スズキは新型肺炎も「神回避」か、中国撤退済み－際立つ強運ぶり

スズキは過去10年間に自動車業界に降りかかった危機のいくつかで神がかり的な強運ぶりを発揮し、損失を最小限にとどめてきた。新型コロナウイルス感染症の問題でも他国に大きく感染が広がらなければ2018年に中国市場から撤退したスズキへの影響は他社と比べて限定的にとどまる見通しだ。

　　新型コロナウイルス問題で中国では春節（旧正月）休暇明けも多くの企業が活動を停止する中、自動車メーカーも現地の操業を止めたままだ。日系メーカーの多くは９日まで中国の拠点で休業の方針。16日まで現地工場の休業延長を決めたトヨタ自動車の白柳正義執行役員は６日の決算会見で今後の「収益、ビジネスにどういった影響が出るのか、本日時点では見通せていない」と話した。

　　一方、スズキは中国では長安汽車と合弁を組んでいたが、18年９月に合弁の解消を発表。実質的に四輪車のビジネスから撤退しており、現地での自動車生産や販売の停滞に直接影響を受けない立場だ。二輪や船舶用エンジンの事業は継続しているものの、会社全体としてみれば規模は小さい。

　　スズキの長尾雅彦常務役員は７日、都内での決算会見で、中国での四輪は今やライセンス生産が少しある程度で、直接生産の部分では「そんなに大きい影響はないと思う」と述べた。

　　スズキ広報担当の粕川聡史氏は取材に対し、四輪に関しては中国では現時点では影響が出ている部品はないとコメント。二輪車の生産については現地政府の指示で９日まで休業しており、大部分の拠点で10日から再開の予定とした。

　　スズキがビジネス上の危機において他社と比べて相対的に有利な位置を確保し、損害を回避するのは今回が初めてではない。14年以降、本格化したタカタの欠陥エアバッグ問題でスズキは不具合の主因となった火薬成分を使った製品を採用しておらず、世界中の多くの大手メーカーが実施した大規模リコールを免れた。

　　また米国のトランプ大統領が16年の当選以降、輸入車に最大25％の関税をかける方針を示した際には、米国への輸入や販売への依存度が高い自動車メーカーが対策に奔走したが、その数年前に米国市場から撤退していたスズキには影響はほとんどなかった。

　　ブルームバーグ・インテリジェンス（ＢＩ）の吉田達生アナリストは４日付のリポートで、新型コロナウイルスの問題による日系自動車メーカーへの収益影響は日産自動車、ホンダ、トヨタの順で大きいと指摘した。日産とホンダは感染の中心とされる湖北省武漢市に現地合弁の工場を持っており、そこでの操業を休止している。

日産に迫る時価総額

　　スズキ株の７日終値は前日比0.4％高の5121円で年初来では12％の上昇。トヨタは1.9％の上昇にとどまり、ホンダと日産はそれぞれ7.8％、6.3％の減となっている。スズキの時価総額は２兆5148億円でトヨタ、ホンダに続き３位の日産（２兆5160億円）を抜く勢いだ。

　　ＢＩの吉田アナリストは、スズキは「中国のエクスポージャーが極めて低い」と指摘。他社に先駆けて進出して高い市場シェアを誇るインド市場に注力する「インド一本足」の戦略を取っており、結果的に米国や中国などインド以外の市場の動向の影響を受けにくい体制となっていると述べた。　

　　スズキの長尾常務によると、中国から持ってくる部品などは日本やインドの工場にもあるが、取引があるのは10社程度と大きくはないという。ただ、サプライチェーン全体で見れば生産が止まるリスクもあるため、そのための確認作業を進めているという。

　　野村証券の桾本将隆アナリストらは１月28日付のリポートで、新型コロナウイルスの感染の影響が中国国内にとどまった場合、日産自動車への悪影響が最も大きく、ホンダとマツダがそれに続くとした。影響がアジアの新興国や日本、豪州にも拡大した場合、中国以外のアジア売上比率が高く、利益率も高くないスズキと三菱自動車への悪影響が大きいと指摘していた。

　　マツダは７日夜、中国の全拠点での生産を10日に再開することを計画していることを明らかにした。トヨタも工場以外の事業の一部を同日から再開する方針。ホンダは武漢市の工場の生産を今月17日の週に再開することを計画、広州市の別の工場は予定通り10日から操業を再開し、速やかな生産開始を目指すなど正常化の動きも出始めている。