※でもマネはしないでね!
というわけで、ついにオオヒキガエルの食べ方を編み出すことに成功した。しかし、絶対にマネはしないでほしい。ちょっとでも手順に不備があれば毒が肉に移る可能性は十分にあるからだ。そもそも、毒液を分泌する系の有毒生物をむやみに触ること自体が推奨できない。
カエルが食べたい人に向けては、あらためてウシガエルを強くおおすめします。

石垣島には『オオヒキガエル』という中南米原産の毒ガエルが帰化している。
ウシガエルのように大きく肉づきがよく。どうにか食用になりそうなものなのだが、ふつうに捕まえて食べると悶絶するほどマズい。というか、中毒して舌や口が痺れる。
しかし試行錯誤の末、この度ついに彼らをおいしく食べる方法を発見するに至った。
それでは聴いてください…「オオヒキガエルの食べ方」。
※でも危険なので絶対に真似しないでください。
オオヒキガエル。それは日本の離島で「無敵」と呼ぶにふさわしい猛威を振るう存在である。
実は本サイトでも、過去にレポート(野外観察&食レポ)をしているのだが、あらためて少しだけこのカエルの凄さをお話しさせてほしい。
かつてオオヒキガエルはそのタフネスと貪食ぶりを評価され、サトウキビ畑の害虫駆除を目的に中南米から石垣島や大東島、小笠原などに持ち込まれた。
ほどなく目論見どおりに野生化してくれたのだが、当然のようにサトウキビ畑の外にも拡散、害虫に限らずあらゆる昆虫、小動物を滅ぼさんばかりに食いはじめた。
いわゆる「マングースパターン」だ。
しかも彼らはカエルのくせにやたら皮膚が分厚く、乾燥にも潮風にも強い。繁殖力も非常に旺盛。
極めつけは親ガエルからおたまじゃくし、卵に至るまで生涯を通じて体に神経に作用するタイプの強毒「ブフォトキシン」を備えている。
そのため、島には彼らを捕食する生物もいない。地球の裏側で生まれた天然毒への耐性など、南西諸島の動物がもっているはずもないのだ。
うっかりオオヒキガエルを食べた在来のヘビ、あるいは飼い犬や猫が食いついて中毒死する事故も起きているという。
本来、さまざまな動物に狙われるかよわい存在であるカエル。なのに弱肉強食の自然界で「強食」を強引にキャンセルされたのでは、もとから島に生息している動物たちはたまったものではない。完全にレギュレーション違反である。
「だが、我々ヒトなら、人間ならばその叡智をもってしてオオヒキガエルを食すことができるのではないか?」
そう思い立って果敢に挑み、ガッツリ中毒して散ったのが三年前である。
↓※顛末を動画にまとめたので、過去記事を読むのがめんどくさい人はこっちを見るべし。
その際の手順としては石垣島で捕獲し、①その場でシメて大きな毒腺のある上半身を切除。②下半身のみ持ち帰り、③皮を剥いで調理。
と、わりと手の込んだ処理を行ったものの、結局は肉まで強烈な毒の苦味とミント菓子のような謎のスースー感に侵されていた。
しかも、それを無理して食べたら舌や口腔が痺れてお腹をこわすというガチ中毒をやらかしたのだ。
「二度とこんなヤバイもん食うか!」と誓った三週間後、僕はまた石垣島の林道に立っていた。
ああ。また食うぜ。
ただし今度は「ヤバくない」状態にしてからな!!
…勝算があった。
前回のチャレンジを終えた直後にオオヒキガエルに関する、とある驚くべき学術的な研究結果が世に出たのだ。
石垣島と同じくオオヒキガエルが帰化しているオーストラリアでは近年、なんとカラスがこの毒ガエルたちを捕食するようになったというのだ。
もちろん昔はカラスたちもオオヒキガエルには手出しができなかった。だが、鳥類の中でもとびきり賢いとされる彼らは、オオヒキガエルの毒を無効化する食べ方を開発したのである。
なるほど。…OK、それパクるわ。
おーい、カラスの創意工夫を剽窃する恥知らずな人類がここいにいるぞ。「人類の叡智」とか言っていたのはなんだったのか。
しかし件の研究によると、まずカラスたちは①オオヒキガエルを生きたまま捕らえ、②クチバシで下半身の皮を剥き、③毒腺から離れた後脚の肉だけをついばむのだという。
…うーん、なんかあんまり前回の僕が踏んだ手順と変わらないような。
だが、よくよく考えると決定的に違う点がある。
カラス師匠は捕獲した「その場で皮剥ぎ」を行なっているのだ。一方のザコ人間は皮をつけたまま、悠長にクーラーボックスへ詰めて持ち帰ってから調理していた。
ここや!きっとこのわずかな手順の違いが、味と毒性に決定的な差を生み出しとるんや!
三週間後にまた石垣島へ来てください、本物のオオヒキガエル肉を食わせてやりますよ!!!
オオヒキガエルのメインウェポンは頭部の大きな毒腺から発射される乳白色の毒液である。
しかし、実は皮膚にも「それと比べればわずかであるが」しっかり毒を有しているという。
おそらく、前回の敗因はこの皮に含まれる毒の量を甘く見ていたことなのだろう。
あまりにも派手に毒液が噴き出すものだから、頭部の毒腺にばかり気を取られた結果、皮の処理がたしかにおざなりになっていた(皮をつけたまま輸送してしまった)。
というわけで今回はカラス先生にならって捕獲したその場で皮を剥ぐまでの工程を済ませた。
ただし、野外でヒキガエル肉を生で食らうほどの野性にはなりきれない。調理は冷蔵して自宅へ持ち帰ってから行った。
今回捕獲したのは一個体のみ。ゆえにメニューはできる限り素材の味や素材の毒を損なわないものが望ましい。
というわけで、煮汁へ旨みや毒素が逃げないよう蒸し物にした。
…なんとなく彩り豊かに盛りつけてみたが、かえって毒々しさを強調してしまっているような。
ふとももからふくらはぎにかけての人間っぽいラインも、より鮮烈ななまめかしさ。
まあ見た目なんて二の次だ。今回こそオオヒキガエルと決着をつけよう。…いただきます!!
ムッチリ、プリッとした歯触り…。ここまではいいんだ、ここまでは。
だがこの後に激しい苦みと、フリスクのような清涼感と、そして直球の中毒症状である麻痺が順を追って襲いかかって………こない!?
勝った……!!
苦さも痺れもスースー感といった毒素(ブフォトキシン)の存在を感じさせる感覚は一切ない。
むしろ、しっかりと鶏肉に通じる類の旨みを感じることができる。「おいしい」と言っていいレベルの味わいだろう。
少々の泥くささはあるものの、そんなものは毒に比べれば取るに足らないものである。
素晴らしい。やはり毒の由来は肉を覆う皮にあったのだ。
人類の知恵と勇気がオオヒキガエルの毒を克服した瞬間である。
……はい、そうです。三十代の人間ですが知性でカラスに負けました。今後はおカラス様を崇めながら生きていこうと思います。
↑今回の記事のまとめ動画。苦悶と喜びの様子は臨場感あふれる動画で見ればいいよ。
ヒキガエルに続いてカラスにも敗北するおっさんの無様な姿を見ればいいよ。
たしかにカラスメソッドによってオオヒキガエル肉を無毒化することができた。
ただし!食べられるとはいっても「食用ガエル」なる異名をもつウシガエルと比べれば、味のよさでも可食部の量でもおよばないというのが正直なところである。
危険性や捕獲〜処理の手間を考慮すると、広く食用とするにはまったく不向きであろう(オオヒキガエルは特定外来生物に指定されており、生きたままの輸送が禁止されている)。
オオヒキガエルから日本在来の自然を守るためには、地道な駆除と他地域への拡散防止に努める必要がある。
少なくとも「食べて駆除!」などという夢物語めいたことは、とても言えそうにない。
というわけで、ついにオオヒキガエルの食べ方を編み出すことに成功した。しかし、絶対にマネはしないでほしい。ちょっとでも手順に不備があれば毒が肉に移る可能性は十分にあるからだ。そもそも、毒液を分泌する系の有毒生物をむやみに触ること自体が推奨できない。
カエルが食べたい人に向けては、あらためてウシガエルを強くおおすめします。
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