以前から何度か書いているんですが、しんざきはちょっと古めの海外SF小説を偏愛しておりまして、特にある3人の作家さんの作品が大好きです。
一人がレイ・ブラッドベリ。
「華氏451度」や「何かが道をやってくる」といった長編小説にも名品が数ありますが、「10月はたそがれの国」「ウは宇宙船のウ」などの短編小説の名手としても著名です。
「ウは宇宙船のウ」に収録されている「霜と炎」超名作なんで読んでみてください。
華氏451度〔新訳版〕 (ハヤカワ文庫 SF フ 16-7)
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何かが道をやってくる (創元SF文庫) (創元推理文庫 612-1)
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10月はたそがれの国 (創元SF文庫) (創元推理文庫 612-2)
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ウは宇宙船のウ【新版】 (創元SF文庫)
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一人がR・A・ラファティ。
小気味よい語り口から繰り出される奇想天外な、時にはブラックな展開が持ち味でして、「どろぼう熊の惑星」「九百人のお祖母さん」辺りを読むと、「何でこんな展開を考え尽くんだ???」と思わせられることしきりです。「また、石灰岩の島々も」なんてとても好き。
どろぼう熊の惑星 (ハヤカワ文庫 SF ラ 1-2)
- R.A. ラファティ,Lafferty,R.A.,久志, 浅倉
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九百人のお祖母さん (ハヤカワ文庫 SF 757)
- R.A. ラファティ,浅倉 久志
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そして、3人目がオースン・スコット・カード。
ただ、カードについては先の二人とはちょっと事情が異なっておりまして。
もちろん「無伴奏ソナタ」みたいな短編集や、「消えた少年たち」のような長編も面白いんですが、実のところしんざきが好きなカード小説は、ある一つのシリーズに偏っているのです。偏愛中の偏在です。
無伴奏ソナタ
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消えた少年たち(上)
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それは、「エンダーのゲーム」から始まる、いわゆる「エンダーシリーズ」。
その中でも特に二作目、「死者の代弁者」については名作中の名作と言ってしまってなんら過言ではない素晴らしい一作でして、SFとして読んでも、ミステリーとして読んでも、ヒューマンドラマとして読んでも、群像劇として読んでも、頭の先からつま先まで1ミリの隙もなく何から何まで面白いという傑作SFなのです。
正直「死者の代弁者」についてはどれほどハードルを上げても上げすぎということはないだろうと私は思っているのですが、しかしただ一つ注意点があります。
我々は、「死者の代弁者」を読む前に、この素晴らしい作品を100%楽しむ為にも、まず「エンダーのゲーム」を読んでおくべきなのです。
何よりも「死者の代弁者」の前提となる作品として重要な、しかしそれ単体でも十分以上に面白い「エンダーのゲーム」という作品を。
この記事では「エンダーのゲーム」という一作についてしんざきの偏愛具合を語らせて頂き、もって緊急事態宣言下で家で過ごす時間も多いであろう皆さまに、うっかり(死者の代弁者まで含めて)ポチっていただけないものかと強く願う次第なのです。
エンダーのゲーム〔新訳版〕(上)
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よろしくお願いします。
あらすじだけ聞くと、「エンダーのゲーム」はそれ程魅力的に響かないかも知れません。
エンダーのゲームは、一言で言ってしまうと「エイリアンと戦う為に切磋琢磨する少年たちの物語」です。
地球を襲った侵略者である、蟻のような生態を持った宇宙生物「バガー」。
その三度目の襲来にそなえ、地球人は優秀な司令官を必要としていた。
その為に設立された教育機関である「バトルスクール」と、その訓練の為に選ばれた子どもたち。
その一人であるアンドルー・ウィッギン、通称「エンダー」がこの物語の主人公です。
「エンダーのゲーム」の特徴は、このシンプルなあらすじに似合わず、とんでもなくお話が重層的で、多面的なことです。
この「エンダーのゲーム」を、読者は色んな楽しみ方で楽しむことができます。
少年たちの成長と切磋琢磨の物語
まず一つは、少年たちの成長と切磋琢磨の物語。
バトルスクールには、宇宙での戦闘を模した訓練を行うことが出来る「バトルルーム」という施設があり、エンダーたちは幾つものチームに分けられ、日々このバトルルームでの戦闘を行っています。
この戦闘に勝って戦績を残すことが、バトルスクールでの一つの重要な指標として提示されています。
まずはこの、バトルルームでの戦闘と、それに備える少年たちの訓練や工夫、そして本番での実戦が、やたらスリリングでカタルシスに溢れているのです。
この「エンダーのゲーム」という小説、「無重力下での戦闘」というものについて滅茶苦茶緻密に描写されていまして、重力がない状態でどうすれば効率よく動けるのか、そこでの工夫はどういったものがあり得るのかということについて、物凄く説得力のある描写が溢れかえっています。
例えば、無重力下で戦闘を行う為には、どんな訓練をして、どんな動きを鍛えなくてはいけないか?
どんな戦術が、どんな戦略があり得るのか?そこにはどんな思い込みがあり、その思い込みをどう利用すれば敵に勝つことが出来るか?
エンダーは、戦略・戦術について稀有のセンスを持った天才少年として描写されます。
そのエンダーが、バトルルームでの「ゲーム」について様々な攻略法を思いつき、周囲を驚かせていく描写。
特に「ドラゴン隊」の躍進の描写については、「これでもか」といわんばかりの爽快感に溢れています。
「覚えておけ、敵のゲートは「下」だ」は名言中の名言。
もちろん躍進の影には様々な嫉妬や障害があるものでして、そういった障害をエンダーがどう内倒し、時には誰かと協力して切り抜けていくのかも見どころの一つ。
ミステリーと謎解きの物語
次に、ミステリーと謎解きの物語。
このお話において、「バトルスクール」と大人たちの意図の中心部分は、終始隠され続けています。
少年たちは、何の為にこんな訓練をしているのか?
特にエンダーは、何故こんなにも期待され、時には厳し過ぎる負荷をかけられるのか?
これらには、ただ「襲来する異星人に備える為」だけでは説明のつかない部分があり、登場人物たちも常にそこに疑問を持ち続けています。
お話を通じて、「章の最初に大人たちの会話があり、その後本編の物語が始まる」という構成になっておりまして、「最初に黒幕の会話を見せられて、その後その意味を探りながらお話を読み進んでいく」という、ミステリー小説のような楽しさを味わうこともできます。
ちなみに、これら「ミステリー小説としてのエンダーのゲーム」は、外伝的な作品である「エンダーズ・シャドウ」を読んだ時に完成します。
エンダーがドラゴン隊で一緒に戦った仲間である「ビーン」を主人公にした物語で、バトルスクール周辺の話については正直「エンダーのゲーム」以上に重厚ですので、エンダーのゲームを読んで「面白い!」と思ったら是非そちらも読んでみていただけると。
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少年たちの人間ドラマ
次に、少年たちの人間ドラマ。
この物語のストーリーの大半は少年たちが紡ぐものでして、当然のことながら彼らは人格的にも未完成ですし、成長過程です。
人並み外れて優秀な少年たちですから頭は回るんですが、時には嫉妬もしますし、時には憤りもします。
そんな彼らが友情を育んでいったり敵意を募らせていったり、時には衝突し、時には協力する。
そんな描写も「エンダーのゲーム」の重要な見どころの一つ。
上記したドラゴン隊の「ビーン」を始め、エンダーの友人たちとしてはアーライにせよペトラにせよクレイジー・トムにせよ、敵対者としてはボンソーにせよ大人たちにせよ、皆それぞれに味のあるキャラクターばかりです。
彼らとエンダーがどんな関係を育むのか。これも読んでいてとても気持ちいい部分です。
一点だけ注意点として、このお話、「少年同士が暴力を振るう描写」や「いじめの描写」というものも、物語上必要な描写とはいえ、特に物語前半では随所で出てきます。そういうのが苦手な人はご注意頂けると。
「ハックもの」としてのSF
次に、ネットワークを小道具とした「ハックもの」としてのSF。
「エンダーのゲーム」において、物語の8割方は「バトルスクール」で展開されるのですが、重要な場面として「バトルスクール以外でのあれこれ」が描写される部分もあります。
特に重要なのが、エンダーの兄姉である「ピーター」と「ヴァレンタイン」たちの物語。
エンダーと同じく天才でありながら、それぞれに抱えた欠点の為にバトルスクール入りに至らなかった二人。
ピーターは当初エンダーの敵対者として、ヴァレンタインはエンダーの庇護者として描写されますが、この二人、ピーターの発案でweb上の論客としてのペルソナを獲得し、web上での地歩を徐々に築いていきます。
この作品が書かれたのって昭和62年なんですが、この「ピーター」と「ヴァレンタイン」がネットワーク論壇をハックし、web論客として、また扇動者として力をつけていく過程は、まだインターネットが一般的なものではなかった時代のものとは思えない程緻密なものです。
「最初は捨てアカウントを作って論調を学習し、その後顕名アカウントを作って受けるネタを書いていく」なんて、今のはてな匿名ダイアリーとかでも普通に通用しそうなハックですよ。
このネットワーク論壇的な小道具は、その後も随所随所で物語に登場し、様々な側面でストーリーをけん引していくことになります。あとヴァレンタインが可愛い。
「地球を救う為の闘い」の物語
そして、「地球を救う為の闘い」の物語。
これについてはネタバレにもなりそうなので、あまり細かいことは書けないのですが、エンダーは最後には地球を救う為の戦闘に臨むことになります。
ここで、今までの訓練や、築いてきた人間関係、使ってきた戦術、全てが一点に収束し結実していくのが、この物語の最大のカタルシス。
ここについては是非是非皆さん読んでみて頂きたいと思う次第なんですが、一点だけ。
「でも、ぼくは、死ぬよりは、どっちかといえば、生きているほうがいいよ」っていう台詞が超泣ける。
エンダーが限界まで突き進むことになる「ゲーム」の果てに、一体何があるのか。
未読の皆さまには、是非ご自分の目で確かめて頂きたい、と考える次第なのです。ということで、長々語って参りました。
私が言いたいことは四点だけでして、
・「エンダーのゲーム」は超面白いので皆読んでください
・ただ、「死者の代弁者」はエンダーのゲーム以上に面白いのでエンダーのゲームを読んだ後で是非読んでください
・ところでエンダーズ・シャドウもめちゃ面白いんですけどビーンが気に入った方は是非どうですか
・ペトラに萌えた?よし!更にエンダーズ・シャドウの続編の「シャドウ・オブ・ヘゲモン」と「シャドウ・パペッツ」を読もう!
以上になります。よろしくお願いします。
今日書きたいことはそれくらいです。
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シャドウ・パペッツ (ハヤカワ文庫SF)
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【安達が東京都主催のイベントに登壇します】
ティネクト代表・安達裕哉が、“成長企業がなぜ投資を避けないのか”をテーマに東京都中小企業サイバーセキュリティ啓発事業のイベントに登壇します。借金=仕入れという視点、そしてセキュリティやDXを“利益を生む投資”とする考え方が学べます。

こんな方におすすめ
・無借金経営を続けているが、事業成長が鈍化している
・DXやサイバーセキュリティに本腰を入れたい経営者
・「投資」が経営にどう役立つかを体系的に学びたい
<2025年7月14日実施予定>
投資と会社の成長を考えよう|成長企業が“投資”を避けない理由とは
借金はコストではなく、未来への仕入れ—— 「直接利益を生まない」とされがちな分野にも、真の成長要素が潜んでいます。【セミナー内容】
1. 投資しなければ成長できない
・借金(金利)は無意味なコストではなく、仕入れである
2. 無借金経営は安全ではなく危険 機会損失と同義
・商売の基本は、「見返りのある経営資源に投資」すること
・1%の金利でお金を仕入れ、5%の利益を上げるのが成長戦略の基本
・金利を無意味なコストと考えるのは「直接利益を生まない」と誤解されているため
・同様の理由で、DXやサイバーセキュリティは後回しにされる
3. サイバーセキュリティは「利益を生む投資」である
・直接利益を生まないと誤解されがちだが、売上に貢献する要素は多数(例:広告、ブランディング)
・大企業・行政との取引には「セキュリティ対策」が必須
・リスク管理の観点からも、「保険」よりも遥かにコストパフォーマンスが良い
・経営者のマインドセットとして、投資=成長のための手段
・サイバーセキュリティ対策は攻守ともに利益を生む手段と考えよう
【登壇者紹介】
安達 裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役/ワークワンダース株式会社 代表取締役CEO
Deloitteにてコンサルティング業務に従事後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサル部門立ち上げに参画。大阪・東京支社長を経て、2013年にティネクト株式会社を設立。
ビジネスメディア「Books&Apps」運営。2023年には生成AIコンサルティングの「ワークワンダース株式会社」も設立。
著書『頭のいい人が話す前に考えていること』(ダイヤモンド社)は累計82万部突破。2023年・2024年と2年連続で“日本一売れたビジネス書”に(トーハン/日販調べ)。
日時:
2025/7/14(月) 16:30-18:00
参加費:無料
Zoomビデオ会議(ログイン不要)を介してストリーミング配信となります。
お申込み・詳細
お申し込みはこちら東京都令和7年度中小企業サイバーセキュリティ啓発事業「経営者向け特別セミナー兼事業説明会フォーム」よりお申込みください
(2025/6/2更新)
【著者プロフィール】
著者名:しんざき
SE、ケーナ奏者、キャベツ太郎ソムリエ。三児の父。
レトロゲームブログ「不倒城」を2004年に開設。以下、レトロゲーム、漫画、駄菓子、育児、ダライアス外伝などについて書き綴る日々を送る。好きな敵ボスはシャコ。
ブログ:不倒城
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