしょう。日本人の主なお金の使い道も、「食費」「家賃」「娯楽費・交際費」ですから。
ただ、違いを感じるのは、「貯金」に対する目的意識です。
一般的には、貯金は多ければ多いほどいいという感覚があるのではないでしょうか。
私たち日本人も、病気や災害など、もしもの時のためになるべくお金を貯めようと働きます。この「もしも貯金」という目的があるため、際限なく働く必要性をどこかで感じてしまっているのかもしれません。
それに対して、私が住む南国フィジーでは、「もしも貯金」という発想が非常に薄いです。そもそもフィジー人は「いまここ」を大事にしているので、「未来」のための貯金をしようという感覚もあまりありません。
貯金をするにしても、ツイアビさんがいう「祭りを楽しむため」や「年末のクリスマスパーティーのため」といった「確定している予定」に対してです。
貯めるべき金額が決まっているので、それに必要な量だけ働きます。
まだ働く余力があるからといって、必要量を超えて働いたりしません。労働量が限られているからこそ、希少性が宿り、楽しみながら働くことができます。
実際に病気や災害などの「もしも」という状況が発生すれば、出たとこ勝負で、コミュニティーの力を駆使してなんとかします(笑)。
「もしも」に備えない
これを可能にしているのは、「なんとかなる」という南国特有の楽観的な考え方。
加えて、信仰(キリスト教)の影響もあります。すべては神の思し召しですから、どんなことが起きようと彼らは受け入れることができるのです。
ツイアビさんは続けて言います。
パパラギが一人前になると、もう子どものように飛んだり跳ねたりはできなくなってしまう。
風に吹かれて、体を引きずるようにして歩き、まるでいつも何かに邪魔されているようにノロノロ動く。
そしてこの無気力さを認めようとはせず、こんな風に言いつくろう。
「走ったり飛んだり跳ねたりするのは、上品な大人の礼儀にかなうことではない」。
だが、そうはいうものの、これは偽善的な弁解である。実際には彼らの骨はこわばって動かなくなり、すべの筋肉が喜びを失った。骨も筋肉も、眠りと死へと追いやられてしまったのだ。職業によって。
「パパラギ」より引用
その昔グリコのCMでこんなコピーがありました。
「子どもは、1日平均400回笑う。大人になると15回に減る」
フィジーに住み、いちばん驚いたのは「大人が子どもみたいに楽しそう」なこと。秀逸なグリコのCMコピーもフィジーでは視聴者には刺さりません。
フィジーの子どもたちは、毎日目撃しています。大人たちが躍動する姿を。
そんな大人の背中をみて、子どもたちは未来に希望を持ちます。
大人になったらさらに楽しい世界が待っているんだと。
どうでしょう。最近、走ったり、飛んだり、跳ねたりしていますか?
していないようであれば、時間配分を少しだけ変えてみてもいいかもしれません。
「もしも貯金を稼ぐ時間」を「(走ったり、跳ねたり)運動に没頭する時間」へ。
自分自身の健康のためにも、子どもたちに未来の希望を与えるためにも。
次回は、<考えない>をテーマに『南の島の幸福論』vol.4をお届けします。私たちは考えた結果、本当に幸せに近づいているのでしょうか。お楽しみに!
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永崎 裕麻(ながさき・ゆうま)|Facebook
「旅・教育・自由・幸せ」を人生のキーワードとして生きる旅幸家。2年2カ月間の世界一周後、世界幸福度ランキング1位(2016/2017)のフィジー共和国へ2007年から移住し、現在13年目。ライフスタイルをアップデートする英語学校カラーズ校長。
100カ国を旅し、14カ国で留学した経験を活かし、内閣府国際交流事業「世界青年の船」「東南アジア青年の船」に日本ナショナル・リーダー/教育ファシリテーターとして参画。ライター、教育企画の立案、「幸せに気づくコーチング」、「40歳定年」などの活動もしており、フィジーと日本を行き来するデュアル・ライフを実践。2019年からは「幸福先進国」であるデンマークも加えたトリプル・ライフに挑戦中。大阪府生まれ。神戸大学経営学部卒業。二児の父。
著書に「世界でいちばん幸せな国フィジーの世界でいちばん非常識な幸福論」(いろは出版)。
Source: パパラギ はじめて文明を見た南海の酋長ツイアビの演説集
Photo: 永崎 裕麻