地元の図書館に行こう。
「近所にやたら原さんの家が多いのはなぜ?」という疑問からスタートして図書館で調べたらとんでもなく面白かった。さすがに今回はうまく行きすぎたが、そうでなくても調べる価値はあると思う。皆さんも、もし近所に立派なお屋敷があったり、同じ苗字が集中していたりしたら、図書館で調べると新たな発見があるかもしれない。郷土史に触れることも面白いし、図書館の蔵書の底力を見せつけられるのも面白いです。ぜひぜひ試してみてください。
特定の地域に同じ姓の家が偏っていることがある。そのルーツをちゃんと図書館で調べたら面白いかもしれない。たとえば私の近所には原さんが多く住んでいるのだが、図書館で調べたところ意外な事実が分かって面白かった。
みなさんには「このあたりやたら同じ姓の家があるなぁ」という経験はないだろうか。たとえば、いま私が住んでいる場所の近所には、原さんがとても多い。あくまでも予想だが、きっとその昔、原さんという大地主が住んでいたに違いない。そういう記録は図書館で見つかるのだろうか。もし見つかったら面白いので調べることにした。
調べた結果については後述するので、まずは私の住む場所の近所にいかに原さんが多いのかについて語らせてほしい。
私は武蔵小杉駅からやや離れた場所に住んでいる。駅から歩くと結構遠い。昔っぽい建物と新しい建物が混在する地域だが、妙な違和感がある。原さんがとにかく多いのだ。
さすがに個人の家の表札を撮って回るのは気が引けるので、「原」とつくお店の写真にとどめるが、個人の家の表札が「原」となっているのも多く見かける。
また、原さんがオーナーと思われるマンションやアパートも多い。
以上からわかる通り、とにかく武蔵小杉付近には原さんが多い。これは何かあるに違いない。大地主なのかな……。私の頭の中は読売巨人軍の原監督でいっぱいだが、ここはちゃんと調べることにした。
まず、インターネットで「原 武蔵小杉」と調べると、旧原家に関する記事が出てきた。やはり、大地主の線で間違いなさそうだ。
でもインターネットで完結してしまうと面白くないので、記事の中身はあえて読まず、図書館で調べてみることにした。正直に言うと、郷土史を図書館で調べるということを一度やってみたかったのだ。
三重県生まれの私にとってみれば、住み始めて数年程度しか関わりのない街で、自分と何の関係もない「原さん」について調べようとしている。完全に不審者の行動であるが、純粋な興味によるものなので大目に見てほしい。
図書館に入って私が向かったのは郷土史の棚である。しかし、置かれているのは「神奈川の歴史」「川崎の歴史」といった大きいくくりの本ばかり。私は原家の歴史が知りたいのだが、そんなピンポイントな本など、冷静に考えてあるはずがない。
図書館には司書さんが居て、本を探すのを手伝ってくれるようだ。
ほり「あの、武蔵小杉に原さんが多いのが気になって、原さんについて調べてるんですけど……。」
司書さん「ん~。あるかしら。あるとしたらこのあたりだけど……。」(棚から何冊か取り出してパラパラと調べる)
司書さん「ちょっと見つからないわねぇ……。」
ほり「そうですか。でもこのあたりを探せばあるかもしれないですね。自分でもう少し探してみます。ありがとうございました。」
これは半日コースになりそうだと覚悟しながら自分で10分ほど探していると、先ほどの司書さんが大きな本を持ってこっちに向かってきた。裏で探してくれていたようだ。
司書さん「書庫にこんな本がありました。こちら、館内でのみ閲覧可能なので読み終わったらカウンターにお返しください。」
なんと、棚ではなくて、一般人が入れない書庫にあったようだ。それが……
原家四百年の人脈!ピンポイントすぎる!!すごい!!!とんでもない本が目の前にある。まさかそんなピンポイントな本があるとは思いもしなかったのでびっくりしている。ありがとう司書さん、ありがとう図書館、ありがとうこの本の著者の方々。
渡された本はA3サイズで右綴じで多くの部分が筆で書かれている。本というより書物と呼んだほうがしっくりくる。ざっと2周ほど読んだのだが、非常に面白かった。以下、「原家四百年の人脈」(原正巳・原豊考・宮田豊, 1995年, 春鳳堂)から、わかったことを整理する。
(こちらの本は無断転載禁止ですが、本記事への掲載にあたり、権利関係者に正式に許可を頂きました。)
そして、石橋原家について詳しく書かれたページがこちらである。
続いて分かったのは、原家の商売について。
これは、原家の家系図(分家も含め何ページにも分かれている)に詳しく書かれている。
原家、手広い。他にも、原家は銀行もやっていたようだ。
これについては図書館で見つけた別の資料「川崎地名辞典(上)」(日本地名研究所, 2004年, 川崎市)にも記述があった。
銀行を設立したという事実からも、原家がいかに大きいかがわかる。
他にも、「原家四百年の人脈」には、お寺に関する情報も出てきた。
そして最後に衝撃に事実が見つかった。
他のページには、横浜の天ぷら屋さん「天吉」はろうそく屋の原家の分家と書かれており、家系図も載っていた。
すごい。めちゃくちゃテンションが上がった。思わぬつながりだ。
他にも原家にまつわるいろいろな情報が載っていて大変面白かったのだが、ひとまず省略する。
というわけで、タイトルの「うちの近所に原さんが多すぎる理由」の答えだが、400年の歴史を持つ原家の分家によって、たくさんの原さんの家が存在しているものと思われる。
あまりにも多くの原家情報を摂取してしまった。ここからは、本に出てきた場所をめぐることにする。
まず向かったのは、旧原家母屋跡地の「陣屋門」である。正確に言うと、家系図に原家の当主の住所が書かれていたのでそこに行ってみたら立派な門があったのだ。
ちなみに、門の奥はマンションになっている。あとからインターネットで調べて分かったのだが、このマンションはGATE SQUARE 小杉陣屋町という建物で、建主は株式会社原マネージメント社長・原 正人さん。原正巳さんのご子息さんであり、すなわち、原家12代目当主である。それで門の表札に書かれていたのか。
図書館で調べて出てきた場所に行ったらかつての名残がちゃんとあるの、冒険っぽくてわくわくしませんか。
この門は「陣屋門」という名前だが、そもそもこのあたりの地名は今でも「小杉陣屋町」である。陣屋とは、江戸時代の行政の施設(大名領の藩庁の屋敷)のことだ。すぐ隣は「小杉御殿町」という地名で、かつて徳川家康が鷹狩りで来た時の宿泊所「小杉御殿」があった。これは数年前のブラタモリで得た知識。
「明治の醤油づくり」と書かれた場所に行ってみる。陣屋門から歩いてすぐのところだ。
そしてそこからさらに少し歩くと、たどり着いたのは原家ゆかりのお寺、西明寺である。
写真には撮れなかったけど境内はとてもきれいで、立派な本堂があった。そして、本によれば、そこのお墓に原家のお墓があるはずだ。(さすがにそこまで詮索するのはあまりにも失礼かと思ったのでお墓エリアには入っていません。)
ちなみに、西明寺の近くには西村姓の家が多くあった。これも、本に「原家が西明寺の西側の屋敷を西村氏に売却した」と書いてあったのと辻褄があう。歴史を肌で感じすぎて気持ちがいい。
「近所にやたら原さんの家が多いのはなぜ?」という疑問からスタートして図書館で調べたらとんでもなく面白かった。さすがに今回はうまく行きすぎたが、そうでなくても調べる価値はあると思う。皆さんも、もし近所に立派なお屋敷があったり、同じ苗字が集中していたりしたら、図書館で調べると新たな発見があるかもしれない。郷土史に触れることも面白いし、図書館の蔵書の底力を見せつけられるのも面白いです。ぜひぜひ試してみてください。
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