出アフリカ説があっけなく崩壊。
10年前に公開されたネアンデルタール人のゲノム解析では、アフリカを出た現生人類60億人の遺伝子にネアンデルタール人の遺伝子が約2%も混じっていて、東アジアとオセアニアではデニソワ人の遺伝子も5%ぐらい混じってるって部分が衝撃でしたけど、プリンストン大学のジョシュア・エイキー進化生物学教授らがよくよく調べてみたら、アフリカの現生人類にもネアンデルタール人の遺伝子が想像以上に混じっていることがわかりました!
ネアンデルタール人ゲノム研究の権威、マックスプランク研究所スヴァンテ・パーボ博士(下記動画の方)にさっそく感想を伺ってみたら、「欧州・アジアのネアンデルタール人研究では、アフリカの人類がネアンデルタール人の子孫ではないという想定で話が進められてきましたが、厳密にはそうとも言い切れません。(もっと古い時代の移動の結果)アフリカ人の中にも流れていることは自分たちも知っていました」とのこと。新研究(Cellに掲載中)はこれを裏付けるものになります。ちなみにネアンデルタール人と交配したのは10万~20万年前とみられていますよ。
「現生人類がアフリカを離れてからネアンデルタール人と交わって中近東、ヨーロッパ、アジアに広まった」という説がこれまで有力だったのは、ユーラシア大陸の現生人類(ホモサピエンス)の遺伝子にネアンデルタール人遺伝子が2%もあるのに、アフリカでは検出が困難だったからですが、新たな調査では…
アジア人は1.8%
ヨーロッパ人は1.7%
アフリカ人にも0.5%
の割合で混じっていることがわかったのです。つまりネアンデルタール人と交配後、一部はアフリカに戻って現生人類と交わっていたことになります。
ネアンデニソワ人とも異種交配?
さらにScience Advancesにユタ大学Alan Rogers教授らが公開した別の論文では、「ネアンデルタール人とデニソワ人共通の先祖もヒト族と異種交雑していた」という新説も飛び出してきました。米Gizmodoの取材に対し、Rogers教授は「最初は現人類の先祖探しのつもりだったのに、更新世中期に異変が起こっていたことがわかってビックリ」と興奮冷めやらぬ様子。
これまでは「ユーラシア大陸に住むネアンデルタール人とデニソワ人はおよそ75万年前にヒトと枝分かれした」と思われていましたが、同じ時期ユーラシア大陸には、すでに別のヒト族がいた痕跡もあります。どうもその”ネアンデニソワ人”とヒト族の異種交配もあったのではないかというんですね。
こちらの調査で使ったのは、サイモンズゲノム多様性プロジェクト(SGDP)が保有するヨーロッパ現生人類のゲノム情報と、一般公開されているネアンデルタール人のゲノム情報。昔のヨーロッパ人がデニソワ人と交配した証拠はまだ出ていないので、交配はなかったものと仮定して、種ごとの変異と異種間交配の進化のモデルを作成してみました。
すると今のゲノム情報にもっともマッチするのは、ネアンデルタール人がヒトと交配し、デニソワ人も超古のヒトの先祖と交配し、さらには超古のヒト種とネアンデソニワ人の先祖の間にも遺伝子のやり取りがあるというものだったんです。ここで言う超古のヒト種というのはホモ・エレクトス (旧称 ピテカントロプス・エレクトス )か、まったく別種のホモ属とのことです。この新説が本当なら、ネアンデルタール人とデニソワ人の枝分かれの時期はもっと早くなり、出アフリカの時期は190万年前と、”ネアンデニソワ人”がいた70万年前、現生人類の5万年前の3回に限られることになります。
マックスプランク研究所のFabrizio Mafessoni研究員は、2017年のRogers教授たちのチームの論文には批判的でしたが、新論文について感想を求めると、まだ詳しく読んでいないけど「少し異なるアプローチでいいですね」とコメント。異種間交配のもっと複雑なモデルを覆す新説ではないものの、超古のヒト種とネアンデソニワ人との異種交雑の説明には整合性があると評価していました。
Rogers教授らは今後デニソワ人のDNAを持つオセアニア原住民の遺伝子情報を調べて、もっと関連性を掘り下げていく予定です。
はるか昔に絶滅した種の遺伝子がこの体内に流れていると考えると、なんか不思議。
Sources: Cell, Science Advances