「人類初の火星着陸」計画に、専門家たちが猛批判

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
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  • Rina Fukazu
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「人類初の火星着陸」計画に、専門家たちが猛批判

「月をなんだと思ってるの?」

2033年に火星への人類着陸を目指す計画に対して、科学者たちから修正を求める声があがっています。

彼らの主張は、月へのミッションを後回しにして、民間セクターによる技術支援を制限するのは間違いである、というもの。さらに、人類の火星着陸を急ぐことによるリスクが明らかに...。

アグレッシブな計画に対する"困惑の声"

米下院科学宇宙技術委員会によって発表された「2020年の国家航空宇宙局認可法(National Aeronautics and Space Administration Authorization Act of 2020)」では、2033年までのアメリカ人火星着陸計画のほかにも、有人月面着陸のタイムラインを2024年から2028年へ改訂すること、さらにアルテミス計画の月着陸船開発における民間企業の参入を中止、あるいは制限する指示も含まれています。

この法案「H.R. 5666」を受け直ちに声明を発表したのが、NASAのジム・ブライデンスタイン長官。月への到達や探査に大きな制約を課すことになり、国家の目標を達成するために、政府と民間が協力して築いてきた柔軟なアーキテクチャの開発能力を妨げることになると主張しています。

これに続き、法案反対の声をあげた人たちがいます。先日公開されたオープンレターで十数人の科学者らは、法案に重大な懸念を抱えており、修正が必要であると表明。署名者にはコロラド大学ボルダー校で天体物理学・宇宙科学を専門とするJack Burns、アメリカ地質調査所のLillian Ostrach、セントルイス・ワシントン大学のBradley Jolliffをはじめ科学者、エンジニア、ミッションプランナー、なかにはアポロ計画やアルテミス計画関係者が含まれています。

議会のねらいは...?

これまでBoeing Aerospace、SpaceX、ロッキード・マーティンといった民間パートナーの協力を受けてきたNASA。議会は、NASAが独自に開発能力を伸ばして政府が宇宙技術の所有権をある程度保持できる状態を望んでいるのかもしれません(あるいは、開発の遅れにしびれを切らしている可能性も)。

いずれにせよこの法案によりNASAは、"政府が完全に所有・指揮する"アルテミス計画の、有人着陸船システムを構築するよう指示されることになります。

「月は、火星の足がかりじゃない!」

オープンレターの著者は、法案に対して次のように意見を示しています。

納税者のみが資金提供者となるような宇宙飛行プログラムは、持続可能ではありません。

生存し成功することを願って地球から人類を送り出すという投資から、目に見える利益があることを米国の納税者に対して示すことが重要です。


…(この法案は)月には目的地としての本質的な価値がなく、そこで得られた資源や経験は、さらなる火星探査活動に役立つことはないという誤った見方で書かれているかのようです。

我々が主張したいのは、月は、火星の持続可能な有人探査を促すと同時に、米国や国際パートナーの経済領域拡大をも可能にする資産であるということです。

具体的には月へのミッションの継続が、宇宙観光や鉱業などのビジネス機会となることや、科学的・技術的発見を促進すると主張しています。

また、従来の計画を変更することのリスクは広範に及びます。月で得た資源を活用するよう設計されたプロジェクトを潰すことになるだけでなく、火星への有人着陸に技術・運用面で十分に備えることができず、放射線からの乗組員保護や居住可能なモジュールの開発などが必要になることを訴えています。

実際のところ、議会のやり方が冷戦時代の宇宙開発競争を思い起こさせるようだという見方もあります。しかし今回の場合、相手はソビエト連邦ではなく、中国、ロシア、それから潜在的には民間企業。目的地は月ではなく火星。

宇宙科学と探査の推進に取り組む非政府組織のPlanetary Societyもまた、現在の法案を不安視していることを米Gizmodoに明かしています。

下院による火星へのコミットメントを評価するいっぽう、新たな法案は「米国の宇宙飛行士の計画的な宇宙飛行を混乱・遅延させる」ものだと言及。法案のなかで特に「活動を制限し、探査活動の競争を阻む条項を削除すること」を提案しています。つまり、民間企業がミッションに参加できる状態を取り戻すことを支援する立場を示しています。

SpaceNewsによれば、先日の下院小委員会の法案審議セッションで大幅な修正が行なわれることはなかったといいます。法案の通過は承認されましたが、102ページにわたる文書は今後さらに審議され、改定される可能性も残っています。少なくとも、科学者らが反対する理由に向き合ったうえで議論が進められるといいのですが…。