アカデミー作品賞受賞映画『パラサイト』が描いた、もうひとつのリアリティ

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  • author Dharna Noor - Gizmodo Earther US
  • [原文]
  • Rina Fukazu
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アカデミー作品賞受賞映画『パラサイト』が描いた、もうひとつのリアリティ
Image: Frazer Harrison / ゲッティイメージズ

(ちょっとだけ)ネタバレ注意!

今年のアカデミー賞で4冠を得た映画『パラサイト』。英語以外の言語作品に作品賞が授与されたのは史上初ということもあり、世界中で注目が高まっています。

そんななかSF映画『デイ・アフター・トゥモロー』や、ドキュメンタリー映画『不都合な真実』と並べて同作を評価するのは、米Gizmodoで環境問題を中心に扱うメディア「Earther」のDharna Noor。気候変動がもたらす世界をリアルに表現していることに着眼しながら、アカデミー作品賞に選ばれた理由を語っています。

映画『パラサイト』が評価されている理由のひとつが、私たちが暮らすリアリティの裏表を痛快に描いていることであれば、同作で登場人物たちが"ある環境問題"に巻き込まれていくシーンはあらゆる意味で見逃せません。

以下、やんわりとネタバレ内容を含みます。


高台の豪邸 vs 半地下アパート

この映画では、主に2つの家族が登場します。貧乏なキム家と、裕福なパク家です。

暴風雨が街を襲ったある日、キム家が暮らしていた半地下のアパートは崩壊寸前に。下水道パイプが圧迫されて家のなかまで水が流れ込むようになり、一家はとうとう体育館の緊急避難所に避難することを余儀なくされました。

その頃、高台の豪邸に住むパク家は何の影響も受けていなかったのかというと...キャンピング旅行が台無しになっていました。

映画の世界から一旦離れてみると、韓国では2018年に発生した洪水によって800軒以上の建物が崩壊し、76人以上の人々が死亡しています。その多くは、キム家が住んでいる地域のような低平地。ソウルの半地下住居は一時期、安全面から賃貸が禁じられていたこともあります。

アカデミー作品賞映画が映し出す「時代」

『パラサイト』がアカデミー作品賞を受賞したことについて、私たちが抱える気候変動という大きな問題を巧みに描写していたことからも納得できる部分があります。

過去の映画と比べると、たとえばデイ・アフター・トゥモローのようなSFパニック映画では、いわば災害を受けてこの世が終わろうとしている様子が具体的に描かれています。いっぽう『パラサイト』が示すのは、災害によってどのような事態が起きるのか。それも、何もかも破滅させる大惨事ではなく、一度に多くの出来事が起きて、それぞれの立場の人たちが反応していくリアルさが表されています。

もし、時代が違えば『パラサイト』が描く暴風雨は、ただの映画上の設定にとどまっていたかもしれません。2010年にアカデミー作品賞を受賞した映画『ハート・ロッカー』はイラク戦争を描き、1978年のアカデミー作品賞受賞作である映画『ディア・ハンター』はベトナム戦争が描かれたものでした。そして2020年、『パラサイト』が描いた社会的な格差、階級、そしてこれらが顕著になるイベントとして発生した気候変動は、私たちが暮らす世界にはびこるリアルな一面だといえます。

映画から現実の世界へ

ポン・ジュノ監督は、過去の監督作品『スノーピアサー』というSFアクション映画で、氷河期を迎えた世界に生きる人々の不平等さを描いています。そして、やはりこうした映画の設定は、私たちが暮らす社会の一面を如実に表現しています。

それは洪水、火災、極度の暑さなど非日常的な事態に追い込まれたとき、既存の社会階級が崩れて人々が皆フラットになる...といったことはなく、むしろ貧しい人たちの日常がどんどん崩れるような社会と言い表されるかもしれません。

また、こうした問題は映画『パラサイト』が劇中で示すように都心部で起きるだけでなく、アカデミー作品賞受賞というかたちで世界が共鳴できる規模にまで発展しています。

気候変動に関しては、何十年も前から警鐘を鳴らしていた科学者たちの知らせがいま、ようやく緊急性のある課題として認識され始めています。国連のトップから若者の活動家までもが、気候変動の緊急事態をかつてないほど明確に示しています。そして映画『パラサイト』では、貧しいキム家が裕福なパク家よりも安全ではないような今の社会構造を見直し、根本的に再構築する必要性を描いているようだといえるでしょう。