使いこなしたときは全能感にひたれるであろう。僕は使いこなせる気がしなかったけど。
フィルムカメラ全盛期のころから、オリンピックが開催される年はプロユースの最高峰なカメラが登場してきたものです。五輪を争うのはスポーツ選手だけじゃない。カメラメーカーによる熾烈なシェア競争もあるんですよ。
1枚でも多くカッコいい、最高のタイミングを捉えることが求められ続けるプロカメラマンにとって、堅牢性、操作性、機動性のすべてがハイレベルなカメラは必要不可欠。だって自分の稼ぎに直結しますからね!
2月14日発売のキヤノン「EOS-1D X Mark III」はその一角であり、最強種。この分野におけるシェアNo.1のキヤノンが送り出す次世代エース。はえー。すっごい。ごはん写真とクルマかバイクばかり撮ってる自分には関係なさそうだけど気になるよね、発売されたらカメラ屋でいじってこよ。
と思ってたら。えっ。プロスポーツカメラマンといっしょにコイツのテスト機を触れるんですか? 先日2月6日に撮影の機会を得られたので行ってきましたよ!
これは何:超速くて超確実に被写体を捉えるプロカメラ
価格:80万円(税別)
好きなところ:超連写。頭部フォーカス。ガチ長玉つけたときの圧倒的な安定感
好きじゃないところ:カメラマン向け体験会ではコイツの能力がまったく引き出せなかったこと
スマートコントローラに恋をした
前モデルEOS-1D X Mark IIはほんのわずかな時間しか触ったことない。てか僕が普段使ってるキヤノンはお手軽UIを極めたEOS Kiss M。だから30分ほどの座学中は、目の前にあるEOS-1D X Mark IIIのコントローラ配置を覚えることに専念してました。
そんなトーシロでも、明らかに目がハートになるコントローラがあったのです。それがスマートコントローラ。AF-ONボタンに光学式センサー(マウスで使われるアレ)が組み込まれていて、軽くタッチ&フリックするだけでAFポイントを自由自在に動かせるのです。
すっごい快適。すっごい全能感ある。いつまでもこのポッチに触っていたい。世紀の発明じゃないですかと思うとともに、EOS Rのマルチファンクションバーからくるデジカメ✕タッチセンサーのありかたが、こうもチョッ速で進化するとは恐れ入る。
EOS-1D X Mark II由来のマルチコントローラ(ジョイスティック)もついてきます。EOS-1D X Mark IIに慣れている方はコッチを多用するのかな。
モードダイヤルのないなだらかな肩
スマートコントローラ内蔵AF-ONボタンもマルチコントローラもAEロックボタンもAFフレーム選択ボタンも、撮影時に多用するコントローラは横位置縦位置両方ともに備わります。
どっちに構えても同じ操作ができる。生産力を追求した一途さ。プロ用ボディとはかくあるべき。
だからモードダイヤルもないんです。モードの切り替えはMODEボタンを押してホイールをぐりっと。
2アクションより1アクションのほうがいいだろ、と思うかもしれません。でも不意には切り替わらないけれども、右手人差し指はほぼシャッターボタン&ダイヤル部に備わっているわけだし、実質1アクション。このモードダイヤルなしのUIって、フィルム時代のEOS-1からの伝統なんですよね。
ボタン/コントローラレイアウトを変えずに各部を進化させるスタイル。最新こそ最良を地でいくモノだよなあ。
巨砲レンズの母艦としてふさわしいサイズと操作性
構成20群25枚、質量3.6kg、全長366mm。スペックリストの数字がすべて尋常ではないということを伝えてくるエクステンダー 1.4×仕様のEF200-400mm F4L IS USMを装着したEOS-1D X Mark IIIを持ち、キヤノンイーグルス(トップリーグに属するラグビーチーム)のホームグラウンドに立ったギズモード取材班。
「場違い感あるよね」
「だよね」
選手の動きがわからない。ボールの速さがわからない。適切なシャッタースピードと絞りがわからない。すみません! EOS-1D X Mark IIIのポテンシャルを引き出す撮影ができなくてすみません!
それでもEOS-1D X Mark IIIってすごいな、と思ったところを記していきます。
動きの少ないシチュエーションだと、ハイエンドでなくとも狙い通りの撮影ができる...というのはプロ知らずの思い込みでした。超重級バズーカレンズをつけてもバランスがよくめっちゃ操作しやすいのは、大いなるポイントです。
背景ありで手前に細い被写体。AFを動かしたとき、ピントが手前にきていたときはスッ、とネットを捉えてくれます。一度背景にピントが合ってからは戻ってきてくれなかったのですが、EF200-400mm F4L IS USMの場合は撮影距離範囲(AFの範囲)を設定できますし、フォーカスプリセット機能もあるんですけどね。すっごく頼もしく感じた部分です。
動きのあるシチュエーションにおいての凄まじさは頭部検出機能にあり。瞳AFもあるけど、スポーツの試合を捉えるならこのAFこそ正義。足の動き、身体の向きに集中しながらシャッターを切ってもピントは頭部=顔にフォーカス。後ろを向いて走っている選手もバチコンです。
将来、頭部検出AFがエントリーモデルにまで搭載されたら、パパママが撮る運動会写真も凄まじくクオリティアップするだろうな...いいな、そんな未来がきたらいいな。
そしてEOS-1D X Mark IIIのサイコーすぎて恋がハリケーンになってしまうとこが、CFexpressの存在です。SDカードはもちろん、XQDやCFastも過去のものとするメモリーカードのスピードスター。128GBでも2~3万円もする貴族のストレージ。いやー、2010万画素のEOS-1D X Mark IIIにはいらないでしょ。
と思ってた。
ごめんなさい。本当に謝ります。コイツ、仕事の現場においてなによりも必要。
1時間ほど撮影したあと、CFexpressカード内のデータをPCでバックアップしたんです。専用のカードリーダーを使って。容量は20GBくらいだったかな。転送時間はものの十数秒といったところ。
「おお、快適だね」
そこから公称転送速度170MB/s、ビデオスピードクラスV30のSDカードに転送した瞬間に絶望が襲ってきた。ファイルコピーが終わるまで30分以上かかるという絶望が。
使用したSDカードリーダーがボトルネックになっていたのでしょう。だとしても、公称値2GB/sを誇るCFexpressは、周辺環境を含めての速さは尋常じゃない。アウトプットするまでの速さを秒で争う現場に、この速度は、効く。
「そういえば他のカメラマンさんが言ってた。3000枚連写ができたって」
なにごと? どういうこと?
RAW+JPEGラージで1000枚以上の連続撮影可能枚数だとは学んでいたけど、以上が異常すぎるでしょ! 3倍だよ3倍! 赤いのか!
実のところEOS-1D X Mark IIIは、CFexpressネイティブの初カメラです。XQDはサポートしていないんです。CFexpressのパフォーマンスを全力で引き出すことを目的として開発されたことは間違いない。
いやあ。ちょっとコイツはヤバいでしょ。
いいわけ。自宅でHIFが変換できなかった
ところでEOS-1D X Mark III。HEIFでも保存できます。8BitのJPEGと違って10BitのHEIF。撮って出しでも白飛び・黒つぶれが少なくていい感じ。ISO102400などの超高感度のテストをHEIFにして試してみたので、皆さまにどうだったかをお伝えしたかったのですが...。
すみません、いろいろ試してみたけど変換できませんでした。EOS-1D X Mark IIIが作るHEIFは拡張子がHIFで、独自の仕様っぽいんです。RAWでも撮っておくんだった。
20トントラックのような、選ばれし者が手にする最強の武装
F1カーのような、特定のシーンで爆発的なポテンシャルを発揮する高級カメラではありません。EOS-1D X Mark IIIはどんなシチュエーションにおいても頼りになり、圧倒的な生産力をもたらしてくれる働くカメラです。いわばトラック。それも大型トラックでしょう。
大きく、ぶ厚く、重く、だけど洗練されている。機能だけじゃない。デジカメの機能美ランキングでも最上位を狙えるボディです。
EOS Mとかα7など軽量コンパクトを握っている僕個人が手にするものではないかな、という印象はあります。しかし一眼レフの頂点として、ミラーレスへの移行のMAXな過渡期として、EOS-1D X Mark IIIが登場したことはいちカメラ好きとして拍手を送りたい。スマホで写真を撮っている子どもたちにも、選ばれし者が手にするロト装備みたいな憧れの存在として伝えたいんですよね。
このワクワク感を。
こいつは、カメラの世界を変えるぞ、と。
Source: キヤノン