iPadのある授業ってこんな感じ。生徒も先生もハッピーなのはなぜ?

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iPadのある授業ってこんな感じ。生徒も先生もハッピーなのはなぜ?
Image: 上越教育大学附属中学校

うらやましい。

突然ですが、ご存知ですか? そろそろ学校で、生徒が1人1台コンピュータを持つ時代が来そうなんですよ。なぜかというと文部科学省が「GIGAスクール構想」を発表したから。1人1台の端末と高速通信環境を整備して、生徒ひとりひとりに最適化された教育を進める計画です。

もう学校に通うことはないガジェット好き成人男性からするとうらやましい限りです。もし僕が学生だったらYouTubeばっかり見ちゃいそうだけど。

いっぽうで、すでに全校生徒がiPadを使って学んでいる学校もちらほらあるんだとか。そのひとつ、お米のおいしい新潟県にある「上越教育大学附属中学校」を取材してきました。

ちょうど新型iPad Proが登場したばかり。キーボードに加えてトラックパッドに対応してよりパソコンライクに使えそうですよね。「iPadで授業」と聞くと、教科書もノートも全部iPadで、レポートも課題も全部iPadのアプリで作成...なんてハイテクな授業をイメージしてしまいがち。

しかし、決してiPadありきの授業というわけではありませんでした。先生と生徒たちがやりたいことを実現するためのツールのひとつとしてiPadが選ばれている印象でしたよ。

コンピュータを使った教育を研究し続けて約30年

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Image: 上越教育大学附属中学校


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Photo: amito

この中学校、なんと高田城というお城の本丸跡地にあります。古き良きロケーションの中に、先進のICT教育が導入されているギャップすごい。

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Photo: amito
副校長 鈴木克典 先生

コンピュータを使った授業は1988年頃から研究しています

と語ってくれたのは、副校長である鈴木克典先生。2011年には総務省の「フューチャースクール構想」にも参加し、着々と1人1台のコンピュータを活用する教育について試行錯誤してきたのだそうです。2016年にはこれまでのデスクトップやラップトップから、iPadへ移行したとのこと。

これまで導入していたラップトップは起動の遅さや机の上で場所をとってしまうことがネックでした。そこでコンパクトでいつでもすぐに使い始められるiPadを選択。実際、生徒からもコンパクトなiPad miniがもっとも人気だそうです。

私たちが考える学習内容、そして学習方法としてのiPad。この両輪で当校の授業は成り立っています。

ということで、どんな授業をしているのか教えていただきましょう。

理科の授業でお天気ニュース動画を作る理由

当日は新型コロナウイルスの影響で休校中だったため、スライドで授業の様子を見せてもらいました。まずは理科から。

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Photo: amito

ん、よく見ると...

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Photo: amito

おいいい! ひとりiPadでDTMやってるやつおるぞ!

と思いきやこれも授業のひとつ。理科の授業では、上越と那覇の週間天気を伝える「お天気ニュース番組」をチームで制作する授業をしたんだとか。鍵盤を叩いていた生徒はニュースのBGMをゼロから作ったんですって。生徒全員がiPadのカメラやアプリをフル活用して動画制作をしているんです。こんな授業受けてみたかった...。

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Image: 上越教育大学附属中学校

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Image: 上越教育大学附属中学校
グリーンバックを使って背景を抜くのもiPadだけでできちゃう。

でも理科の授業なのに、なんでここまでするのでしょう?

この中学校が目指すのは「10年、20先を生きる力」を養う教育。そのためには単なる知識や技能だけでなく、生徒の「個々に合った学び方」や「人間性」「創造性」に視点を置くことが必要とのこと。

お天気ニュース番組の課題では、教科書で学んだ基本の知識をもとに、天気を予測して番組として人に伝えます。知識を使って思考・判断し、それを人に伝えるために工夫する。その過程が評価に含まれるのだとか。

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Photo: amito
指導教諭 大崎 貢 先生

従来の授業はどうしても画一的で、言語的な学びばかりでした。例えば筆記試験はまさにそうですよね。それも大事なのですが、言語的な学習が得意な生徒がいれば、苦手な生徒もいます。だからと言ってその子が何も考えていないわけではないんです。生徒ひとりひとりが自分に合った思考方法や表現方法を見つけて、それぞれの人間性を伸ばすことがこの課題の狙いです。(指導教諭 大崎 貢 先生)

たしかに、テストの成績がいくら良くても、その知識を使って仕事ができるかどうかとは別の話ですもんね。

この課題のように生徒がコンテンツを作ることを考えたときに、従来導入していたラップトップPCを活用するのは難しかったそうです。起動するまでにもたついてしまったり、外に持ち出すのにかさばったりと、使いたいときにすぐに使えないことが多かったのだとか。

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Image: 上越教育大学附属中学校

お天気ニュースのとあるチームは、突然降ってきた雪を見てとっさに外に飛び出し、雪の中iPadで中継風の撮影をして番組に組み込んだそうです。iPadならではの瞬発力ですね。ちなみにヘルメットとマイクに見えるのは、理科室にあったザルとタワシだそうです。ディテールにこだわるの、大事。

リモートでの学級活動や課題のレビューも

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Image: 上越教育大学附属中学校

取材時、中学校は新型コロナウイルスの影響で休校中でした。しかし、生徒全員が持っているiPadを活用し、ZOOMを使った学級活動を行なったり、課題を出して遠隔で先生がコメントを入れるなど工夫をしていました。

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Image: 上越教育大学附属中学校
Keynoteのアニメーション機能って結構いろんなことできるんですよね

美術の授業では『鳥獣人物戯画』を題材にした課題が休校前から進められていました。生徒それぞれが作品を独自に解釈し、Keynoteでセリフやアニメーションを加えて動画にするというもの。絵巻物の表現方法を学びながら、自分なりの解釈をアウトプットすることで鑑賞能力を高める狙いがあるそうです。

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Photo: amito
美術教諭 寺田 寛 先生

本当は生徒同士が作品を紹介し合う予定でした。他の人の解釈から気づきを得るという大事な時間だったのですが、休校でできなくなってしまいました。iPadを活用してオンラインで展覧会をして生徒同士の交流を図ろうと考えています。(美術教諭 寺田 寛 先生)

やはり、リモートで授業が完結することはないようで。先生 対 生徒だけでなく生徒 対 生徒のコミュニケーションがないと、学校が目指す教育には到達できないとのこと。それでも、30年で培ってきたノウハウや環境を生かして、リモートでもできる限りの学びができるように工夫されていました。

iPadの活用は先生たちもハッピーでした

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Image: 上越教育大学附属中学校

iPadが導入された授業は、座学だけでなく生徒が自らコンテンツを作るためのツールとして使われていました。子供たちは言うまでもなく楽しそうなのですが、先生たちの仕事はどう変わったのでしょうか?

ラップトップからiPadになって、やりたいことをやりたいスピードでできるようになったのが嬉しいですね。AirDropでのファイル共有やドキュメントの共同編集などのスピード感が違いますし、以前のように使い方に悩んだり調べたりする時間がなくなりました。


毎日の仕事が楽しくなりました。というのも、本来私がやりたいのは外に出て植物をいじったり、そういう体験を子供たちと共有したいんです。そこに時間をかけたいんだけど、テストの点数も上げなきゃいけない。だからiPadやクラウドを活用して効率化しています。もっとここに時間割けるじゃん!っていうのを他の先生や学校と共有していきたいです。

コンピュータを使うことに時間を取られるのではなく、時間を作るためのコンピュータが求められているのですね。それがiPadだったと。

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photo: amito
教室のTVにはApple TVを完備。先生によっては板書するよりも、AirPlayで情報を表示することが多いとか。

ちなみに、生徒たちは特にiPadを使うことを強要されているわけではなく、時にはホワイトボードを使ったり、紙のノートを使ったりしているそうです。しかし、例えばノートをiPadでとるべきか、紙のノートにとるべきか、はたまた板書をiPadのカメラで撮影してしまうのか、そこにルールはないんだとか。子供たちが自分で学習しやすい方法を自ら選べるわけです。

先生も生徒も教え方、学び方を選べる。学校も多様性の時代なんだなぁと感じます。そこに使われるデバイスも、場所や時間、使い方に縛られず柔軟に動かせるものが必要です。そのデバイスとしてiPadを選んだ中学校は先生も生徒も幸せそうでした。

僕は、こんな教育を受けている子供たちと対等に仕事ができるのだろうか....。新潟名物「タレカツ丼」をほおばりながら、謎の焦燥感を胸に東京に帰ったのでした。