水は「ふつう」じゃない。液体の水の構造は2種類あることを東大が証明

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  • author 山田ちとら
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水は「ふつう」じゃない。液体の水の構造は2種類あることを東大が証明
Image: 東京大学生産技術研究所

世界はまだまだ不思議だらけ。

あたりまえだと思っていた「水」ですが、じつは液体の水には異なる構造を持つふたつの液体が混ざっていることが東大の研究によって証明されたそうです。

えっ、水のなかに違う液体ってどういうこと!?

実はふつうじゃない

地球上でもっともありふれた液体でありながら、水はふつうじゃない性質をたくさん持っています。

たとえば、水は4℃で密度が最大になります。そのため、ほかの液体なら凍って縮むはずが、水は氷になると液体より体積が大きくなります。凍らせたペットボトルが膨張してしまうのはこのせいなんですね。

そして固体が液体より比重が軽いため、氷は水に浮きます。この水のふつうじゃない性質のおかげで、真冬の湖に氷が張っても、その下に0℃よりもあたたかい水が沈みこむから水生生物が生きのびられるわけです。

0℃以下でも凍らない

学校では「水は0℃で凍る」と習いましたが、これにも例外があります。

水は気圧が低ければ低いほど氷点が低くなり、急激に冷やすと氷点がさらに低くなるそう。なので、地球の大気圏には-35℃まで冷やされても凍らない「過冷却」状態にある水の粒が存在していて、たとえばいわゆるひこうき雲がこれにあたります。

2018年に行なわれた実験では、水を凍らせずに最低-42.55℃まで冷やすことに成功しています。さらに、水にとっては-45℃が特異点であることが数学的に導き出されていて、-45℃に近づくにつれて異なる密度を持った別々の液体に分離して、ふたつの状態のあいだを行き来する頻度が高くなるらしいということが次第にわかってきていました。

2種類の水が混ざってる?

水のふつうじゃない性質は、「ふたつの違う性質を持った液体が合わさってできている」と考えればすべて説明がつくそうです。

東京大学生産技術研究所によれば、1892年にこのいわゆる「混合モデル」を提唱したのはレントゲン博士。それに対して、水は水、すべては同じと考えたポープル博士は「連続体モデル」を推していました。それから1世紀以上にわたってこのふたつの考え方の間で論争が続いてきたのですが、これまで決定的な証拠がないままどっちつかずでした。

ところがついに、世界に先駆けて東大の研究者が混合モデルの動かぬ証拠を見つけたと発表したのです。

規則正しい水、乱れた水

東京大学生産技術研究所の田中肇教授とRui Shi特任研究員率いる研究グループは、コンピューターによる水モデルのシミュレーションと、X線散乱実験データの解析を合わせることで、水のなかのふたつの異なる構造を持った液体がそれぞれ違う動きをしていることをとらえました。

水はご存知のとおり「H2O」。水素2個と酸素1個で構成されるシンプルな分子です。水素と酸素のあいだにできる水素結合で、水はまわりの4つの水の分子と4つの水素結合を結び、正四面体の規則正しいかたちをつくる傾向にあります。

ところがです。すべての水がこのように規則正しく整列しているわけではなく、乱れたかたちをしている水もあるらしいのです。

規則正しいかたちをした水とそうではない水とでは、その構造の違いから異なる動きをするようです。今回の東大の研究では、その動きの違いをデータでとらえることに成功しました。具体的には「X線散乱実験データの詳細な解析により、水の構造因子には、見かけ上の『ひとつ目の回折ピーク』の中に、ふたつのピークが隠れていることを発見した」そうです。

ピークはデータをグラフにした際に表れる頂点=山のことなので、グラフでひとつの山に見えたところをよく見てみたらふたつの山が重なり合ってた、ということですね。下の画像の右上にあるグラフの青と赤の山がそれです。

20200212-water-has-two-types-of-local-structure-02
Image: 東京大学生産技術研究所

隠れたピークのうちひとつは、規則正しいかたちをした水に関連したピーク。そしてもうひとつのピークは、より乱れた構造から生じていることが明らかになりました。

「自由度」という恵み

「この結果は、水に2種類の構造が存在することを強く支持する結果であり、長年にわたる論争に終止符が打たれるものと期待される」とプレスリリースには書かれています。水の混合モデルの妥当性が、分子レベルで解明されたといってほぼ間違いなさそうです。

あたりまえだと思っていた水が、じつは2種類の異なる構造をもった液体(どちらも水ですが)が混ざったものだったとは。そして、たった3つの原子からできているのにも関わらず、これだけ複雑な構造をしている水だからこそ「他の単純な液体にはない自由度」があることにも驚きです。

自然の恩恵にあらためて感謝するとともに、すべて規則正しくなくても、ちょっとぐらいカオスがあったほうがうまくいく? …な~んて思ったりも。

Reference: 東京大学生産技術研究所, American Association for the Advancement of Science