まさかのトランプ返し。TikTok米事業売却に中国が「待った」

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  • author satomi
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まさかのトランプ返し。TikTok米事業売却に中国が「待った」
Image: CNBC|米国もTikTokの話題一色。MicrosoftとWalmartの共同買収かOracleの単独買収かでもちきりのところ、中国の冷や水で株安に…

プレス発表間際に大波乱!

1000億ドル(約10兆5888億円)の評価額世界一を誇るスタートアップ「ByteDance(バイトダンス)」が、「9月15日までに米企業に身売りしないとTikTokは米事業撤退だ!」とトランプ大統領に脅されている件で、Microsoft(マイクロソフト)やOracleなどが名乗りをあげて身売り先が決まって、早ければ火曜にも記者発表の運びとなりましたが、間際になって「ちょっと待ったー!!」と中国政府から巨大なハンマーが飛んできました!

「こないだつくったIA輸出規制にTikTokの技術は思い切り引っかかる。だから外資への身売りにそう易々とOKは出さないかもよ」というんですね。

情報筋の話としてBloombergが次のように伝えています。

中国商務省は28日遅く、輸出制限対象リストの改訂版をWebサイトに掲載。音声認識やテキスト認識、個人に適したコンテンツを推奨するためのデータ分析に関するAI技術が追加された。「国家経済の安全を守るため」の措置で、技術の海外移転に政府の許可が必要になるとした。

28日ってモロにラストミニッツ! いやあ…やられたらやり返す。舞台裏の歯ぎしりまで聞こえるようですね。

まあ、アメリカもZTE、HUAWEI(ファーウェイ)などを「人権侵害支援企業」だとして輸出制限をコ~ロコロ変えているのでその辺はお互い様ですし、人権侵害といえば、ドローンで民間人を殺したり、無実の人をグアンタナモ収容所に長年閉じ込めて水攻めやアメリカンロック大音量攻めの拷問やってるアメリカもあんまり人のことは言えないのだけど、まあまあまあまあ、いろいろすごいことになってきました。

日本も高みの見物してる場合じゃない!?

間の日本は漁夫の利かと思いきや。安全保障貿易情報センター(CISTE)がまとめた最新の資料「米国の中国企業製アプリ、通信企業への規制・制裁に関するQA風解説 ―TikTok、テンセント/ファーウェイに係る規制・制裁について―」を読むと、日本にもめちゃしわ寄せがきていることがわかります。規制の変更に次ぐ変更で、日本は流れ弾に当たらないように太平洋の片隅で逃げるので精一杯な感じ。

Googleから転職したばかりのTikTok社員が大統領令を訴える

TikTokは米国で1億人が利用しており、パンデミック需要で利用者は爆発的な伸びを見せ、向こう3年で社員1万人を新規採用予定でした。ところが「国民の利用データを中国政府に流す恐れがある」と大統領が言い出し、猶予45日(後に90日に修正) で個人および企業との取引きを禁じる大統領令が8月6日に公布され、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)の両ストアからは 11月にはアプリが消される恐れのある異常事態発生。その未来はあっけなく閉ざされてしまったのです。

サンフランシスコ郊外のサンマテオに住むTikiTok技術マネジャーのPatrick Ryanさんは、技術管理のかたわら弁護士もやるマルチタレント。こんなバカなことがあるか~!! と大統領令の違法性を問う民事訴訟を起こしました。ちょうど数か月前に、勤続10余年のGoogleを辞めてTikTokに転職したばかりのRyanさん。今は鶴のひと声で潰される会社で働く社員の「無念と不安、失望、やり場のない怒り」を噛みしめ中で、その声なき声を代弁する顔としてマスコミにたびたび登場していますよ。Google辞めてこのタイミングでTikTokに転職して、しかも法律もできるって…。これは何かの運命の巡り合わせかも…。そちらの裁判の行方も気になりますね。

支持率どん底で手柄が欲しいトランプ

トランプ大統領は新型コロナウイルス、差別抗議デモ、記録的失業率で支持率がまったくパッとせず、再選はもはや絶望的とも言われています。最近は唯一の味方であるFoxニュースにまでたびたびディスられる体たらく。内政で使えるカードはほぼ使い尽くして、中国叩きするぐらいしか人気取りのカードが残っていません。なんとか終盤、誰もがあっと驚く取り引きをぶち上げて起死回生を図りたい。そこでTikTokがいいように利用されているというわけです(実際、国民の40%は大統領令支持、反対は30%)。TikTokはいわばトランプのために差し出されたいけにえ…。

「買収成立の暁には口利き料を米政府に払ってね」

記者会見が予定通り行なわれるとするなら、発表ではMicrosoftが売却先指名の最有力候補と目されています。アメリカでは「Walmartと共同で買収してTikTokをストア化してAmazonに対抗する」という噂まで流れていました。交渉を有利に進めるためのブラフ(はったり)かもだけど、実現したらそれはそれで影響が甚大で、今の流通とSNSの勢力図を大きく塗り替える取り引きになることも考えられます。Amazonは独占的だとして議会の風当りも強くなってますしね…。

そういう展開が用意できれば買収も悪いことばかりではないのかな…。もう「中国、中国」と言われることもないし。実際、MicrosoftとTikTokの交渉は極めて順調に進んでいたみたいですよ? トランプが割り込んできた途端、ただの昼メロになってしまったようですが。

それもそのはず。トランプ大統領は、MicrosoftによるTikTok買収成立の暁には便宜を図った見返りとして、買収金額の一部を米政府に支払うようせびっているんですね。ただでさえまとまらない話が余計まとまらない…。「いつの間にそんな権限ができたんだ!?!?!?」とも言われてます。もう無茶苦茶です。

「再選の道具にされてたまるか」という中国の意地

大統領選はロシアがトランプ推しで中国はトランプ阻止。ここまでやられて大統領選の手柄にまで利用されたのでは国家の面目が立たないし、買収計画は2国間のことなのに一方の政府にだけ口利き料を払うのもおかしな話なので、トランプ大統領の在任中は中国、意地でも首を縦に振らないんじゃ…。

いずれにしても発表に注目ですね!

訂正[2020/09/02]記事内容に不正確な点があるとの指摘を受け、一部記述を訂正しました。現在、内容を確認中です。

訂正[2020/09/03]記事初出時、大統領令により「米国内の利用を禁じる大統領令が公布されて、Apple(アップル)とGoogle(グーグル)の両ストアからあっという間にアプリが消える 」と記述していましたが、実際に取引が禁止されるまでには90日の猶予が設けられています。関連する文言を訂正するとともに、読者および関係者の方々にご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

Sources: Bloomberg, CISTEC, NPR, NYT, CNBC