研究結果が示す新型コロナウイルスの危険性

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • Kenji P. Miyajima
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研究結果が示す新型コロナウイルスの危険性
Image: David Ryder (Getty Images)

得体が知れないことほど怖いものはないですよね。何が正しいのかわからないと、怖がりようも安心しようもありません。

新型コロナウイルスの感染者は世界中で11万人を超え、死者は4200人以上にのぼっています (3/11時点。ジョン・ホプキンス大学CSSE調べ)。科学者たちは、このウイルスの致死性と、誰のリスクが最も高いかに注目しています。最新の研究によると、死亡率は1.4%から2.3%とのことですが、実際のところ、このウイルスによる本当の影響はもっと複雑です。なおかつデータによる分析も多種多様で刻々と変化しているようですよ(編集部注:最後に補足的な説明もあり)。

2019年後半に中国で発生し、2020年初めに数十カ国まで拡大したCOVID-19(新型コロナウイルス)は、大流行の初期段階にあります。SARS-CoV-2とも呼ばれるこのウイルスについては、まだまだ知られていないことだらけですが、どのように広がっているのか、また、この疾患に感染して亡くなるリスクが最も高いのは誰なのかについては、明らかになりつつあります。

でも、最新の研究結果にふれる前に、実際に新型コロナウイルスに感染するとどのようにして死に至るのかを理解することが重要です。

新型コロナウイルスに感染するとどうなるの?

新型コロナウイルスはSARSに似ています。SARSは「Severe Acute Respiratory Syndrome(重症急性呼吸器症候群)」の略で、その類似性から新型はSARS-2と呼ばれています。

この発熱と咳を伴う病気は、NCIPとも呼ばれています。NCIPは「Novel Coronavirus (2019-nCoV)-Infected Pneumonia(新規コロナウイルス(2019nCoV)感染肺炎)」の略です。どちらの名称をみてもわかるように、この病気は肺と呼吸能力に影響を与えます。

重症例になると、肺炎発生後、急性呼吸促迫症候群(ARDS)と呼ばれる危険な状態を引き起こし、体液で満たされた肺が硬化します。このため、呼吸が困難となり、人工呼吸器が必要になる患者もいます。

Lancet誌に発表された最近の研究によると、新型コロナウイルスによる典型的な死亡例は、大規模な肺の損傷と進行性の呼吸不全によるものだそうです。

これが新型コロナウイルスによって感染者が死に至るまでの経緯です。では、実際のところどれくらい致命的なのでしょうか?

新型コロナウイルス感染者の死亡率は? 実際の死亡率は報道より低い可能性

2020年2月28日付のNew England Journal of Medicine誌(NEJM)に発表された研究結果によると、新型コロナウイルスの死亡率は1.4%だったそうです。China Medical Treatment Groupとその他多くの中国の機関によってまとめられた値は、2020年1月29日までに中国の552カ所の病院に入院した患者1,099人のデータに基づいています。

患者の年齢の中央値は47歳で、その58.1%は男性でした。集中治療室に入院した患者5%のうち、2.3%は人工呼吸器をつけなければならない状態で、多くのケースで命を救えなかったそうです。

米国立アレルギー感染症研究所のAnthony Fauci所長らは、同じくNEJM誌に掲載された関連記事で、新型コロナウイルスの発生は「公衆衛生、研究、医療の各分野における重要な難題」をもたらすとしつつも、多くの軽症例が報告されていないため、実際の死亡率は、中国の研究者による報告よりも低くなる可能性が高いと述べています。

Fauci氏らによると「無症状または症状の軽い例が、報告された症例数の数倍であると仮定すると、致死率は1%よりもかなり低くなる可能性があります」とのこと。

これが正しいとすれば、新型コロナウイルスの健康への影響は、死亡率が0.1%の季節性インフルエンザや、1957年と1968年に大流行したインフルエンザに似ているようです。そして、2016年にNature Reviews Microbiologyに発表された研究と照らし合わせると、新型コロナウイルスの死亡率は幸いなことに、SARS(9%から10%)とMERS(36%)という悪名高い既知のコロナウイルスよりもはるかに低いようです。

気をつけなければいけないのは、これらはすべて暫定的な推定に基づくもので、新型コロナウイルスとその仕組みについては、学ぶべきことがまだたくさんあるということ。中国の疾病予防管理センター(CDC)による最新の発表では、新型コロナウイルスの死亡率は2.3%とのことでしたが、前述したようにこの数字はおそらく高すぎると思われます。それでも、憂慮すべきであることは間違いありません。ちなみに、この割合は2020年2月11日時点で報告された44,672件の報告例に基づくものだそうです。

男性・高齢者・既存の疾患を持つ人はリスクが高いが子どものリスクは低い

ところで、「ある病気で死ぬ可能性が何%」という主張は、その割合を感染した全人口に適用すると病気の全体像が見えなくなってしまうため、好ましくありません。中国のCDCは、最もリスクがある人々をはっきりさせるために、違った角度から分析しています。

性別による差

男性の方が、新型コロナウイルスに感染および死亡するリスクが高いようです。中国CDCの統計によると、感染した男性の2.8%、女性の1.7%が死亡しています。

どうして男性の死亡リスクの方が高いのかは今のところ不明なのだそうですが、社会的、文化的な背景が男性が感染しやすい理由を説明しているかもしれないとのこと(たとえば中国では男性の通勤者の方がたくさんいたりだとか)。

年齢がリスクに大きく影響

実のところ、新型コロナウイルスの最も重要な危険因子は年齢なんだそうです。中国CDCによると、80歳以上の死亡率は14.8%、70歳代が8%、60歳代では3.6%、50歳代だと1.3%になっています。50歳未満の死亡リスクは0.2%から0.4%と、急激に低くなります。

繰り返しになりますが、軽症例の多くが報告されていない可能性が高いため、実際の数値はもっと低くなると思われます。

他の疾患との併発も危険

年齢に加えて、既存の疾患も新型コロナウイルス感染によって死に至る主な原因になっています。心血管疾患を持っている人の死亡率は10.5%、糖尿病患者は7.3%、慢性呼吸器疾患を持っていると6.3%、高血圧だと6%、がん患者の場合は5.6%でした。高齢者がこれらの疾患を持っているとリスクは高くなります。


今年1月末にNEJM誌に発表された別の研究結果では、新型コロナウイルスの「初期の感染ダイナミクス」が報告されています。中国CDCのQun Li氏らが共同執筆したこの研究は、発生地となった中国の武漢で、2019年12月から2020年1月22日までに報告された最初の425例を対象に調査しています。この研究で明らかになった数値は重要ですが、流行の極めて早い段階で収集されたデータなので、実際の数値とは異なる可能性が高く、しつこいようですが注意が必要です。

年齢の中央値は59歳と、先ほどの報告よりも高齢になっています。男性が感染者の56%を占め、15歳未満の子どもが感染したという報告はありませんでした。著者らはその理由について「子どもは感染する可能性が低いか、感染しても症状が軽いため、感染例として確認されていないかもしれない」からとのこと。もしもこれが本当だとしたら、少なくともこの限られたサンプルでは、科学者たちは現在起こっている大流行の全体像を把握していないことになりますね。

Li氏の研究によれば、新型コロナウイルスの潜伏期間は約5日。でも、場合によっては12日間におよぶこともあるそうです。この結果は、濃厚接触者の健康状態を見守る期間が最終曝露から14日間とされている根拠として重要です。

入院が必要な患者は、傾向として発病後9日から12日経過していたそうです。Fauci氏らは関連記事の中で、この遅発性の重い症状は、ウイルスとその作用に関する重要な手がかりになるとし、「治療介入のタイミングを独特なものにしている」と記しています。

Fauci氏らは「アメリカを含めて世界中で新型コロナウイルスを封じ込める足掛かりを得るための準備を整えなければならない」と述べていますが、残念ながらアメリカは封じ込めモードから移行して、緩和戦略をとるしかないかもしれないとも話しています。このような戦略には、病人の隔離(自宅で様子を見る)や休校、セミナーや会議などイベントの中止、在宅勤務などの「社会距離戦略」が含まれる可能性もあるそうです。

その人が人口統計学上どんな立場にいるかによって、これまでの研究論文で示された数字が憂慮すべきものになるか、ちょっと安心できるものになるかが決まると思います。また、新型コロナウイルスをインフルエンザなどと比較すべきではありません。新型コロナウイルスとその大流行には、独特な特徴があります。データからも明らかなように、わたしたちは今、未知の領域に足を踏み入れているのです。


年齢や持病があるかないか、どんな持病があるかによっても違ってくるので、一概にリスクが高いとか低いとか言えないようです。

米ギズモードの原文では触れていませんが、WHOのレポートによると、3月10日現在での新型コロナウイルスによる死亡率は3.5%、米CDCによるアメリカ国内の死亡率は3.8%と、研究結果とは大きく異なる数字になっています(研究結果を参考にすると、多くの軽症例が報告されていないためと考えられます)。新型コロナウイルスの全容や健康への影響をさらにハッキリさせるためには、調査基準を明確にし、もっと研究を進める必要があります。

個人が不急の外出を避けたり手洗いを徹底したりするのはもちろんのことですが、国や地域には的確な対応策をとって少しでも早く終息させてほしいですね。本当の死亡率が3%でも0.1%でも、命にかかわる数字が「低い」ことはないのですから。