特集 2021年4月15日

猛毒の外来種『オオヒキガエル』の食べ方をカラスに教えてもらった

石垣島には『オオヒキガエル』という中南米原産の毒ガエルが帰化している。

ウシガエルのように大きく肉づきがよく。どうにか食用になりそうなものなのだが、ふつうに捕まえて食べると悶絶するほどマズい。というか、中毒して舌や口が痺れる。

しかし試行錯誤の末、この度ついに彼らをおいしく食べる方法を発見するに至った。
それでは聴いてください…「オオヒキガエルの食べ方」。

※でも危険なので絶対に真似しないでください。

1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

前の記事:日本一大きいクワガタ『ツシマヒラタクワガタ』を捕まえたい!

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

本当にヤバいタイプの外来生物

オオヒキガエル。それは日本の離島で「無敵」と呼ぶにふさわしい猛威を振るう存在である。

実は本サイトでも、過去にレポート(野外観察&食レポ)をしているのだが、あらためて少しだけこのカエルの凄さをお話しさせてほしい。

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オオヒキガエルはボディーだけで15センチほどになる大型のヒキガエル。厚みと幅もあるので、そのボリューム感と迫力は圧巻。

かつてオオヒキガエルはそのタフネスと貪食ぶりを評価され、サトウキビ畑の害虫駆除を目的に中南米から石垣島や大東島、小笠原などに持ち込まれた。

ほどなく目論見どおりに野生化してくれたのだが、当然のようにサトウキビ畑の外にも拡散、害虫に限らずあらゆる昆虫、小動物を滅ぼさんばかりに食いはじめた。
いわゆる「マングースパターン」だ。

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皮膚が厚く頑丈。そして動きはカエルにしては鈍重で簡単に捕まえられる(※素手で触らないように!)

しかも彼らはカエルのくせにやたら皮膚が分厚く、乾燥にも潮風にも強い。繁殖力も非常に旺盛。

極めつけは親ガエルからおたまじゃくし、卵に至るまで生涯を通じて体に神経に作用するタイプの強毒「ブフォトキシン」を備えている。

そのため、島には彼らを捕食する生物もいない。地球の裏側で生まれた天然毒への耐性など、南西諸島の動物がもっているはずもないのだ。

うっかりオオヒキガエルを食べた在来のヘビ、あるいは飼い犬や猫が食いついて中毒死する事故も起きているという。

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昆虫だけでなく小型の爬虫類や哺乳類さえも捕食対象となる。「カエルに睨まれたヘビ」は実現しうるのだ。

本来、さまざまな動物に狙われるかよわい存在であるカエル。なのに弱肉強食の自然界で「強食」を強引にキャンセルされたのでは、もとから島に生息している動物たちはたまったものではない。完全にレギュレーション違反である。

「だが、我々ヒトなら、人間ならばその叡智をもってしてオオヒキガエルを食すことができるのではないか?」
そう思い立って果敢に挑み、ガッツリ中毒して散ったのが三年前である。

↓※顛末を動画にまとめたので、過去記事を読むのがめんどくさい人はこっちを見るべし。


その際の手順としては石垣島で捕獲し、①その場でシメて大きな毒腺のある上半身を切除。②下半身のみ持ち帰り、③皮を剥いで調理

と、わりと手の込んだ処理を行ったものの、結局は肉まで強烈な毒の苦味とミント菓子のような謎のスースー感に侵されていた。

しかも、それを無理して食べたら舌や口腔が痺れてお腹をこわすというガチ中毒をやらかしたのだ。

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いやーシビレたね。そのままの意味でシビレた。

 

「二度とこんなヤバイもん食うか!」と誓った三週間後、僕はまた石垣島の林道に立っていた。

ああ。また食うぜ。
ただし今度は「ヤバくない」状態にしてからな!!

…勝算があった。
前回のチャレンジを終えた直後にオオヒキガエルに関する、とある驚くべき学術的な研究結果が世に出たのだ。

石垣島と同じくオオヒキガエルが帰化しているオーストラリアでは近年、なんとカラスがこの毒ガエルたちを捕食するようになったというのだ。

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カラスが…?俺は、人類はカラスに負けたのか…?(主語を大きくして自分の失態を煙に巻く作戦)

もちろん昔はカラスたちもオオヒキガエルには手出しができなかった。だが、鳥類の中でもとびきり賢いとされる彼らは、オオヒキガエルの毒を無効化する食べ方を開発したのである。

なるほど。…OK、それパクるわ。
おーい、カラスの創意工夫を剽窃する恥知らずな人類がここいにいるぞ。「人類の叡智」とか言っていたのはなんだったのか。

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余談だが今回はサキシマハブにも遭遇。

しかし件の研究によると、まずカラスたちは①オオヒキガエルを生きたまま捕らえ、②クチバシで下半身の皮を剥き、③毒腺から離れた後脚の肉だけをついばむのだという。

…うーん、なんかあんまり前回の僕が踏んだ手順と変わらないような。
だが、よくよく考えると決定的に違う点がある。

カラス師匠は捕獲した「その場で皮剥ぎ」を行なっているのだ。一方のザコ人間は皮をつけたまま、悠長にクーラーボックスへ詰めて持ち帰ってから調理していた。

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前回は現場で解体まではしたものの、皮はつけたまま持ち帰った。これか…!

ここや!きっとこのわずかな手順の違いが、味と毒性に決定的な差を生み出しとるんや!
三週間後にまた石垣島へ来てください、本物のオオヒキガエル肉を食わせてやりますよ!!!

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オオヒキガエルのメインウェポンは頭部の大きな毒腺から発射される乳白色の毒液である。
しかし、実は皮膚にも「それと比べればわずかであるが」しっかり毒を有しているという。

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毒腺から毒液が分泌される様子。これを舐めると尋常でなく苦い。あと痺れる。

おそらく、前回の敗因はこの皮に含まれる毒の量を甘く見ていたことなのだろう。
あまりにも派手に毒液が噴き出すものだから、頭部の毒腺にばかり気を取られた結果、皮の処理がたしかにおざなりになっていた(皮をつけたまま輸送してしまった)。

というわけで今回はカラス先生にならって捕獲したその場で皮を剥ぐまでの工程を済ませた。

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発泡スチロール箱に大量の水とジップロック(廃棄物入れを兼ねる)を入れて携行し、簡易台所とする。毒腺や頭、内臓などの廃棄部位に加え、血やそれを洗った水も持ち帰って処分した(放置すると野生動物が口に含む可能性があるため)。

ただし、野外でヒキガエル肉を生で食らうほどの野性にはなりきれない。調理は冷蔵して自宅へ持ち帰ってから行った。

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見た目にはほとんど変わりないが、きっと成分には違いが出ている…はず。

今回捕獲したのは一個体のみ。ゆえにメニューはできる限り素材の味や素材の毒を損なわないものが望ましい。
というわけで、煮汁へ旨みや毒素が逃げないよう蒸し物にした。

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この場合、蒸すのがベストだと判断。
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蒸しオオヒキガエル。なぜか「フシギバナ」という単語が頭をよぎったが大丈夫であろうか。

…なんとなく彩り豊かに盛りつけてみたが、かえって毒々しさを強調してしまっているような。
ふとももからふくらはぎにかけての人間っぽいラインも、より鮮烈ななまめかしさ。

まあ見た目なんて二の次だ。今回こそオオヒキガエルと決着をつけよう。…いただきます!!

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さあどうだ!

ムッチリ、プリッとした歯触り…。ここまではいいんだ、ここまでは。
だがこの後に激しい苦みと、フリスクのような清涼感と、そして直球の中毒症状である麻痺が順を追って襲いかかって………こない!?

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アッ!おいしいぞ!?

勝った……!!

苦さも痺れもスースー感といった毒素(ブフォトキシン)の存在を感じさせる感覚は一切ない。

むしろ、しっかりと鶏肉に通じる類の旨みを感じることができる。「おいしい」と言っていいレベルの味わいだろう。
少々の泥くささはあるものの、そんなものは毒に比べれば取るに足らないものである。

素晴らしい。やはり毒の由来は肉を覆う皮にあったのだ。
人類の知恵と勇気がオオヒキガエルの毒を克服した瞬間である。

……はい、そうです。三十代の人間ですが知性でカラスに負けました。今後はおカラス様を崇めながら生きていこうと思います。

↑今回の記事のまとめ動画。苦悶と喜びの様子は臨場感あふれる動画で見ればいいよ。
ヒキガエルに続いてカラスにも敗北するおっさんの無様な姿を見ればいいよ。
 

「食べて駆除」なんてのは無理そう

たしかにカラスメソッドによってオオヒキガエル肉を無毒化することができた。
ただし!食べられるとはいっても「食用ガエル」なる異名をもつウシガエルと比べれば、味のよさでも可食部の量でもおよばないというのが正直なところである。

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こうして見るとウシガエルって本当に食材として優秀なカエルなんだなあ。

危険性や捕獲〜処理の手間を考慮すると、広く食用とするにはまったく不向きであろう(オオヒキガエルは特定外来生物に指定されており、生きたままの輸送が禁止されている)。

オオヒキガエルから日本在来の自然を守るためには、地道な駆除と他地域への拡散防止に努める必要がある。

少なくとも「食べて駆除!」などという夢物語めいたことは、とても言えそうにない。


※でもマネはしないでね!

というわけで、ついにオオヒキガエルの食べ方を編み出すことに成功した。しかし、絶対にマネはしないでほしい。ちょっとでも手順に不備があれば毒が肉に移る可能性は十分にあるからだ。そもそも、毒液を分泌する系の有毒生物をむやみに触ること自体が推奨できない。

カエルが食べたい人に向けては、あらためてウシガエルを強くおおすめします。

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そもそも素手でさわるな!っていうとこからですよね。すみません。
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