カリブ海西インド諸島に位置するレドンダ島は、周囲を高い断崖に囲まれた小さな火山島だ。島を覆う草むらにはカツオドリやグンカンドリの巣が点在し、その主たちが何十羽も頭上を飛び交うなか、島の固有種であるアノールトカゲの仲間(Anolis nubilis)や体長3cmにも満たないヤモリが、近くの日陰をうろついている。レドンダグラウンドドラゴン(Pholidoscelis atratus)と呼ばれる、体長15センチの希少な黒いトカゲはもっと大胆だ。こちらが数秒間足を止めている間に、スニーカーの上を群れが横切って走っていく。(参考記事:「世界初、立って漕ぐ小舟で大西洋単独横断に成功」)
島の固有種のトカゲに出会うのにも、島をほんの2分も散策すれば十分だが、この島の自然はずっとこれほど豊かだったわけではない。わずか数年前まで、近くに浮かぶアンティグア島(レドンダ島は、アンティグア島など複数の島からなる国家アンティグア・バーブーダに属する)の島民たちからは、いずれは海に消える「死にゆく島」と見られていた。
19世紀末から20世紀にかけての50年間、レドンダ島はにぎやかな鉱山として栄え、大規模な滑車装置が、肥料として使われるグアノ(海鳥などの糞の堆積物)を海岸線まで運び降ろしていた。最盛期には100人以上の作業員が雇われ、その大半は島に住み着いて働いていた。(参考記事:「糞化石からスタバまで、南ライン諸島の数奇な歴史」)
しかし、鉱山が第一次世界大戦の勃発で閉鎖されると、人々はこの島の自然に重大な影響を与える2種類の生き物を残して去っていった。ヤギとネズミだ。それからの100年間で、外来種であるヤギとネズミは、目にとまるものすべてを食い尽くし、この島に残るものは砂埃と古い装置の残骸のみとなった。
ところが近年、レドンダ島では、信じられないほどのスピードで自然環境が改善されつつある。「自然再生(再自然化)」という言葉を聞くと、たいていの人は、たとえば庭園を立ち入り禁止にして自然の雑草が復活するのを待つといった、穏やかで受け身のプロセスを連想するだろう。しかし「レドンダ島自然再生プロジェクト」で採用された再生の方策は、もっと込み入ったものだった。